フロント/話題と人森田 釣竿さん(鮮魚店「泉銀」店主、ロックバンド「漁港」ボーカル)
2022年07月15日グローバルネット2022年7月号
「日本の食文化を魚に戻し鯛!」
~町の魚屋から魚の魅力を全力で発信~
「1匹自分でさばいてみなよ」。調理場から包丁とまな板を持ち出した店主に目の前でイワシを三枚におろしてもらった夫婦は、その手元をスマホで動画に収め、「やってみます」と1本お買い上げ。「水族館が好き」という5歳くらいの息子は包んでもらったイワシを手に大喜び……ある日の千葉県・浦安の住宅街にある鮮魚店「泉銀」での光景。森田さんはこの店の三代目だ。
かつては漁師町だった浦安だが、その魚市場は老朽化や後継者不足などにより2019年3月に閉場。入居していた鮮魚店の多くが廃業したが、泉銀は住宅街の一角で新たなスタートを切った。大型スーパーの進出などにより、「町の魚屋さん」はどんどん姿を消している。魚食に関する意識調査では魚が「好き」「やや好き」と答える人は約9割に上り、健康への効果なども理解されているのに、「骨があって調理も食べるのも面倒」などと敬遠されるように。20年ほど前までは肉類を大きく引き離していた年間一人当たりの消費量も2011年には初めて肉を下回り、以降落ち込んでいる。
泉銀では日本各地から仕入れた魚はなるべくそのまま並べ、客には自分でさばくよう勧める。「自分で調理するのが一番おいしい。それに、海の恵みを、命を頂いているんだから食べ残してはいけないという大事なことも感じることができる」と森田さん。旬の魚は何か、どんな調味料や調理法が合うか、「そんな会話も魚屋の醍醐味」と全力でお客さんに話し掛ける。
森田さんはロックバンド「漁港」のボーカルでもある。20代半ばの頃、父親から継いだ店も音楽活動もどちらも客足が伸びず将来について悩む中で、仕事とバンドをミックスした独自のジャンルを思い付いた。魚や海にちなんだ曲を、ねじり鉢巻きにゴム長靴という漁師スタイルで歌う。ライブではマイクを包丁に持ち替えマグロの解体を披露するなど、その奇抜で豪快なパフォーマンスに魅了されるファンも多い。合言葉は「日本の食文化を魚に戻し鯛!」だ。
4月に初の著書『魚食え!?コノヤロー!』を出版(時事通信社、1,600円+税)。水産大国だった日本がその姿を変えつつある中、町の魚屋とライブハウスから、日本の食文化に直球で喝を入れる。48歳。(絵)