特集/ストックホルム会議から50年~日本社会へ、若者からの提言生物多様性条約COP15、その先へ
2022年10月17日グローバルネット2022年10月号
一般社団法人 Change Our Next Decade 代表理事
矢動丸 琴子(やどうまる ことこ)
Stockholm+50を振り返る
2018年からこれまで、自然共生社会の実現に向けて若者として活動してきたが、いつも気に掛かっていたことは、他の環境関連の課題と比較して生物多様性に関する危機意識や重要性の認知度が低い点であった。本誌2021年6月号の特集「生物多様性回復のために ~愛知目標からの10年とこれからの10年に向けて~」への寄稿でも記したように生物多様性の認知度や危機感は低く、今回参加したStockholm+50会議(以下、S+50)でも、私のこの「気掛かりなこと」は起こった。
初日の第1回本会議の冒頭、ハイレベルの方々からのあいさつで、多くの方が現在地球が直面している3つの危機(気候変動、生物多様性の損失、汚染)に言及していた。しかし、生物多様性の損失に関する具体的な言及や、COP15、ポスト2020枠組などについての発言を聞くことはほとんどなかった。対して、第5回国連環境総会再開セッション(UNEA5.2)の決議を受けたプラスチック汚染に関する言及や、気候変動、COP27に関する発言はやはり多く感じた。S+50の成果が直後に開催された国連海洋会議につながることを期待する言及はあったものの、海洋に関しても生物多様性という観点では具体的な言及は特になかったように思う。
上述した点は、個人的に正直、がっかりしたポイントであるが、その一方で、若者の参画が強調されていた点は喜ばしく思えた。会議の全体を通して若者がその存在感を示し、自分たちの意見を堂々と発信していた。特に、Leadership dialogueでパネリストとして登壇したウガンダの若者の「指導者の皆さんの発言は素晴らしかったけれど発言だけでは十分じゃない」という発言はその通りだと感じた。
世界中の多くのリーダーはさまざまな場面で、理想的で素晴らしいことをスピーチの中で述べている。S+50のダイアログの中でもそれは実際に感じられた。しかし、その中のどれだけのリーダーが、今後の未来を案じて「本気で」「具体的に」行動に移してくれるのだろうか。今必要なのは、地球の3つの危機に対する具体的な対策の強化・促進であり、会議場で理想論を述べることだけではない。多くの若者が同様のことを考えているのではないだろうか。
若者の活躍は彼女の発言にとどまらなかった。今回の会議のために組織されたS+50ユースタスクフォースが作成した提言書を基に、ペルーの若者もLeadership dialogueで発言をした。彼女の発言の中で印象に残ったのは、「コロナからの復興に世代間の連携は不可欠です。私たち若者はここにいます。加盟国の皆さんに有意義な行動を起こすことを要請します」であった。
世代間衡平性を訴えるあまり、時として、「大人」対「若者」という構図ができてしまうことも多々あるが、本当に必要なのは彼女の訴えのように、世代間で分断・分裂することではなく、連携し、一つしかない私たちの地球の持続可能性を高めていくことではないだろうか。
適切な情報普及と他分野連携の必要性
S+50を終え、生物多様性の保全・回復に向けて活動している身として今後必要なことについて模索すると、大きく分けて2つのことが考えられた。
一つ目は、私のずっと「気掛かりなこと」である、生物多様性の認知度や現状理解の度合いの低さを打破していくことである。2022年2月に日本の若者1,000名を対象とした生物多様性への意識に関する調査を弊団体で実施した(COND(2022) 生物多様性ユースレポーター2021年度活動報告冊子、p.8~9)。その中で、生物多様性に対する印象などを聞いたところ「具体的な現状や課題について理解している」「生物多様性に関する情報にふれる機会がある」「保全に関する行動を起こしやすい」の回答者が少ない結果となっていた。つまり、多くの若者が、「生物多様性はそもそもなじみのない難しいものである」と捉えていることがうかがえ、さらに情報に触れる機会が少ないという現状がこのような事態を加速させていると考えられる。しかし、適切な情報普及とは、生物多様性が危機的であること、もしくは大事であることについて一方的に発信することではない。関心が低い人であってもなじめるような、ハードルを下げたコミュニケーションを推進し、入り口を広く構えて徐々に関心を高めてもらうような取り組みが重要である。情報の受け手の多数派であろう、生物多様性に関心が少ない人の立場に立って、彼らに受け入れてもらえるような働き掛けをしていく必要があると考えている。
二つ目は、他分野との効果的な連携の促進である。ここでいう他分野は特に気候変動分野のことを指している。気候変動は生物多様性と関連が深く、相互に強く依存している。そのため、気候変動対策だけ、生物多様性保全だけ、とどちらかだけに偏った対策を行うのではなく、互いの取り組みを知り、活動者同士で意見を交わし、共に目指す共通の目標に向けて行動を加速させていく必要がある。他分野連携については国際的にも注目度が高く、実際にS+50の中でも、生物多様性条約、気候変動枠組条約、砂漠化防止条約の3条約の実施における相乗効果についてのサイドイベントが開催されていた。そのような背景も踏まえ、私たちは生物多様性分野で活動を行う日本の若者として、気候変動分野との連携をしていく必要がある。
現在は、S+50に共に参加したClimate Youth Japanの代表者と議論を重ね、行動を起こそうと計画を練っている。若者の視点での生物多様性と気候変動の連関について、今後開催される気候変動枠組条約や生物多様性条約の締約国会議の内容も踏まえて、効果的な解決策を打ち出していきたい。
生物多様性条約COP15
生物多様性領域では、2022年12月に「生物多様性条約第15回締約国会議(以下、COP15)」が開催される。Covid-19の影響を直に受けてしまい何度も延期が繰り返された結果、やっと開催することが決定した。COP15では、次期世界目標であるポスト2020生物多様性枠組(以下、ポスト2020)が採択される予定である。関係者にとっても意義深く大きな一つの節目となる重要な会議だ。
このポスト2020には現在20数個の目標案があるが、その中には「意思決定への衡平な参加、先住民族、女性、若者の権利確保」に関するものが独立して設定されている。生物多様性を回復させ、自然と共生したより良い社会を築いていくためには、世代間も含めて、さまざまな関係者が連携して行動を起こしていかなければならない。いわゆる社会的弱者としてくくられてしまっている若者、女性、先住民族グループは、人と自然の関係のバランスが崩れたときに真っ先に影響を受け、生活や命が脅かされる危険性が高い。その危険を最も認識しているのは「当事者」たちであるため、世界的な枠組を制定するのであれば、無視することのできない存在である。
このような現状から、次期世界枠組の一つの目標に「当事者」の視点を盛り込むことは非常に意義深く、理にかなっているといえる。特に、前身の「愛知目標」では、独立した一つの目標として若者や女性、先住民族グループの意思決定への参加を明記したものは存在していなかった。あらゆる分野での社会の動きや働き掛けによって、より当事者の声が政策の場に届きつつある現状が実現されてきたように思う。
しかし、その一方で、若者、女性、先住民族グループの視点を盛り込んだ目標を設定するだけではなく、実際にその目標を達成させるための仕組みや体制作りが強く求められる。また、実態を伴わないにもかかわらずユース参画に配慮したように見せかけた取り組み(ユースウォッシュ)などにも注意を払い、是正していくことが必要である。