環境条約シリーズ 363漁船の安全のためのケープタウン協定

2022年06月15日グローバルネット2022年6月号

前・上智大学教授 磯崎 博司(いそざき ひろじ)

 

船舶の安全については海上人命安全条約(本誌2008年8月)が存在するが、漁船は構造・操船などの面で大きく異なるので、その対象ではない。漁船については、1977年にスペイン・トレモリノスで国際漁船安全条約(SFV 1977)が採択されていた。しかし、技術的理由によりその発効が難しくなったため、1993年にSFV 1977を改正する議定書(SFV 1993)が採択された。ところが、その附属書において全長による船舶区分に基づく段階的規制が定められていて、同じ長さでも容積の小さいアジアの漁船には不利なため、やはり発効には至らなかった。その間も漁船の海難件数は減らず、国連食糧農業機関・国際労働機関・国際海事機関が協力して漁船安全綱領や任意指針を定めているものの、法的な国際安全基準のない状態が続いている。

それを受けて国際海事機関は見直しに着手し、2012年にSFV 1993を改正するケープタウン協定を採択した。その附属書は、構造、復原性、防火・消火、救命設備、無線通信、航海設備などに関する規則の実施、既存船への漸進的実施、定期検査および国際漁船安全証書の発給などを定めている。締約国は、特定の場合・条件に従い自国漁船に対してこれらの義務を免除できる。また、船舶区分ごとに全長に相当する総トン数(24mは300トン、45mは950トンなど)も示されており、アジア漁船の不利は解消された。

本協定には、安全基準の向上と海難の減少に加えて、違法・無報告・無規制(IUU)漁業の阻止、漁業資源の保全、公正な漁獲条件の整備、海洋への汚染やゴミ(漁網・漁具などのプラスチック)の減少、海難救助要請への対応負担の減少、また、海の奴隷(拉致・監禁・強制漁労)の撲滅への貢献も期待されている。本協定は、対象漁船(24m以上)を合計で3,600隻以上有することとなる22ヵ国以上による締結の後12ヵ月で発効する。2022年5月時点の締結国数は17だが、アジア諸国の参加により23年の発効も予測されている。そのため、日本では、22年3月に本協定の承認案が閣議決定され、国会に提出された。

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