フロント/話題と人齋藤 健生さん(TAKEO株式会社 代表取締役 兼 CEO)
2021年11月15日グローバルネット2021年11月号
昆虫も肉・魚、野菜と同じように日常の食卓に
~「昆虫食の道の駅」を目指した店をオープン ~
10月、東京・浅草に昆虫食専門店「TAKE-NOKO」がオープンした。昆虫食品が買えるだけでなく、昆虫を使った料理が食べられるカフェも併設されている。運営するTAKEO(株)の齋藤さんは、「昆虫食のことがわかる、道の駅のような店舗にしたい」と言う。
齋藤さんは宮城県出身。高校卒業後に上京し調理師になったが、いつしか客の求める料理を提供し続ける毎日にやりがいを失ってしまった。2014年の夏のある日、虫捕りでもしようと一人で公園へ。セミを捕獲し、ふと浮かんだ「世界にはセミを食べる人たちもいるのに、その食材が日本ではなぜ提供されていないのだろう」という疑問がその後の齋藤さんの人生を変えた。
その時「ものすごく胸が躍った」と言う齋藤さんは、その年の10月、昆虫食専門の通販サイトを立ち上げ、タイから仕入れた食用昆虫の販売を始めた。今年8月には株式会社に組織変更。「昆虫食の楽しさを共有したい」というメンバーや、大学で昆虫生態学を専門に学んだメンバーなど、仲間も増えた。
TAKEOでは、海外産の昆虫食品の輸入以外に、日本各地の食用昆虫を使った商品の企画・開発にも力を入れる。元々日本にはイナゴのつくだ煮など昆虫を食べる文化が各地に根付いていたが、今や食卓に上ることは少なくなった。そこで、地域の伝統的な昆虫食文化と結び付くようなストーリーを持つ、国産昆虫のブランド化を進めている。例えば、今年8月に発売したカイコのさなぎの煮干しは山梨県で150年続く養蚕農家のカイコを、山梨の地みそで漬けたもの。「衰退する養蚕業を昆虫食で応援したい」と齋藤さんは言う。
TAKE-NOKOには昆虫食に関する本も展示・販売されており、関連情報を入手できる。虫好きの小学生が虫が苦手なお母さんと来てくれることも。虫の好き嫌いに関わらず、昆虫食を巡って多くの人が意見や議論を交わせるようなワークショップも開きたいという。
「昆虫が肉や魚、野菜などと一緒に並んで食卓に上り、楽しんでもらえるようになればいい」と齋藤さん。昆虫食は「げてもの」でも「近未来の食」でもない。齋藤さんが描くのは、あくまでも日常の多様で豊かな食卓の光景なのだ。36歳。(絵)