シンポジウム報告 日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)オンライン国際シンポジウム カーボンニュートラル実現のラスト10年 ~循環型社会を目指す日中韓の現場から
〈韓国・光州広域市〉
ネットゼロに向けた光州広域市の挑戦

2021年11月15日グローバルネット2021年11月号

韓国農民新聞社・農業農村研究センター
金 基弘(キム ギホン)さん

 国際社会は、21世紀半ばの温室効果ガスの排出ネットゼロに向けて動き出し、日本、中国、韓国の3ヵ国も、具体的な目標を提示して取り組みを急いでいます。しかし、気候変動のスピードはますます加速しており、今後10年に抜本的な行動変革を起こさなければ手遅れになるといえます。
 本特集では、日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)が、関西・大阪21世紀協会の支援を受け、「ネットゼロ」、「地域循環」、「低炭素農業」をキーワードに、日中韓3ヵ国の記者による取材を進め、10月30日に開催した国際シンポジウム「カーボンニュートラル実現のラスト10年~循環型社会を目指す日中韓の現場から~」でも報告された現場情報を紹介します(2021年10月30日、オンラインにて)。

 

韓国南西部の光州広域市は、気候変動対策でもいち早く住民型持続可能な再生可能エネルギーの転換などを進めている。ネットゼロ目標の設定では、中央政府の目標より5年前倒しした2045年と宣言し、注目を集めている。

同広域市は、人口144万3,154人(2021年)の地方都市で、製造業を中心にさまざまな産業が進んでいる。ネットゼロの実現に向けて、2030年に目標の45%削減、40年に同77%削減、45年にネットゼロ(100%)を達成する目標を掲げる。事例から具体策を探る。

事例1:都市部のグリーンマンション建設

「カーボンニュートラルは、日常生活の中で実践することが重要だ」。南区にある922世帯が入居する団地を管理する住宅幸福支援センターの高 在得コ ゼトクセンター長。住民らが7年前から、自発的に電気とガス、水を節約し、食品廃棄物を削減してきた経験を紹介する。

センターは毎月、低炭素グリーンマンションに指定された団地の全世帯の電気、ガス、水の使用状況を精査している。使用量の急激な増減を確認し、異常が見つかった場合、関連する家庭を訪問し、現場確認を行う。家庭の電気、ガス、水道の使用が急に増加すると、世帯数が増えているか、家庭に漏電や漏水が発生した可能性がある。逆に使用量が大幅に減少した場合、一人暮らしの高齢者が病気などで困っている可能性がある。「福祉の観点からも、エネルギーと水使用量のチェックが重要だ」という。

この管理を通じて、団地の電気、ガス、水道の使用量は年々減少し、低炭素グリーンマンション指定の全国1,000ヵ所の中でも、トップ5にランクインした。高氏は「2020年には、コロナ禍で住民が自宅で過ごす時間が長くなり、電気、ガス、水道の使用量は増加したが、日常生活が回復すれば再び減少するだろう」と自信満々だ。

団地では最近、市のグリーンコンサルタント支援を受け、食品廃棄物のゼロ化にも挑戦している。グリーンコンサルタントは、冷蔵庫の整備から市場での買い物、料理、ごみの分別収集まで教育し、食品廃棄物を最小限に抑えるノウハウを伝える。担当の李 南淑イ ナムシュク氏は「1週間のレシピを作り、必要な食品のみを購入し、食べ残しで土づくりに役立つミミズを飼育するよう勧めている」と紹介した。さらに団地では、雨水の利用、廃食用油でのせっけん作り、月1回の消灯などの活動も進めている。

同広域市は、気候変動対策の一つとして、2010年から「低炭素グリーンマンション建設プロジェクト」を進め、2019年までの10年間で約1,273億㎏のCO2を削減した。これらの実践経験が、同広域市が韓国で最初にカーボンニュートラル都市を発表する契機となった。

事例2:村こそ再生エネルギー転換の最適拠点

「エネルギー転換は、村単位で進めるのが最も効率的だ」。東区で村のエネルギー転換を支援する村エネルギー転換支援センターの車 龍文チャ ヨンムン代表。同広域市は2021年、村単位で使用する化石エネルギーを再生可能エネルギーに転換する5ヵ所を優先的に選定したが、その一つがこのセンターだ。

センターは、約3,300世帯、8,000人の村民を対象に意識向上、古い住宅の基盤調査・改修の指導などを行っている。村民の意識向上では、各世帯のエネルギー消費を記録し、自主的にエネルギーを削減することが柱となっている。その一環として、センターには、省エネを体験するさまざまな実験装置が装備されており、一種の生活研究所としての役割を果たしている。

センター講師の林 汝勲イム ヨフン氏は、「太陽光、風力、小水力などのエネルギーは身近な所にある。これらのエネルギーがどのように電気や熱に変化するかを示すことで、電気代の節約だけでなく、生活費の削減にもつなげる。すると、住民は自発的にエネルギー転換に参加する」と紹介した(写真)。

太陽光が電気に転換する過程を説明するセンター講師の林氏

24人の活動家で構成する同センターは、村の老朽家屋のエネルギー使用実態を毎日チェックする。また、二重窓の設置やエネルギー効率の高い家電製品の使用に関する情報などに加え、それらの機器設置に必要な政府や地方自治体からの財政支援もサポートする。

車代表は「各家庭の屋根、バルコニー、倉庫などに約1~3m2の太陽光パネルを設置し、LEDライトに交換し、スマート節電システムを導入するだけで、電気代を約20%削減できる」と力説する。

センターは今後、村民の家の屋上に太陽光発電所、近隣河川に小水力発電所を設置し、スマートグリッド村を建設する計画だ。

事例3:ローカルフードの活性化、都市農業の振興

「フードマイレージを減らし、地域社会を活性化するローカルフードこそ私たちの未来だ」。北区にある光州農協の韓 昣葉ハン ジンヨブ組合長。ローカルフードの直売所を開設し、持続可能な地域社会の回復に先頭を切っている。

同農協は2013年、990m2規模の梅谷メゴク支店に直売所を創設した。以来、昨年まで五つの直売所を開設、運営している。平均面積は535m2で、平日に1,500人、週末に2,500人が訪れる盛況ぶりだ。2019年の売上高は43億ウォン、2020年は72億ウォン、2021年9月末の70億ウォンと急速に拡大し、全国の農協で最も高い売り上げを誇る。ソウルと首都圏に出荷する場合と比較すると、とくに輸送過程でのCO2排出量を2021年基準で24億5,490万ポコ(※ ポコはフードマイレージで長距離輸送で発生するCO2 排出量の単位)削減し、気候変動を防ぐことに本格的に寄与している。

韓組合長は、「直売所に出荷すると、農家の所得は20%増えるが消費者負担は10~20%減少するほか、包装材料を作る過程で発生するCO2の発生量を減らす効果も無視できない」と話す。

同農協の直売所が評価される最大の理由は、消費者のニーズに合わせ、品目を多様化したことにある。その実現に向けて、組合員ではない周辺地域の農家も出荷できるよう地域間の境界を緩和した。出荷農家750戸のうち、半分は非組合員である。

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