フォーラム随想

2022年06月15日グローバルネット2022年6月号

日本エッセイスト・クラブ理事
森脇 逸男

 兵庫県に住んでいる息子と、いつもメールでやりとりしている。
 先日はこんなメールを送った。
 「山口県阿武町から間違って振り込まれた新型コロナウイルス対策関連給付金4630万円を返さず、姿を消した男がいる。山口県出身者として誠に恥ずかしい。」
 すると、息子からは、
 「別に山口だからって恥ずかしがることもなし」
という返事が来た。続けて、
 「日本はお金が一番の人ばかりになっちゃったのですよ」
と教えてくれた。
 まあ、その意見に別に反対はしないが、小生、もともとの本籍は、山口県の岩国で、父親が大阪で弁護士をしていたため、生まれたのは兵庫県の西宮、父が亡くなって、小学校2年生の時に山口県山口市に移り、以後旧制山口高校の1年を終えるまで、山口に住んでいた。今も「防長倶楽部」の会員だ。
 従って、山口県にはそれなりの郷土意識がある。山口人の変な振る舞いは困ったものだと思うし、恥ずかしい。
 その男、報道によると、振り込まれた金の全額をオンラインカジノに使っていて、カジノ側から町に返金されることになったということで、まあ、よかったよかったの結末だが、「恥ずかしがることもない」という息子の意見は、やはりいささか引っ掛かる。

 

 そこでどうしても意識してしまうのは、やはり山口人で、長くわが国の宰相を務めた某氏のことだ。もう総理を辞めて2年近くになるが、いまだに事あるごとに、「モリカケ(森友学園、加計学園)」と批判され、からかわれる。書類改ざんに関わった末端の職員が自殺までした深刻な問題があるのに、某氏は知らぬ存ぜぬで通してしまった。
 もうひとつ「桜を見る会」というのもあった。税金で開催される桜を見る会に、恥ずかしげも無くおのれの支援者を招待する。問題になると招待者名簿をシュレッダーにかけて破棄してしまう。権力の座にいれば、何をしても構わないと思っていたのではないかという印象を受ける。他人事ながら、この徹底した恥知らずぶり、誠に恥ずかしい限りだ。
 最近指摘されているのは、その某氏が、あの悪名高いロシアのプーチン大統領と親しく付き合っていたとのことだ。まあこの問題は、北方領土問題その他、当時はロシアを敵視するわけにはいかず、親しくするのは、日本の国益のためでもあって、今の段階で問題にするわけにはいかないと思う。
 しかし、そういった事情を抜きにして勝手な想像をすると、このお二人、結構意気投合して、仲良く付き合うことができたのではないかと思ったりする。いやほんとに勝手至極な想像でごめんなさい。

 

 勝手な言い分ついでにもう少し言わせてもらおう。
 プーチン、本当にひどい男だ。「戦争ではなく軍事作戦だ、相手はネオナチだ」と勝手な理屈を並べて、隣国に攻め込んだ。非戦闘員で民間人の女性や子供にも容赦なく弾丸の雨を降らせ、都市は廃墟と化した。言論の自由などどこ吹く風。反戦を唱える国民は牢獄に。
 しかし、それでも勇気ある国民はいないではない。ジュネーブのロシア国際機関代表部顧問のベテラン外交官は、プーチンのウクライナ侵攻について「ウクライナのみならずロシア人に対する極めて深刻な犯罪だ」、またロシア外務省について「嘘と憎しみと戦争をあおっている。もはや外交を行なっていない」と自身のSNSに投稿して外務省を辞任した。ロシアにも本当に恥を知る男がいたわけだ。
 「ウクライナの戦地に行きたくない」という兵士からの相談が弁護士に殺到しているという。ウクライナ軍の頑強な抵抗もプーチンにとっては予想外だったのだろうが、この際、「折れるは一時の恥、突っ張るは末代の恥」ということで、プーチンさん、折れたらいかがでしょうか。誰も「折れるなど、ああ恥ずかしい」なんて言いませんよ。

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