特集/IPCCシンポジウム報告 IPCCシンポジウム/気候講演会「気候変動を知る ~最新報告書が示すこれまでとこれから」<講演1> IPCCの概要、今期の活動及び今後
2022年01月14日グローバルネット2021年12月号
IPCCインベントリータスクフォース 共同議長
田辺 清人(たなべ きよと)さん
本特集では、10 月末に開催されたIPCC シンポジウム/ 気候講演会「気候変動を知る~最新報告書が示すこれまでとこれから~」(主催:環境省、文部科学省、気象庁)における、IPCC から公表された最新の報告書の内容や、日本の気候変動に関する最新の知見に関する講演の概要を紹介します。なお、すべての講演動画及び発表資料は特設サイトにてご覧いただけます。
IPCCの概要
IPCCは1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が設立した国連の組織で、現在195ヵ国が加盟しています。人間が引き起こす気候変動に関する科学的、技術的、社会経済学的な情報や研究成果を世界中から集めて評価しています。IPCCの報告書は政策に関わるものですが、政策を規定するものではないということが大原則になっています。
気候変動の自然科学的根拠については第1作業部会(WGⅠ)、気候変動の影響や適応・脆弱性は第2作業部会(WGⅡ)、気候変動の緩和については第3作業部会(WGⅢ)が担当しています。温室効果ガスの算定方法を扱うインベントリータスクフォースがあり、事務局機能を果たす技術支援ユニットは日本の地球環境戦略研究機関(IGES)に20年以上置かれており、日本はIPCCに大きく貢献してきたといえます。
この30年の間に5回、気候変動に関する総合的・包括的な科学的・技術的情報をまとめた評価報告書を発表し、その後の国際的な政治の枠組みの大きな進展につながっています。現在は第6次評価報告書(AR6)を作成中で、これがどういった形で国際政治に反映されていくかが今後注目すべきポイントになります。
第6次評価期間の活動について
2018年10月に『1.5℃の地球温暖化に関する特別報告書』が発表されました。人間の活動により工業化以前からすでに約1℃の気温上昇が起きたと推定されることが特定され、1.5℃と2℃の気温上昇の違いについて、最新の科学的知見をまとめています。最近多くの国が2050年、2060年までにCO2や温室効果ガスのネットゼロを宣言していますが、この報告書の影響が大きかったといえます。
2019年8月には『気候変動と土地に関する特別報告書』が発表されました。気候変動と砂漠化や土地の劣化、食料安全保障の関係を論じており、食生活における選択に影響を与える政策が温暖化対策に有効であることを示しています。
2019年9月には『変動する気候下での海洋と雪氷圏に関する特別報告書』が発表され、海水の酸性化の進行や、グリーンランド及び南極の氷床の消失等が確認され、漁獲可能量の減少や海洋生態系の損失により、人間にとって重要な海洋の価値が今後損なわれる恐れがあるという警告もしています。
『2019年改良版温室効果ガスインベントリーガイドライン(方法論報告書)』は2019 年5 月に発表されました。この報告書は、各国政府が温室効果ガスの排出量・吸収量をより精度高く計算することを可能とし、パリ協定の透明性枠組み強化にも貢献することが期待されています。
これらの主要な報告書の作成以外にも、IPCCは専門家会議等も開催しています。2020年12月にはIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)とワークショップを共催しました。生物多様性保全と気候変動の緩和・適応の間の相乗効果やトレードオフの関係に焦点を当て、どうしたら人類と地球への便益を最大化できるかについて議論を深めました(WEB サイトより報告書のダウンロード可)。
2022年にかけて次々と発表される第6次評価報告書(AR6)
第6次評価期間も残すところAR6の完成を待つばかりとなっています。AR6は最新の科学的知見を基に三つのWG報告書と統合報告書(SYR)から成るものです。WGⅠ報告書は2021年8月に承認され、2022年にはWGⅡが2月中旬、WGⅢが3月下旬、SYRが9月下旬に完成し、発表される予定です。
その後、2023年春に予定されているIPCC第58回総会で新たなビューローメンバー(議長団)の選挙が行われ、新体制の下で第7次評価期間が始まります。その活動計画は新体制の下で決定される予定ですが、『気候変動と都市に関する特別報告書』と『短寿命気候強制因子(SLCF)排出量計算の方法論報告書』の二つの報告書を作成することはすでに決まっています。