シンポジウム報告/リユース革命!容器包装で始まるサーキュラー・イノベーション~海外編~使い捨てプラスチック食器の使用を止めるために
2021年08月15日グローバルネット2021年8月号
米国カリフォルニア州バークレー市 市議会議員
ソフィー・ハーンさん
プラスチックごみの半分近くを占める容器包装。そのほとんどは使い捨てされたものです。今後、さらなるプラスチック汚染の深刻化が懸念されており、その根本的な解決策として廃棄物を出さない循環型経済への転換が求められます。
本特集では、当財団と国際環境NGO グリーンピース・ジャパンが今年5月27日に開催したオンラインシンポジウム「リユース革命!容器包装で始まるサーキュラー・イノベーション」の講演内容について、国内の事例を紹介した7月号に続き、今月号では海外のさまざまな取り組みを紹介し、日本でもリユースの仕組みを広く普及させる可能性について考えます。
バークレー市は人口約12万人の小さな都市で、町の中心にカリフォルニア大学バークレー校があることから、環境問題には先進的に取り組んできました。
1970年代に世界で初めて、各家庭やアパートから新聞などの紙や缶などを直接回収しリサイクルする、街頭回収リサイクル(curbside recycle)を導入しました。また、1980年代には発泡スチロールの利用を全面的に禁止し、家具や建材など耐久性のあるものを廃棄するのではなく、修復したり再販したりするなど、廃棄物対策が進んでいます。
そして今、私たちは新たにゼロウェイストの課題に取り組んでいます。ここ数年でバークレー市のリサイクル工程や埋め立て地に入り込むプラスチックごみは大幅に増加し、その半分以上が使い捨ての食器です。同時にリサイクル市場が崩壊したためリサイクルできるプラスチックの量は減り、さらに多くのプラスチックが埋め立て地に送られています。
市にとって、プラスチックごみの管理はコストがかかり、その処理に多くの公的資金を費やすことが、レストランや消費者の悪い習慣を事実上、助長することにつながってしまいます。つまりプラスチック製の使い捨て食器の増加は環境面でも財政面でも、地域社会に大きな損失をもたらしているのです。
加えて、プラスチックごみは地域的な問題にとどまりません。リサイクルのためと称してアジアを中心とする海外に輸出されるプラスチックは、現地の河川や海岸を汚すことになり、私たちのムダ遣いの習慣がもたらすコストや影響は地球規模のものなのです。
使い捨て食器とごみの削減条例
バークレー市の使い捨て食器とごみの削減条例(Single Use Foodware and Litter Reduction Ordinance)は、ローカルかつグローバルな問題の原因に対処するため、市全体のプラスチック製使い捨て食器をリユース可能な食器に移行させるための、これまでで最も包括的で広範囲な対策を講じています。
この条例の長期的な目標は使い捨てからリユース可能な食器に移行することであり、使い捨てアイテムでの代用ではありません。条例では、店内で食べる客に対し、耐久性のある皿、金属のナイフやフォーク、グラスなどリユース可能な食器の使用を飲食店に義務付けています。紙皿、プラスチックのフォークやストローなどその他使い捨てのものは使用できません。テイクアウトの場合は、すべての容器が堆肥化可能な素材でつくられている、またはリユースが可能な容器でなくてはなりません。コーヒーなど持ち帰り用のドリンクカップは、25セント(約27円)のチャージをレシートに記載することで、利用者に再利用可能なカップの持参を促します。また、ストロー、ふた、プラスチック製のカトラリー、ソースや塩コショウのパックなど小さな使い捨てアイテムに関しては、客が要求する場合のみ提供します。
その他、例えばレストランが食器洗浄機やイートイン用のリユース可能な食器などを購入したい場合は助成金を出し、経済的支援もしています。さらに、飲食店の事業者が使い捨てモデルから再利用または堆肥化可能なモデルに転換できるような技術支援もしています。
さらに第2段階として、自治体レベルの公的なリユース可能な持ち帰り食器のプログラム(Reusable To-Go program)を策定するよう、市に対し求めています。何度も洗浄し、再利用ができるガラス製、金属製、耐久プラスチック製の容器を市全体の飲食業に広げることを計画しています。つまり、プラスチック製か否かにかかわらず、無駄の多い使い捨て食器の製造、輸送、利用を終わらせるのです。
パートナーシップの重要性
私はこの取り組みを「レストランと市、そして近隣の住民とのパートナーシップ」と捉えています。習慣を変えるのは難しいことなので、罰則を与えたりするのではなく、このプログラムでは、レストランや客が互いの合意に基づく移行ができるよう、市が支援するよう求めるものです。
条例づくりに向けて、市がレストランと近隣住民とのパートナーシップを結ぶために、1年以上の間、公聴会などを開いて協議を進めました。私も多くのレストランやカフェを訪れ、キッチンや食品の仕込み場の物理的制約や経済的状況を理解し、レストランのオーナーや従業員からどうすれば移行プログラムがうまくいくか、直接意見を聴きました。
また、私たちは活動家や地域住民グループとも連携しています。この中には、公聴会などで自分たちで作った衣装を着て積極的に声を上げてくれた子どもたちもいます(写真)。彼らの発言は非常に力強く、私たち大人が利便性を追求した結果、汚してしまっている地球を受け継いでいくのは彼らなのだということを思い知らされました。
新しいビジネスのきっかけに経済・環境面両方にベネフィット
最終的に、条例に反対したレストランは一軒もなく、これまでのところ、しっかり順守してくれています。コロナ禍であるにもかかわらず、このプログラムがビジネスチャンスを広げています。イノベーションを促し、環境に配慮した新しいサービスや製品が地元の企業家によって生まれています。
私たちがこの条例に取り組んでいることを発表した直後から、この新しいシステムをサポートするためのアイデアを持つ起業家から私たちにメールや電話が届き始めました。中には、「私は持続可能ではない自分の今のビジネスを変えたいと思っています」と連絡してきたプラスチック製の食品容器を販売している人もいました。プラスチックを販売している人でさえ持続不可能であることを認識しているということは、ここにたくさんのチャンスがあるということなのです。
一方、この取り組みにより、公共エリアのごみの量が減ることになり、市としても経費削減にもつながっています。リユース可能な食器に変えていくことで、ごみ収集などにかかるコストを大きく減らすことができます。
この条例がアメリカ国内、そして世界で共感を呼んでいることをうれしく思います。アメリカ国内の他の都市でも同様のプログラムが始動しています。今後は他の都市の方々とも話をして、私たちの成功事例を共有していきたいと思います。
プラスチックごみ問題の対策として行われている容器包装のリサイクルは、大半が燃やされていたり、輸出先の途上国で環境・健康被害をもたらすなどの問題もあり、その効果は限定的です。紙やバイオマスなどへの代替は森林破壊などの別の環境問題を助長する恐れもあります。いずれも資源を浪費し続ける使い捨てモデルであることに変わらず、本質的な問題解決にはなりません。
使い捨て製品の大量生産・消費・廃棄で成り立つ既存のビジネスモデルから、廃棄物を出さない循環型経済(サーキュラーエコノミー)への転換が問題解決には不可欠であり、大幅なリデュースに加えて、優先させるべき施策はリユースの仕組みを広く社会に普及させることです。本シンポジウムで事業者・顧客双方にさまざまな利点をもたらすリユースの新しいビジネスモデルを紹介することにより、環境に配慮した、スマートで豊かな暮らしを目指してリユースに取り組む仲間の輪を広げることを目指しています。
容器包装分野でのリユースの普及には容器製造、利用・返却、輸送、洗浄という容器を何度も循環させる一連の仕組みを作る必要があります。このような仕組みづくりは、一組織単独では困難です。「使い捨てない社会へ」変革をもたらすため、多くの仲間を募集しています。
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