ホットレポートリユース×お弁当配達だからこそできるソーシャルキャピタル~第1回ホットスフォーラム
2022年05月17日グローバルネット2022年5月号
グローバルネット編集部
今年2月20日にオンラインで開かれた「第1回ホットスフォーラム」では、新しい社会活動として注目されているこの事業の概要と意義が紹介された。
地域の課題解決にも役立つリユースお弁当箱
開会のあいさつで、スペースふう理事長の永井寛子さんが「コロナ禍に見舞われ、すべてのイベントが中止となり、リユース食器の出番がなくなった一方、テイクアウトで使用される使い捨てお弁当容器のプラスチックごみがものすごい勢いで増えました。そこで、お弁当容器のごみを減らすこともスペースふうの役割ではないか、地域の課題解決にも役立つかもしれないと思い、ホットスの事業を始めることになりました」と新事業に踏み切った理由を説明した。
続いて事務局長の長池伸子さんが、自らの育児経験を踏まえて事業について紹介した。「地域には、休みたくても休めない産後のお母さん、子育て中で悩みを抱えて苦しんでいるお母さんがいます。『誰に相談したらいいのかわからない、自分のことを大切にしてくれる人がいない』という声は、行政や専門家がいるにもかかわらず壁があり、つながりにくい状況が生じています。そんな時、少しでもほっとする時間を届けられたら、そのしんどさをほぐせるのではないかと思い、この事業を始めました」。
ホットス事業は国の休眠預金活用事業の一つとしてスタートした。対象エリアはスペースふうの拠点がある同県富士川町(人口1万4,000人)。産後4ヵ月ぐらいまでのお母さんなどを対象に、同県南アルプス市にある協力団体Public houseモモのメンバーが栄養バランスや利用するお母さんのアレルギーにも気を配って作った食事を、自己負担1食100円で10回までを上限に、リユースお弁当箱を使って届けている。
助け合う人の心も循環させたい
お弁当はあずま袋と呼ばれる手ぬぐいで作られた袋に包まれて届けられる。
「袋には、助け合う人の心も循環させたいという気持ちを込めています。新しい意味でのおせっかいを、お母さんたちがしんどくなる一歩手前に届けたい」と長池さん。「誰が受け取りに行くのか、返すのが面倒くさい、といったリユースお弁当箱の弱みこそがホットスの大事な要素になっています。『受け取りに行くことでまた会える』という関係がホットスの強みになっているように、ごみ問題を解決するだけでなく、人をつなぐという強みが加わることで、リユースに新たな価値が生まれるのです」と強調した。
リユース食器が持つ新しい時代の新しい可能性
エンパブリックは環境や福祉、地域づくりなどの社会起業家を育成するため、地域のコミュニティと情報をつなげる仕事をしています。
多くの人が頭の中でいろいろなアイデアを持っています。それを自分の言葉で外に出して、面白がって聞いてくれる人と「もっと話そうよ」としゃべってみる。そうすると、「周りの人も困っているんだ」「こんなことを考えているんだ」と対話が深まり、仲間ができ、ビジョンが生まれ、多くの人と分かち合える。
これが社会の変化です。新しいことが始まると、潜在的なニーズが見えてきます。お弁当を届け始めると「私も利用したい」「実は私も困ってます」といった声が上がってくる。出会うはずのなかった人たちが出会い、そのつながりを広げ、仕組みとして定着させ、継続していくことが大事になります。この事業は「リユースお弁当箱がつなぐ地域デザイン事業」と説明されています。地域のつながりをつくることが、リユース食器の持つ新しい時代の新しい可能性だと思います。
20世紀の経済の前提には「均質、大量、効率化、集中、一方向」という価値観があり、「手間を掛けたら駄目」、「人件費と時間がかかるので、いちいち回収するのは無駄」と考えがちでした。しかし、これからの持続可能な経済には、自分が食べているものはどこから来て、ごみはどこでたい肥化され、どこの畑で肥料として使われているのか、自分が使った食器は誰が洗っているのか、という「体感できる循環」といった価値観が求められます。
ホットスは食事提供がゴールではありません。リユースお弁当箱の持つ可能性はすごく大きく、届けて回収することで2回は利用者に会える。回収に行くと、「ご飯がおいしかった」「子育てに困っている」などしゃべる機会がありコミュニケーションが深まる。お母さんたちは、ご飯を食べるだけでなく、環境に良いことに関わっていると感じ、視野が広がる。洗浄や回収のこともわかるので感謝の気持ちも湧いてきます。
ホットスがさらに発展して地域課題を解決していくために、利用者がほっとした後に、一歩踏み出せる環境を作ることが必要です。コミュニケーションをして、「この街には助けてくれる人がいる」と思えるような関係づくりができると、外に声が出せるようになる。そこで、配達や回収の人の聞く力、機会や専門職につなぐ力が大事になってきます。そのような一歩踏み出せる環境づくりが地域デザインにとって大切です。
持続可能な地域づくりの始まり
コロナ禍でリユース食器のレンタルが減って苦労している中、何かできないかと一歩踏み出しこの事業を始めたように、スペースふうには「自分たちが持っているものを見直して一歩進める」というロールモデルになってほしいと思っています。
いろいろな人たちが集まって一緒に悩むことができる。これがソーシャルキャピタルです。それが生きていくための心強さになるし、何とか次のステップに進むために足を止めないことになる。「どれだけ効率的に処理できるか」という世界の中で、地域で課題を分かち合い、手間をかけてコミュニケーションを取ることで、地域で循環が生まれる。それがSDGsにつながるということがスペースふうの可能性だと思います。
持続可能な地域づくりに取り組んでいくネットワークが広がってきています。ホットスがゴールではなくてここから始まるのです。どうすれば山梨県が、もっと人びとが助け合い、子育ても大変ではない持続可能な社会になるのか。ここからそういう話し合いが始まっていくと良いと思います。
※ 当日の動画はhttps://youtu.be/9Jf9zo6fB2w で視聴可。