環境条約シリーズ 370国連気候変動枠組条約 COP27

2023年01月16日グローバルネット2023年1月号

前・上智大学教授
磯崎 博司

国連気候変動枠組条約の第27回締約国会議(COP27)が、エジプトのシャルム・エル・シェイクにおいて2022年11月6日から開かれた。会期は18日までであったが、特に「損失と被害」および「化石燃料の段階的削減」に関する意見対立が解消せず、結局20日まで延長された。

「損失と被害」の議論は、海面上昇による水没の危機にひんする小島しょ国がこの条約の策定過程において補償を求めたこと(30年前)に端を発する。COP19においてワルシャワ国際メカニズムが設置されたが、それはカンクン適応枠組みの下に位置付けられた。そのため、開発途上国はその独立化と支援基金を求めてきたが、先進国は法的責任や補償には反対していた(本誌14年2月、16年2月20年4月21年12月)。しかし、22年前半に世界各地で気象災害が発生したこともあり、先進国は、条件付きで(支援対象国の限定、拠出国・機関の拡大)、損失と被害に関する基金の設立に合意した。ただし、その条件の具体化と基金の制度設計は23年のCOP28に先送りされた。

他方で、先進国は、温室効果ガスの排出量が急増している新興国(中国やインドなど)に、COP26合意の「1.5度目標」に向けて排出削減を加速するよう求めた。それに対して、1.5度は義務ではないとして新興国は応じず、削減の加速どころか1.5度目標の後退も懸念された。最終的に、COP26の関連決定の文言の再掲が合意されて1.5度目標は維持されたものの、COP26に続く進展は見られなかった。

同様に、COP26合意の「石炭火力の段階的削減」を更に進めて、「全化石燃料の段階的削減」を最終文書に明記する旨の提案は、産油国の強い反対で実現しなかった。しかも、最終文書には、削減のための重要な手段として再生可能エネルギーとともに「低排出エネルギー」が明記された。その定義は示されていないため、二酸化炭素の排出が相対的に少ない化石燃料の使用が拡大継続してしまい、排出削減対策の「抜け穴」となることが懸念されている。

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