シンポジウム報告 日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)オンライン国際シンポジウム カーボンニュートラル実現のラスト10年 ~循環型社会を目指す日中韓の現場から
〈日本・福岡県みやま市〉
生ごみから循環型農業へ ~ゼロ・ウエイストを目指して~
2021年11月15日グローバルネット2021年11月号
フリーランス 岸上 祐子(きしかみ ゆうこ)さん
毎日新聞 江口 一(えぐち はじめ)さん
朝日新聞 石井 徹(いしい とおる)さん
本特集では、日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)が、関西・大阪21 世紀協会の支援を受け、「ネットゼロ」、「地域循環」、「低炭素農業」をキーワードに、日中韓3ヵ国の記者による取材を進め、10月30日に開催した国際シンポジウム「カーボンニュートラル実現のラスト10年~循環型社会を目指す日中韓の現場から~」でも報告された現場情報を紹介します(2021年10月30日、オンラインにて)。
今年8月にゼロカーボンシティを宣言した福岡県みやま市は、「脱炭素」「資源循環」「有機農業」を三本柱にまちづくりを進めている。
みやま市が事実上95%を出資する「みやまスマートエネルギー」は2016年4月、電力小売全面自由化と同時に、全国で初めて家庭への電力供給を始めた。市が2割を出資するメガソーラー(5,000kW)などを電源に、年間電力販売量は約5,000万kWhに上り、地域新電力で全国2位の実績を誇る。
また、同市は隣の大木町とともに、家庭の生ごみを液体肥料(液肥)という資源にして積極的に活用している。同市がごみゼロを目指す「資源循環のまち宣言(ゼロ・ウエイスト宣言)」を市議会で決議したのは20年9月。ゼロ・ウエイスト宣言した自治体は徳島県上勝町(2003年)などに続き国内5例目だが、生ごみや浄化槽汚泥などをメタン発酵させてできた液肥を市民に広く供給、循環型農業を拡大しようとしていることで全国的な注目を集めている。
「循環のまちづくり」拠点施設ルフラン
田畑に囲まれたみやま市のバイオマスセンター「ルフラン」を訪れたのは今年7月5日。みやま市の人口は約3万6,000人で、ルフランは廃校になった小学校の校舎などを活用した市の「循環のまちづくり」拠点施設となっている。
施設には、収集車で集められた生ごみが次々に運び込まれていた。そのごみから、スタッフが異物を取り除く。缶や瓶のふた、スプーンなどが生ごみに混ざっていることもあるという。分別は、集められた生ごみなどから液肥を作るためだが、松尾和久・市環境衛生課長によると、異物があると機械が故障するという。
ルフランは、生ごみなどからメタンガスを発生させる「発酵槽」や、発酵後の液体を液肥として貯蔵する「消化液貯留設備」などから構成される。市内の家庭や事業所の生ごみ、食品工場残渣など約10トン、し尿や浄化槽汚泥約120トン(いずれも1日当たり)が集められ、これらの「原材料」が約20日間の発酵期間を経てメタンガスと液体肥料に変わる。生ごみは市内約1,400ヵ所に置かれた大型バケツ状の専用容器で、地域ごとに週2回、回収される。ルフランで製造される液肥は現在、年1万1,000~1万2,000トンだ。
液肥は「みのるん」と名付けられ、自家菜園用に無料で市民に配ったり、市内240ha分の水田や畑などに散布する。当初、液肥使用に前向きではなかった農家もいたというが、徳永順子・市農業委員会会長によると「液肥を使った葉物野菜もえぐみがなくておいしい」などと評判になり、アブラムシの付き方も少なくなったとのことだった。現在では、水稲、麦、レンコン、タケノコといった特産物の栽培で活用されている。ルフランは2018年12月に稼働を始めたが、農産物が食卓に上り、肥料となって農地に還される、そんな循環が確立されていった。
生ごみを肥料化し有機野菜
ルフラン構想のきっかけは、2011年の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を受け、地域の資源の活用法を模索していたことだった。検討過程で生ごみの資源化に着目し、ごみ減量と同時に耐用年数を迎えたし尿処理施設を代替する役割も持たせることにした。
このような施設は「迷惑施設」と受け止められがちだが、市では説明会を開き、生ごみを分ける意義を説いた。大木町で一足早く、同様の資源循環施設「くるるん」が2006年度から稼働し、年間約5,600トン(19年度)の液肥を町内で利用していた先行事例があったことも大きな支援材料となった。
ルフラン稼働後、みやま市のごみ焼却量は2012年度の約1万トンから19年度には約5,900トンにまで減少。市は、隣接する柳川市と共同で来年春から新設の焼却施設を本格稼働させるが、建設費は22年の焼却ごみの量によって負担割合が決まることになっている。ルフランの稼働で生ごみが「燃えるごみ」から「液肥の原材料」に転換されたことにより、みやま市にとって負担額が小さくなる利点が生まれると期待されている。
地域の持続可能な将来をつくる
みやま市、大木町両方の事業に関わった元長崎大准教授で一般社団法人「循環のまちづくり研究所」の中村修代表によると、目指したのは「脱迷惑施設化」だった。
両市町とも単に生ごみ資源化の施設だけとはせず、ルフランには地元食材を活用できるカフェや食品加工室、シェアオフィスなどを併設。くるるんはレストラン併設の道の駅に隣接し、多くの人が訪れようになった。いずれも構想段階から地域住民が議論に参加し、「にぎわい施設」になり、今では他自治体からの視察も絶えない。
中村さんは「地域住民にとって必要な施設と位置付けることが大切だった。複数の自治体で40年ほどの長期的な構想を検討すれば、焼却施設を減らし、循環施設を増やすことができ、廃棄物処理のコストも大幅に削減できる」と話し、資源循環の社会をつくるためには、循環施設などのハードを造るだけではなく、ごみの分別収集の習慣の定着と継続の必要性を強く感じている。その理念はみやま市環境基本計画の「次世代を担う子どもたちへの教育の充実」にも反映された。中村さんは小学校の環境教育の講師も務め、「みやまスマートエネルギー」の普及やごみ分別から始まる資源循環の定着について子どもたちに考えさせる。
持続可能な都市をつくるには、技術や施策での解決のほか、個人の行動も重要な要因になる。みやま市はこれまで、地産地消の再生可能エネルギーを利用する新電力や、環境保全と地域コミュニティ活性化を評価され、グッドデザイン賞(2015年)やグッドライフアワード環境大臣賞(2019年)を受賞した“先進地”だが、継続に向けて新たな課題も生まれている。持続可能な地域づくりに向け、それぞれの立場からの議論と実践がこれからも続く。