環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページ生物多様性危機にも求められる迅速な「実行」

2023年06月15日グローバルネット2023年6月号

読売新聞記者
山波 愛(やまなみ あい)

5月22日は「国際生物多様性の日」だった。生物多様性条約の本文採択から30年以上経過したが、土地利用変化や汚染、気候変動や外来種の侵入などを直接要因に生物多様性の危機は続いている。

今年のテーマは「合意を実行に。生物多様性を取り戻そう。」。新型コロナ流行による度重なる開催延期を経て昨年12月、生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)でようやく新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」が採択されたことを受けている。

前身の「愛知目標」は20の個別目標のうち、完全達成された目標はないと評価された。2030年までの残された時間で問われているのは、設定された目標に向けての行動だ。気候危機と同様に生物多様性危機も勝負の10年に突入している。

ネイチャーポジティブの機運

GBFでは、2030年までに失われゆく自然を回復に向かわせるための緊急の行動をとることがミッションに設定されている。陸・海の少なくとも30%を保全する30 by 30など、23の個別目標が掲げられている。

生物多様性の損失を食い止め反転させる意味の「ネイチャーポジティブ」は、カーボンニュートラルに続く世界的な潮流とされ、ビジネス、金融業界からの注目度も高まっている。

私たちにとって不可欠な水や食料は、豊かな生物多様性に支えられた自然の恵みによってもたらされている。企業の事業も自然に依存しており、生物多様性の損失は企業活動も危うくする。このような認識が共有され、生物多様性に配慮したネイチャーポジティブ経済の実現を志向する動きとなっている。

日本は国家戦略策定

危機感や国際的な動きを背景に、今春は国内でも「生物多様性」に関連するさまざまな話題、ニュースがあった。

採択されたGBFを反映し、政府は3月に生物多様性国家戦略を策定した。ネイチャーポジティブ実現に向けて、社会経済の変革を基本戦略の一つに挙げ、目標や関連施策をまとめている。施策の一つとして、環境省は5月まで民間の取り組みで生物多様性が守られている場所を「自然共生サイト」とする認定申請を一次募集した。

エネルギーや気候分野の成果が目立ったが、日本が議長国を務めた4月のG7気候・エネルギー・環境相会合で「ネイチャーポジティブ経済アライアンス」が設立された。ネイチャーポジティブ経済への移行に向けて、企業の情報開示の在り方などを議論していく。

保全の「実行」の現場は…

自然共生サイトに相当する場所を含め、生き物を相手にする生物多様性保全には労力を要し、時に文字通り泥臭い作業を強いられる。資金と人手が限られる中でNPOやボランティアらによる地道な活動で守られてきた生態系は多い。

昨年から今年にかけて取材した国内の保全の現場では、条件付特定外来生物に指定されたアメリカザリガニが猛威を振るっていた。胴付長靴を履いて池に入り、わなを仕掛けては駆除する作業の繰り返しだ。一度個体数を減らしても、捕獲をやめると再び増えてしまうため継続が求められる。

同行してカメラを構えているだけで汗だくになる猛暑日に作業が行われれることもあった。世界気象機関は、人為起源の温暖化とエルニーニョ現象が始まる影響で、今後最も暑い5年間を迎えると分析している。野外活動に支障が出る場面は今後増えてくるだろう。担い手の高齢化が進み、活動を続けていくことに不安を抱える団体もある。

生物多様性は気候変動と相互に影響し合うにもかかわらず、比較すると注目度が低く資金動員も少ないと指摘されてきた。生物多様性を取り巻く追い風が現場を支え、ネイチャーポジティブ実現という結果につながることが期待されている。

愛知目標とそれに連動した国家戦略では認知度を測る指標もあったが、目標値を下回った。認知度向上に向けたメディアの責務も心に留めたい。

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