続・世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する環境団体第9回 アジアのカワウソ保全について

2023年04月14日グローバルネット2023年4月号

京都先端科学大学 バイオ環境学部 教授
大西 信弘(おおにし のぶひろ)

私は2016年に、ミャンマーの南部タニンダーリで野生のビロードカワウソと出会うことがありました。野生のカワウソというと、人のいない豊かな自然環境を想像されるかもしれません。しかし、ビロードカワウソが暮らしていたのは、近くに漁村もあり、漁場としても活用されているような環境でした。野生のカワウソが比較的アクセスの良いところに生息していることに驚き、ミャンマーのカワウソ研究を始めました。

●カワウソの現状

カワウソは、世界に13種が生息し、食肉目イタチ科カワウソ亜科に属します。IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでは、13種のうち12種が、準絶滅危惧もしくは、絶滅危惧にランクされていて、世界的に保全活動が展開されている分類群です。

現在、アジアには、ユーラシアカワウソ、スマトラカワウソ、コツメカワウソ、ビロードカワウソ、ラッコの5種が生息しています。すべての種で、個体数は減少傾向とされています。主な要因は、生息地の減少・劣化、密猟などです。動物園やカフェ、SNSでよく知られているコツメカワウソは、東南アジア・南アジアに生息するカワウソで、日本には分布していません。過去にはニュースでも報じられたように、コツメカワウソの密輸で少なくない日本人が逮捕されています。日本の密輸の状況やカワウソカフェ、個人飼育などが世界的には問題視され、ワシントン条約(CITES:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)では、コツメカワウソは以前は商取引が可能とされていましたが、2019年に商取引が禁止されるに至りました。

●ミャンマーでの分布聞き取り調査

ミャンマーは、生物多様性の豊かなところで、WWF(世界自然保護基金)、WCS(野生動物保護協会)、FFI、OIKOSといった保全でメジャーな国際NGOやローカルNGOがさまざまな野生生物の保全活動を展開しています。しかし、ミャンマーでは、トラやゾウ、サイなど、野生生物があまりに豊かすぎて、カワウソの保全にまで関心が届いていませんでした。主なNGOを訪れてカワウソについての情報を探したのですが、カワウソの同定も十分には行われていないような状況で、カワウソが生息していることは知っていても、保全対策を講じるには至っていませんでした。

ミャンマー国内では、COVID-19のまん延防止のために国内移動も大きく制限されていました。そのような中、シャン州のインレー湖で聞き取り調査を2021年9月に行いました。先述のように、ミャンマー国内のカワウソ類の分布情報すら十分ではないのが現状です。インレー湖にカワウソがいるということを住民から聞いてはいましたが、インレー湖周辺にどのカワウソが分布しているかは明らかでありませんでした。今回、インレー湖の村でカワウソの頭骨が見つかり、ビロードカワウソの頭骨であることが明らかとなりました(写真①)。これはシャン州でのビロードカワウソの初記録となります。

写真① ミャンマー・インレー湖周辺の村で見つかったビロードカワウソの下顎(左)と上顎(中央)の骨

聞き取り調査によると、1990年頃にカワウソ類の目撃があること、以前は村の家(インレー湖では湖の中にも村がある)に忍び込み魚、鶏、アヒルが被害にあっていたこと、カワウソの被害に対して駆除を行っていたことが記録されました。ミャンマー南部でもビロードカワウソは村に出没していたといわれていますが、シャン州でも人里に住む身近な野生動物であったことがうかがわれます。

●スマトラ島でのカワウソの野生復帰

カワウソがペットとして飼われているのは日本だけではありません。2021年の8~9月にインドネシアの SUMECO (スマトラ・エコプロジェクト) とインドネシアで違法飼育されている野生動物のレスキューを実施しました(写真②)。インドネシアでは、カワウソ類を含む多くの野生動物の保全に対して法的な裏付けを得ることができない中、団体の方針として保護を行っています。調査期間中には、コツメカワウソが売り出されていることも確認できました。SUMECOは、ペットとして飼育されているユーラシアカワウソ、コツメカワウソを引き取り、今回ユーラシアカワウソ1頭、コツメカワウソ3頭を保護することができました。野生復帰には、復帰させる環境の決定など課題が残されており、その間、飼育用のケージで飼育中の世話、給餌などのノウハウを蓄積することができました。

写真② インドネシア・スマトラ島での野生動物レスキュー活動で保護されたユーラシアカワウソ

●円山動物園での啓発活動

日本には、カワウソ類ではラッコが生息しています。ラッコは、一時は北海道から姿を消してしまいましたが、現在では北海道でも繁殖が確認されています。しかし、こうした日本のカワウソの情報よりも、もしかするとコツメカワウソのほうが日本では有名かもしれません。そして、かわいいことで有名であるがため、密輸にもつながってしまっています。

今回、札幌市・円山動物園の協力を得て、カワウソに関する啓発ポスターを、園内のコツメカワウソの展示スペース近くに展示していただきました(写真③)。13枚のポスターには、アジアに生息する5種のカワウソの紹介などの基本的な情報、ミャンマーのビロードカワウソの生態写真、カワウソの飼育に必要とされている環境条件(飼育が困難であることの紹介)などを紹介し、さらに野外調査に関する3分45秒のビデオを作成し放映しました。展示はCOVID-19による活動自粛のため、当初予定していた2021年8~9月には行えず、2021年10月に実施しました。

写真③ 円山動物園で展示されたカワウソに関する啓発ポスター

●現地での啓発活動につながる活動 ~継続を模索

他の団体の方々の指摘もあることですが、助成を受けて現地で活動が実施されることは、現地での大きな啓発活動につながっていると実感されます。また、2022年にはInternational Otter Survival Fund(国際カワウソ生存基金)主催の東南アジアのカワウソ保全のワークショップで、ミャンマーのカウンターパートがミャンマーのカワウソについて報告しました。本助成がミャンマーのカワウソ保全活動の萌芽期を支えたといえるのではないかと思っています。ミャンマーでは政情不安が深刻さを増している中、現地のカウンターパートたちは次の活動をどうするか検討を重ねています。どのような環境問題も、待ったなしで進んでいくからです。これもまた、活動をされている方々が指摘されている通り、なんとかして継続していきたいと考えています。

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