持続可能な社会づくりの模索 ~スウェーデンで考えること第6回 岐路に立つ拡大生産者責任法~発生抑制や資源循環にどこまで役に立てるのか
2022年05月17日グローバルネット2022年5月号
ルンド大学 国際環境産業経済研究所 准教授
東條 なお子(とうじょう なおこ)
拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility:EPR)は、廃棄物処理・資源循環促進政策を支える概念として1990年代より経済協力開発機構(OECD)諸国で広く取り入れられ、その活用は非OECD諸国にも広がっている。EPRは、環境負荷を製品の設計段階で削減し得る生産者に、自社製品の廃棄段階に関する責任を負わせ、製品の川下のみならず川上での取り組みと併せて、川下での環境負荷を減らそうとするものである。概念の活用が始まって30年が経った今、欧州連合(EU)や加盟国、生産者に課された義務内容を生産者に代わって取りまとめる組織(Producer Responsibility Organisation:PRO)等、公私双方の諸機関が、EPRのこれまでを振り返りつつ今後を模索している。今回は、その中でもEPRが他の諸政策とともに発生抑制や資源循環に果たしてきた役割と、現時点での問題点について考察する。
分別回収は大きく前進
EUでは、1994年施行の容器包装・廃容器包装指令実施のための加盟国の国内法に始まり、2000年以降相次いで出された廃車指令(2000年)、廃電気・電子機器指令(2002年)、電池・廃電池指令(2006年)において、EPRを基本概念の一つとしている。具体的な法内容は、責任を課される主体が生産者かそれ以外(自治体、小売業者等)かも含めて加盟国の国内法ごとに異なるが、有害物質の規制とともに、廃製品の一定の回収率やリサイクル率の達成義務、処理手法、金銭的負担の分担等が定められている。
製品や加盟国間で違いはあるものの、EPR導入後格段に良くなったのは分別回収である。例えば、EU統計局によると、廃電気・電子機器指令の場合、2015年まで国民一人当たり年間4㎏だった回収目標を達成した国は、指令全面施行翌年の2006年時点では記録のある20ヵ国中半数の10ヵ国のみだったのが、2018年には、32ヵ国中28ヵ国となり、数値も大幅に増えている(図)。各国間で消費量に著しく差のある欧州で絶対値の目標を掲げることの可否はさておき、回収のインフラが向上したことは間違いなく、電気・電子機器以外の分野でも、EPR法が資源循環に肝要な第一歩に大きな役割を果たしたといえる。
進められてきたのは再使用ではなくリサイクル
しかし、資源循環は分別回収のみでできるわけではなく、回収された廃製品やその構成部品・素材が再度有効利用されて初めてその輪が閉じることになる。回収された廃製品はどうなっているのだろうか。
EPRのこれまでの運用の問題点として、リサイクルに重きが置かれ、廃棄物政策・資源循環政策双方において優先順位の高い再使用や修理・修繕がおざなりにされてきたことが挙げられる。製品の川下段階での諸活動への生産者の関与が、既存のリユース市場を脅かすことは、例えば本誌368号の拙稿で紹介した繊維製品に関するEPR導入の議論の中でも一大論点であった。容器包装の分野でも、空き瓶の再使用はリサイクル率に含まれず、再使用に関しては数値目標がないため、リサイクルより再使用の方が進んでいても、取り組みが評価されない、という問題があった。
EUでは廃電気・電子機器の場合、中古市場には手を付けず、分別回収され、一度廃製品となった機器の、再使用のための準備(Preparation for reuse)という概念が2012年の改正で導入された。製品の修繕等をして再度市場に出す業者の回収廃製品へのアクセスの確保を義務付ける国内法も現れた(例えばフィンランド)。だが、再使用のための準備にまわる廃製品の量がEU統計局に初めて全面的に現れた2019年の値をみると、再使用のための準備にまわる廃製品の量はリサイクルにまわるもののわずか2%にとどまる。
リサイクル材の量や質、行方は無チェック
さらに問題なのは、リサイクルにまわった廃製品から出される素材の質や行方が不明確なことである。欧州の大多数の国では、容器包装に関しては回収率がそのままリサイクル率として使われているが、例えばスイスの場合、政府公表の「リサイクル率」と現実のリサイクル率とは、紙の場合で35%以上も開きがあることが2016年に出された論文で検証されている※①。電気・電子機器についても2018年の法改正まで、リサイクル率を計算する際の分子は、リサイクル施設から出てきたリサイクル素材の重量ではなく、リサイクル施設に持ち込まれる廃製品の重量だったのである。つまり、回収された廃製品でリサイクルにまわるもののうち、リサイクルできない部品等は外されるものの、それ以外はすべてリサイクル率に数えられていたことになる。回収された廃電気・電子機器のリサイクル率(回収後整備されて再使用にまわるものも含む)は、2018年時点のEU27ヵ国平均で76.5%(映像・オーディオ機器、太陽光パネル)から89.5%(自動販売機)と、おおむね高いが、このうちどこまで再資源として有効活用されたのかは不明である。さらに、例えばレアメタル等リサイクルの必要性の高さは考慮されない、廃製品全体の重量に基づくリサイクル率の設定も問題視されている。一部の金属を除いてリサイクル材の質に関する基準がないのも、ずさんなリサイクルを招き、生産者のリサイクル材使用をちゅうちょさせる一因にもなっている。
川上での発生抑制は?
冒頭に述べたとおり、EPRの概念の特徴として、川下のみならず川上でもさまざまな取り組みを行うことにより川下・製品ライフサイクル全体での環境負荷を下げることが挙げられる。だが、EPR導入が、生産者が川上での取り組みを行うような動機付けに本当になっているかについては、それを肯定する研究もある一方で、懐疑的にみる人が増えてきている※②。スウェーデンでの繊維製品に関するEPRの法案にみられるように、EPRの川上への影響可能性を立法段階でないものとしてしまうことすらある。この一因として、回収率やリサイクル率等、川下での達成状況が数値的に表せるのに対し、川上での取り組みは、設計変更からもたらされる資源効率の向上を数値化することが難しく、定量的に表せないことが挙げられる。また、生産者が自らの作った製品の回収、再使用・リサイクルへの責任を負う、という、いわゆる個別責任の現実の実施の難しさも挙げられる。
資源循環の輪を閉じられるか
課題の多いEPRだが、既存の法律ではリサイクル率算出方法の改正がなされ、現在検討中の廃電池規則案では、リサイクル材使用義務率や素材別のリサイクル達成義務率が入れられる等、新たな動きもいろいろみられる。初期の運用では使用時の省エネのみに焦点を絞っているという悪評の高かった、2005年施行のいわゆるエコデザイン指令でも、資源効率について徐々に基準を設け始めている。諸政策の新たな動きが実質的な資源循環につながるのか、正念場である。