環境条約シリーズ 358ICCAT条約改正議定書
2022年01月17日グローバルネット2022年1月号
前・上智大学教授
磯崎 博司
マグロ類の多くは過剰にまたは満限まで漁獲されており、資源枯渇が懸念されているものもある。そのため、世界のマグロ類は、沿岸国および漁業国により構成される5つの地域漁業管理機関(RFMO)によって保存管理されている(本誌2004年6月、2021年7月)。
そのうち、大西洋全域(地中海を含む)を対象範囲にしている大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)は、大西洋マグロ類保存国際条約(ICCAT条約:1966年採択、69年発効)に基づいて設置された。大西洋は日本のマグロ漁業にとって重要な海域であり、実際、日本漁船が2018年に全世界で漁獲したクロマグロとメバチマグロのうち、その大西洋での漁獲量は約30%を占めていた。
2019年11月18日から25日にパルマ・デ・マヨルカ(スペイン)で開かれたICCAT第26回通常会議において、ICCAT条約を改正する議定書が採択された。なお、ICCAT条約は、これまでに1984年(EUなど経済統合機関の参加)と92年(分担金算出基準の変更)に2回改正されている。
今回の改正は、まず、ICCAT条約の対象となる魚種を拡大するとともに、それらを総称してICCAT種と定めた。具体的には、従来のマグロ類(カツオ、マグロ、カジキ)に加えて、サメやエイなどの海洋性・表層性・高度回遊性の板さい類を追加した。というのは、マグロ漁業に際してこれらの板さい類が多量に混獲されており、それらの生息状況に懸念が示されていたためである。次に、条約の解釈・適用に関する紛争が生じた際の紛争解決の仕組み(第10条および附属書Ⅰ)を新設した。さらに、ICCATの関連活動に台湾が漁業主体として参加できるようにするための規定(附属書Ⅱ)を新設した。
この議定書の発効要件は締約国の4分の3以上の締結であるが、それはまだ充足されていない。なお、国内では、この議定書は、2021年3月5日に閣議決定、6月4日に国会承認、7月30日に受諾書の寄託を経て、8月4日に公布された(条約第10号)。