食料システムの在るべき姿とは~気候変動の抑制と飢餓解消の両立に向けて~なぜ規格外野菜は捨てられるのか?~「チバベジ」が示す在るべき食のかたち
2021年09月15日グローバルネット2021年9月号
グローバルネット編集部
気候変動の緩和、食料供給の安定、飢餓の解消のために、食料システムをどのように変えていくべきか。本特集では、まず、食料システムの意味と変革の必要性を確認し、過剰な食料生産・廃棄の現状やその解決のための実践例を紹介し、食料システムの中でさまざまなステークホルダーにどのような行動が求められるのかを考えます。
食料ロス・廃棄を抜本的に減らすためには、スーパーや飲食店の売れ残りを事後的に活用するだけでなく、サプライチェーンの上流におけるロス・廃棄を最大限に減らす必要があるが、その一例が「規格外野菜」である。農林水産省によれば令和元年産野菜の収穫量は1,340万7,000t、出荷量は1,157万4,000t。その差は183万3000t(収穫量の約14%)にも上っており、日本において多くの規格外野菜が廃棄されている実態が垣間見える。
そこで、千葉県佐倉市を拠点に規格外野菜の販売事業「チバベジ」を手掛ける一般社団法人「野菜がつくる未来のカタチ」代表理事、鳥海孝範さんを取材した。
チバベジの始まりは2019年9月。関東地方を中心に襲った台風15号による千葉県の農林水産被害額は過去最高の411億6,700万円(同年10月4日付、千葉県発表)に上り、多くの農家がビニールハウスの倒壊など、大きな被害を受けた。台風により傷んだ作物が捨てられることを危惧した鳥海さんは複数の農家から野菜を買い取り、自身が経営するゲストハウスで販売した。さらに、知り合いの飲食店がジャム、ソース、ピクルスなどに加工して販売してくれたという。
被災農家の支援から始まった活動だが、日常的に規格外野菜が発生し廃棄されている現状を多くの農家から知らされ、災害時に限らない支援の必要性を感じた鳥海さん。活動を持続的なものとするため、同年10月に一般社団法人「野菜がつくる未来のカタチ」を設立した。法人名には「野菜を在るべき形で消費することを通してより良い食の形を作る」という意味がある。現在、佐倉市を中心に農家約30軒と取り引きしている。
「便利さ」「効率性」の追求が生む「規格」
スーパーに行けば、いつでも形のそろったきれいな野菜が並んでいる。野菜には大きさ、形、色味、重量に関する規格が定められており、農家はその規格に沿って収穫した野菜を仕分けする。そして規格に適合しない野菜の多くが廃棄され、きれいなものだけがスーパーに並ぶのだ。このような「規格」が存在する理由について、「消費者が便利さを追求することが背景にある」と鳥海さんは言う。
「例えば『一年中きゅうりやトマトを食べたい』という消費者側の要求が原因の一つです。その要求を満たすために、長距離の流通が発生します。例えば、20本入る箱で大根をスーパーに納品する場合、曲がっている大根が1本でもあると、19本、18本しか入らなくなる。流通効率を良くするために『規格』が存在するのです。地元で採れた野菜を食べれば、流通の効率性はあまり関係なくなります。効率を求める結果、実は効率的ではなくなっているかもしれない。本来の在るべき姿ではないかもしれない」
一方、スーパーだけでなく、飲食店においても同様に、消費者が追求する「便利さ」が規格を生む原因になっているという。
「現在、チバベジと取引している飲食店は個人店がほとんどですが、その時々で入る野菜を、たとえ形が悪くてもうまく活用するようなメニュー作りをしています。年間通して同じようなメニューを提供するような大手のチェーン店などは、そこが難しいのです。
チェーン店では食材の仕込み方を効率的にすることで、安い値段で提供している。消費者も安いからそこに行くのです。『安くておいしい』というのが今までの社会で、そこに幸福度の軸があった。これから、飲食店と消費者側、それぞれの幸福度の軸が変われば、フードロスや野菜などの廃棄削減にも各事業者が取り組みやすくなるのではないかと思います」
「規格外=安い」ではない
それでは、チバベジはどのようにして規格外野菜を捨てずに流通させようとしているのだろうか。
第一に、規格外だからという理由で安くは売らない。規格外野菜は安く売られがちだが、そもそも規格は品の高い野菜を流通させ、農家の収入を守るためのもの。規格外野菜を安売りすることに対して、値崩れの懸念から反対する農家もいる。この懸念に対処するために、「規格外だから安く買い取るということはせず、農家さんが希望する価格で買い取る」と鳥海さんは言う。「野菜は形やサイズに関わらず平等」が鳥海さんの信念だ。
「『規格外だから安いんでしょ』という感覚で問い合わせてくる飲食店の方も多い。でも、それは違います。『規格』の良し悪しはともかく、農家さんは規格に合わせよう、さらには規格が求める以上のものを作ろうと努力して、毎日作業されています。自分で作っているものにプライドがある農家さんもいます。『規格』に合わせようとして作っている農家さんには『規格外のものは出したくない』という方もいます」
第二に、チバベジは加工品の販売に力を入れている。野菜をそのまま売ることと比べ、加工品の販売にはいくつかのメリットがある。まず、加工品にするとその分の付加価値が付くので、売り上げが3割ほど大きくなるという。また、大根4,000本、ナシ数百㎏というように突発的に大量に生じる余剰をさばくことができる。例えば、チバベジではスムージーに変えて冷凍し、保存期間を延ばした上で販売するなどしてきた。現時点では、生鮮野菜の販売が7割を占めるが、今秋はスムージーの販売を本格化させ、生鮮野菜と加工品の割合を半々ぐらいにする予定だという。ただし、生鮮野菜と同じく加工品に関しても安売りはしない。
「チバベジの加工品は手作り、無添加で、作る量も限定的なので、単価が高くなります。結局、その売り上げが農家さんに還元される。そこまでを本質的に理解した上で買ってくれる企業じゃないと、なかなか取引は難しいです」
事業者と消費者、双方の意識を変えること
消費者が求める「便利さ」や「安さ」、食関連事業者の「効率性」の追求。その結果が「規格外野菜の大量廃棄」という問題であるからこそ、より良い未来の食の形を実現するために「消費者・事業者の双方がこれまでの意識を変える必要がある」と鳥海さんは語る。
「私自身、チバベジの活動以前は、常にきれいな野菜が手に入ることが当たり前と思っていました。多くの消費者が持つこの先入観を変えないといけません。飲食店も同じ。きれいなトマトやキャベツが一年中手に入る理由や、自分が扱ってる野菜が、いつ、どこで、どうやって作られているか知っている人は少ないのです」
消費者・事業者の双方の意識改革のためにチバベジが取り組むことの一つが食育だ。コロナ禍でもオンラインの料理教室や小学校での出前授業を行ったり、あるいは農家との交流を増やし、実際に規格外野菜を食べてもらう。そこで、「形や大きさと関係なく、食べるとおいしい」と実感してもらうのだ。そのほか、「農家の現場に足を運びたい」という飲食業者の問い合わせにも応えている。
「食」の在り方をシステムとして抜本的に改革するには、生産段階のみならず、流通、食関連産業、消費者といった複数の当事者を巻き込まなければならない。チバベジの取り組みはそのモデルの一つとして、野菜に限らない、より良い未来の食の形を示唆している。