ホットレポート持続可能なサーキュラー・エコノミーへ プラスチック新法の課題

2022年02月15日グローバルネット2022年2月号

WWFジャパン プラスチック政策マネージャー
 三沢 行弘(みさわ ゆきひろ)

「プラスチックのライフサイクル全般での3R(リデュース、リユース、リサイクル)+Renewable(再生可能素材)によりサーキュラー・エコノミーへの移行を加速する」ことを目的に、2022年4月1日、プラスチック資源循環法(以下、新法。環境省特設ページ参照)が施行される。ついてはこの新法に関連し、主要な課題を指摘しつつ解決策を示していく。

目指す到達点が不十分

新法は、G20大阪サミットで宣言された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」に基づき、追加のプラスチックの海洋流出ゼロの達成期限を2050年としている。対して2030年の持続可能な開発目標SDGsのターゲット14.1において、あらゆる種類の海洋汚染を防止、大幅に削減するための期限は2025年である。既に世界の海洋には1億5,000万トンのプラスチックが存在し、さらに推定で年間1,100万トンが新たに流入している。2050年には海のプラスチックの重量が、魚を上回るとの予測もある。日本ではごみ排出量に対する流出の割合は比較的小さいとされるが、それでも推定のプラスチックの海洋流出量は年間2~6万トンに達する。ここには、日本を含む先進国においてプラスチック製品よりも流出量が大きいと推定される、原料の製造から製品使用過程で発生する一次マイクロプラスチックや、少なくとも海洋プラスチックの1割を占めるとされる漁具の流出は、含まれていない。このように深刻な海洋流出の根絶を30年後に先送りすることは許されない。率先して日本がプラスチックの流出を2025年までに大幅削減、2030年までに根絶することを目指すことで、世界における流出根絶目標を2050年から大幅に前倒しさせる議論をリードすることが期待される。なお、世界のプラスチックの年間生産量は既に4億トンを突破し、2050年には18億トンになると予測される。日本の年間生産量は1,000万トン超と世界有数であり、大量生産したものを大量消費、大量廃棄することで、当然に流出する絶対量も高止まりすることになる。また、新法でも「2050年カーボンニュートラルの実現」方針が示されているが、プラスチックは、原料である原油採掘から製品製造、熱回収を含む焼却など廃棄物処理に至るライフサイクル全般で、温室効果ガスCO2を多く発生させる。予測通り2050年に世界の原油使用全体に占めるプラスチックの割合が20%に達するのであれば、プラスチックが地球温暖化加速の大きな要因となり、この観点からもプラスチックの大量生産を継続すべきではない。

また新法では「プラスチック資源循環戦略」に基づき、2030年までにワンウェイ(使い捨て)プラスチックの累積25%排出抑制等のマイルストーン(目標)を設定している。しかし2050年カーボンニュートラルを実現しつつ、環境への流出根絶を2030年へと前倒しするためにも、各目標の引き上げや期限前倒しが求められる。排出抑制目標を更に積み上げるためには、これまでの薄肉化や軽量化主体の取り組みでは限界があり、新法で規定されている環境配慮設計においても、容器包装無しでの提供やリユースを可能とすることを最優先するべきである。

実効性の担保や責任分担が不十分

新法では、一部に勧告、公表、命令といった規定はあるが、強制力がない努力義務規定が中心であり、実効性に疑問が残る。また、指定12品目の特定プラスチック使用製品を消費者に有償で提供することは、消費者への意思確認と並び、数ある合理化(削減)策の一つに過ぎない。レジ袋の事例では、ポイント還元の励行といった方法では長年横這いであった辞退率が、有料化によって一気に跳ね上がったことからも、有料化が削減に有効な手段であることは明らかである。大量の必要不可欠ではないプラスチックを確実に減らすために、容器包装リサイクル法(容リ法)対象の過剰なプラスチック包装等も含め、より幅広い品目を特定した上で、有料化義務化や提供禁止等の規制を導入することを要望したい。

また、現行の容リ法では、市町村が分別収集したプラスチック容器包装につき、指定法人に再商品化を委託し、製造・利用事業者にその再商品化費用の一部負担を義務付けている。一方、新法では、市町村が新たに分別収集することになるプラスチック容器包装「以外」のプラスチック使用製品廃棄物についても、容リ法の指定法人に再商品化を委託することとなるが、この費用は、事業者ではなく市町村が負担することになる。製品の設計から消費後の段階までライフサイクル全般に渡り金銭的責任を含む責任負担を、自治体や納税者から生産者に移転することで、廃棄物総量の削減や資源循環を促進し、環境負荷を低減するという「拡大生産者責任」の原則に沿って、最低限、再商品化費用の負担を事業者に求めるべきである。

傘となる「基本法」策定の必要性

原則として、プラスチック容器包装も含め、プラスチックが使用されている製品すべてが新法の対象となる。しかし、プラスチック容器包装は、削減対象の特定プラスチック使用製品から除外されている。また、プラスチック製の漁具流出への対策は漁業系廃棄物処理ガイドラインで示されているが、十分ではない。更に、一次マイクロプラスチックついては、海岸漂着物処理推進法で抑制の努力義務が規定されるにとどまる。これらの課題を解決するためには、プラスチックに関する問題全体を俯瞰し、明確かつ意欲的な目標を有した「基本法」を早急に制定し、その下で網羅的で実効性のある法制度を整備していくことが求められる。

WWFジャパンは2021年2月に他の22団体と共同で、2030年までに自然環境へのプラスチックの流出ゼロ、及び、使い捨てプラスチック使用の原則ゼロを実現し、遅くとも2050年までに新たに生産したバージンプラスチックに依存しない社会を築いていくための戦略を推進するための「脱プラスチック戦略推進基本法(案)」を発表している()。

「持続可能なサーキュラー・エコノミー」への移行に向けて

冒頭で述べた通り、新法はサーキュラー・エコノミーへの移行を目指している。日本政府はサーキュラー・エコノミーを「従来の3Rの取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す」経済活動と定義し、大量生産・大量消費・大量廃棄からの脱却を意図している。WWFは、上記の基本的な考え方に「成長という概念を再定義する」、「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)の範囲内で機能させる」、「自然環境へのプラスのインパクトをもたらし、社会全体に便益をもたらす」という視点を加えたものを「持続可能なサーキュラー・エコノミー」と位置付けている。

早期に持続可能なサーキュラー・エコノミーへと移行していくためにも、上記のような基本法で、包括的なビジョンと、より意欲的な目標を前倒しで設定した上で、総合的に実効性のある法制度を整備、推進していくことを、政府に求めていきたい。

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