続・世界のこんなところで頑張ってる!~公益信託地球環境日本基金が応援する環境団体第3回 住民の雇用につながる保全活動を~ヒョウと人との関わりから共存を考える

2022年04月15日グローバルネット2022年4月号

京都大学 アフリカ地域研究資料センター 特任助教
山根 裕美(やまね ゆみ)

 

野生動物と人びとの関わりを考えるというテーマで、2006年より調査を開始した。目指すのは、人びとと野生動物の共存である。とりわけ野生動物と強い関わりを持って生活を営んできた牧畜民の生活している地域で、変わりゆく野生動物と人の関わりから、これからの「持続的」な野生動物保全を考えるという課題に取り組んでいる。調査・活動は、ケニアの政府機関である、ケニア野生生物公社(Kenya Wildlife Service、以下文中KWS)とともに実施してきた。

そんな中、世界的なCOVID-19の波を受け、ケニアでも2020年3月に初の新型コロナウイルス感染症感染者が報告された。3月下旬になり商用航空便の運航が停止されたことで、観光立国であるケニアに観光客が「0(ゼロ)」という状況が訪れた。人びとの生活は変化し、野生動物保全は新たな局面を迎えている。

●ケニアにおけるヒョウの現状

ヒョウ(Panthera pardus)は、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで2016年より絶滅危惧種に指定され、絶滅の危惧が増大している種である。その中でも、ケニアに生息するヒョウは、アフリカヒョウ(Panthera pardus pardus)という亜種に分類されており、生息地の減少に伴う個体数減少が危惧されているものの、個体数や分布は明確とはなっていない。首都ナイロビを含め、広範囲に分布していると考えられる。IUCNによるケニア内のヒョウの分布地図を見ると、牧畜民が生活している場所と重複してヒョウやライオンといった大型ネコ科が生息していることがわかる。このことから鑑みても、牧畜民と大型ネコ科の関係性を知ることが、今後の持続的な保全の肝になる。

●変わりゆく野生動物と人びとの生活

ケニアでは、長年、野生動物と人びとは、生活の場を共有してきた。野生動物は特別な存在ではなく、「いる」ことが、当たり前の存在であった(写真①)。ところが、人口や家畜頭数が増加するにつれて、共有の場の密度が高くなり、人びとと野生動物の距離が以前に比べて近くなった。近くなったことで、野生動物による人身被害や家畜被害、農作物被害など人びとの生活に負の影響を与える頻度が高くなったのである。

①マサイの人びとと野生動物の距離

あるマサイの60代女性は「人と野生動物の関係が変わってきている。私が若い頃は、人びとはゾウなどの野生動物を見掛けると、そっと避けて、ゾウと出会わないようにした。今の若い人たちは、大きな音を立てたり、石を投げたりして追い払うから、野生動物たちも、凶暴になっている」と述べた。子どもたちが、年長者と過ごす時間が減ってきていることも、野生動物と暮らしてきた知恵を伝承していく場を失う原因の一端を担っている。

●害獣対策

家畜被害は死活問題に発展する場合も多い。ナイロビ国立公園南側のマサイのお母さんは、シングルマザーで3頭の牛を飼い、毎朝ミルクを絞り、それを売って生活費にし、子どもの学費も工面していた。ある雨の夜、牛が襲われた。毎日ミルクを出すメスの牛が、ライオンに殺されてしまった。彼女は、これからどうやって生きていけばいいのか途方に暮れ、「ライオンが憎い」と思ったという。その一方で、近所の年長者が「野生動物が家畜を襲わなくなったら、疫病がはやると信じている」、「家畜も野生動物も神様が創ったもの、野生動物が家畜を襲うのも自然なこと」と話しているのが印象的であった。野生動物と人びとは、長い年月をかけて関係を築き上げてきたのである。

しかしながら、害獣対策を全くしなければ、人びとと野生動物のあつれきは深刻化する一方である。そこで、調査・活動の一環でKWSと協働して、保全的移殖(Conservation translocation)を実施してきた。害獣として捕獲されたヒョウにGPS首輪を装着している(写真②)。多くの場合が、捕獲された地域から200km以上離れた、条件の良い国立公園に移動させる。優先される条件は、①食肉目の個体数密度が低く、②面積が大きい国立公園であること、③国立公園の周りに大きな町や集落が少ないことなどが挙げられる。加えて、捕獲されたヒョウの性別、年齢によって判断される。

GPSを装着することで、移殖したヒョウが新しい場所に適応するかどうかのモニタリングが可能となった。実際には、ヒョウは単独性でテリトリーを持つ動物であり、害獣として捕獲後に移殖することは容易なことではなく、それは生息地の減少にも関連している。

②害獣として捕獲されたヒョウにGPS を装着

●保全を仕事に(地域の人びととの試み)

このように野生動物との共存が難しくなる中で、地域コミュニティにとって野生動物の価値を見出せない場合も多い。保全活動そのものがお金を生み出し雇用を創出することができれば、野生動物に新しい価値を付加し「持続的な保全活動が可能になるのではないか」と考えた。

COVID-19の影響で、観光客が「0(ゼロ)」になり、家畜のマーケットが閉鎖され、さらに2021年は雨が降らず家畜はやせ細った。牧畜を生業とする人びとにとっては厳しい時期が続いた。感染症による影響や、天候に左右されず、毎月安定した収入を得ることができたら。また、それが野生動物と関わることや保全活動による雇用や収入だったら。人びとは野生動物とうまく共生していくことができるのではないかと、新たな保全プロジェクトを立ち上げた。

写真③は、地域の人びとが持つ野生動物に関する知識を利用して、フィールドに自動撮影カメラを設置し、撮影されたヒョウの写真である。この地域ではヒョウがいることは経験的に知られていたものの記録されたのはこれが初めてであった。

研究者にとってもなかなかフィールドに入れない時期が続いた。地域の人たちとの協働がこれからの保全研究・活動には必須である。地域の人の雇用につながり、保全が促進されるようまい進したい。新規プロジェクトについてもまた報告させていただきたいと思う。

③地域の人と共に設置するカメラに写ったヒョウ

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