気候危機を悪化させるバイオマス発電~1.5℃目標との整合性を問う~FITが支える大規模輸入バイオマス発電
2022年03月15日グローバルネット2022年3月号
NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク 理事長
泊 みゆき(とまり みゆき)さん
しかし、伐採後の林地残材の分解、木材の加工および輸送、燃焼といった各段階で排出されるCO2の合計は、化石燃料よりも多くなることが複数の研究により明らかになっています。木質バイオマスを発電のために燃やすことで、気候危機が悪化する恐れがあるのです。
今回の特集では、木質バイオマスのエネルギー利用が有効な気候変動対策にならない理由と森林保全の必要性について、2つの講演録を紹介し、日本のFIT制度ではバイオマス発電をどのように位置付けるべきか、考えます
FITバイオマス発電の問題点
再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の目的は、環境負荷の低減、わが国の競争力の強化・産業の振興、地域の活性化である。FIT制度におけるバイオマス発電の現在の問題としては、①FITバイオマス発電の認定量の約9割が輸入バイオマスを主な燃料とする一般木質バイオマス発電の区分である(図1)②パーム油や全木ペレットなど、持続可能性の問題のある燃料が使われている③輸入バイオマスはエネルギー自給にならず、地域への恩恵が限られ、遠距離を輸送することからライフサイクル温室効果ガス(GHG)排出量がより多い傾向にある④FIT制度の輸入バイオマス発電を支えるため、8兆円を超える国民負担が予想される⑤新規認定はほとんど増えない見込みだが、700万kW以上の既認定案件をどうするか、といった点が挙げられる。
今後、北米からの木質バイオマスの輸入急増が見込まれる。米国の木質ペレットには生物多様性に富む湿地林を皆伐した木材が使われたり、マイノリティーの人びとの住宅近くに大規模なペレット工場が建設され、騒音・粉じんなどの被害をもたらしたりしている。カナダでは原生林がペレット原料用として州政府に伐採許可された。
バイオマス発電とパリ協定の目標との整合性
2021年度の経済産業省バイオマス持続可能性ワーキンググループ(WG)において、バイオマス発電のGHG基準が提示された。2030年のエネルギーミックスを想定し、化石燃料を使う火力発電の加重平均(180g-CO2/MJ電力)を比較対象として、今後新規に認定されるバイオマス発電のGHG排出を、2030年までに50%削減、2030年以降は70%削減することを求めるというものである。既認定案件に対しては努力義務である。
このGHG基準の最大の問題点は、今後のバイオマス発電の新規認定案件はほとんどないにもかかわらず、700万kWを超える既認定案件については努力義務としている点である。既認定案件をカバーしなければ、意味がない。
また、2030年以降70%減(54g-CO2/MJ電力)という値は、例えば、国際エネルギー機関(IEA)の持続可能(SD)シナリオ(27.154g-CO2/MJ電力)の2倍である(図2)。SDシナリオは、パリ協定の目標を達成するために世界で達成される必要があるとされる値であり、つまりこれよりも高い基準ではパリ協定の目標を達成できない。パリ協定の目標達成に整合しないバイオマス発電を、国民負担で支えるというのは疑問がある。2040年においても化石燃料をゼロにはできない以上、再生可能エネルギーは、より少ない排出量である必要がある。
また、森林と一言で言っても、自然林と人工林では炭素蓄積に違いがある。例えば、IPCCガイドラインによると、米大陸地上部のバイオマス量は、20年以上の自然林と20年未満の人工林では、約3倍の差がある(図3)。
自然林を伐採して人工林にした場合(森林劣化)、この差のCO2は大気中に放出されたままということになる。木質バイオマスを燃やすとCO2が排出されるが、熱量当たりの排出量は石炭よりも多い。米東海岸からの木質ペレットを利用するバイオマス発電のGHG排出量に燃焼から生じる排出量を含むと、発電効率の差もあり、石炭火力より4割以上多くなる(図4)。
座礁資産化リスク
今回経産省のWGでバイオマス燃料のGHG基準が提案されたことは前進だが、まだ課題は多い。特に、木質バイオマス燃料はパーム油のように詳細な持続可能性基準が規定されていないので、その策定も速やかにされる必要がある。
森林が伐採された場合、それが再生されるかどうかは、数十年以上たたないと確定しない。検証する方法も難しく、再生されなかった場合の扱いも複雑になる。従って、当面FITのような政策的に支援するバイオマスのエネルギー利用は、原則として持続可能な木材利用の廃棄物、残渣、副産物に限るのが妥当ではないか。
こうしたことを考えれば、森林を伐採したバイオマスが真に温暖化対策として有効か大きな疑問がある。FITのパーム油発電には厳しい持続可能性基準が課され、パーム油の国際価格上昇もあって事実上、座礁資産化した。森林由来の木質ペレットを燃料とする発電も、いずれそうなるリスクがあると考えられる。