シンポジウム報告/リユース革命!容器包装で始まるサーキュラー・イノベーション~海外編~プラスチックの循環経済を実現するリユース
2021年08月15日グローバルネット2021年8月号
エレン・マッカーサー財団
ニュー・プラスチック・エコノミー・イニシアチブ
リサーチ・アナリスト
ジョセフィン・クリストファーセンさん
プラスチックごみの半分近くを占める容器包装。そのほとんどは使い捨てされたものです。今後、さらなるプラスチック汚染の深刻化が懸念されており、その根本的な解決策として廃棄物を出さない循環型経済への転換が求められます。
本特集では、当財団と国際環境NGO グリーンピース・ジャパンが今年5月27日に開催したオンラインシンポジウム「リユース革命!容器包装で始まるサーキュラー・イノベーション」の講演内容について、国内の事例を紹介した7月号に続き、今月号では海外のさまざまな取り組みを紹介し、日本でもリユースの仕組みを広く普及させる可能性について考えます。
壊れたプラスチック・システムを直すために
私たちはプラスチックによる汚染を解決するために、リユースの役割を理解する必要があります。そのためには私たちが直面している共通課題の核心に立ち返り、なぜサービスや製品をユーザーに届ける方法を変えなければならないのか理解することが有効です。プラスチック汚染は私たちの長年にわたるプラスチック・システムによるもので、回収されたプラスチックのうち同等の品質にリサイクルされるのはわずか2%です。
現在のプラスチック・システムは壊れていると言ってよいでしょう。回収してリサイクルを増やしてもこの問題は解決しません。そこで、当財団では「ニュー・プラスチック・エコノミー」というイニシアチブに取り組んでいます。このイニシアチブは、プラスチックのバリューチェーンに関わる日用消費財メーカーやプラスチックメーカー、中小企業のイノベーターなど主要なステークホルダーを集め、プラスチックの循環経済の実現に向けた共通のビジョンを持って活動しています。
このビジョンは「ELIMINATE(排除)」「INNOVATE(革新)」「CIRCULATE(循環)」という、私たちが実現しなければならない三つの要素から成り立っています。プラスチック容器のデザインを見直し、新しいデリバリーモデルを優先し、古いものは排除し、革新することが必要なのです。
「アップストリーム(川上)・イノベーション・ガイド(Upstream Innovation ~A guide to packaging solutions)」には、企業や組織にとって有益な容器包装に関するさまざまな情報が盛り込まれています。100以上の優良事例が掲載され、どのようなツールや知識が必要なのかなど、容器包装戦略を見直し、プラスチックの循環経済を実現するイノベーションを始める一助となるよう作成されています。
ごみを出さないようにする川上側の取り組み
「川上側でのイノベーション」とは、「出たごみにどうやって対処するのか」、ではなく、「ごみを出さないようにするにはどうしたらよいか」考えることです。回収、分別、リサイクル技術という川下について考えるのではなく、設計段階での素材やデザインの見直し、ビジネスモデル、製造・出荷方法、用途など、川上側について考えなければ根本的な解決にはなりません(図)。川上も川下もどちらも対策が必要ですが、回収、分別、リサイクル技術など人びとの関心が集中しやすい川下より、川上の解決策の方がベネフィットが大きいという点は重要です。
川上側でのイノベーションが求められる理由は、①プラスチック汚染への取り組み ②顧客が望む解決策の提供 ③未開拓のビジネスチャンスの発掘 ④二酸化炭素の削減 ⑤規制改革の推進 ⑥ニューノーマルへの参画、の六つあります。
例えばこのうちの②顧客が望む解決策の提供について、食品・日用品などを扱うユニリーバによると、川上側のイノベーションによって新たなニーズを開拓できることが2018年の統計で示されています。同社のサステナビリティに配慮した日用品のブランドは他の事業に比べてはるかに速い成長を示し(69%)、社会的・環境的な目的を持った製品が成長のカギを握っているということがわかります。
川上側のイノベーションを実行するために
川上側のイノベーションを実際に実行するためには、まず考え方を変える必要があります。これまでは川下での「回収」について注目が集まっていましたが、川上の「容器包装の軽量化」など、改良が行われてきたことはとても良いことです。
川上側のイノベーションにおけるマインドセットを変えるということには、容器包装だけでなく、製品自体やビジネスモデルの改良も含まれ、そのことで多くのビジネス機会を得ることもできます。「Elimination(排除)」「Reuse(再利用)」「Material Circulation(素材の循環)」という三つの重要な戦略があり、すべての関係者が容器包装戦略を見直す際に、必ず最初に検討すべきです。
イギリス小売業テスコは、複数の缶詰をフィルム包装する売り方をやめ、複数の缶をレジでセットするように変更しました。このように本質的な機能を持たない包装材を排除するという方法は理にかなった解決策です。
また、Apeelという会社は食べられるスプレー式の天然素材のコーティング剤を開発しました。これにより、プラスチックのフィルムが不要になり、例えばキュウリなどの包装に使用されています。イノベーションにより包装が不要になった革新的な例です。
今こそリユース ~四つのモデル
リユースに関するイノベーションが、どんどん起きています。企業にとっては事業の新たな成長機会の創出につながるため、リユースの取り組みを拡大しようという企業の機運はますます高まっています。使い捨て容器包装をリユースに変えると100億米ドルに相当する機会創出になるという試算もあります。
リユースというと、空になった容器を回収箱に入れる、というイメージかもしれませんが、それ以外にも方法はあります。私たちはリユースの方法を ①自宅でリフィル(詰め替え) ②外出先でリフィル ③自宅で容器返却 ④外出先で容器返却、の四つに分類しました。これらのモデルには、容器包装の原材料費削減、消費者のブランドロイヤルティーの獲得などのメリットがあります。
四つのモデルの事例
以下に、四つのリユースビジネスモデルの事例を紹介します。
①自宅でリフィル
◆清涼飲料大手ペプシコのソーダストリーム
消費者が自宅で自分自身で操作し、好きな分だけ、自分好みのフレーバーで炭酸水を作ることができ、プラスチック削減だけでなく、大きなメリットがある。
②外出先でリフィル
◆MIWA & ネスレ
スタートアップのMIWAとネスレが取り組む、リユース容器と中身を店舗で選ぶという詰め替えのビジネスモデル。ハイテクなディスペンサーで衛生管理と在庫管理、商品の安全性向上に努めている。
③自宅で容器返却
◆DabbaDrop
リユース可能で機能的な容器に入ったお弁当の宅配サービスで、消費者ではなく事業者側がリユース容器を使っている事例。容器は事業者の資産となるので、この容器にもっと投資をしようというモチベーションが高まり、容器の使いやすさが改善される。
◆Abel & Cole
有機栽培された食品のデリバリーサービスで、容器をできるだけ魅力的ではないデザインにすることで、家で使いたいと思わせず、返却を促す効果がある。見た目を変えることで返却の意識を高めることができるという事例。
④外出先で容器返却
◆コカ・コーラ
コカ・コーラのユニバーサルボトルシステムは、空になった容器を、スーパーマーケットや街中の回収ポイントに返却するとデポジットが適用されるというもの。
コカ・コーラにはさまざまなブランドがあるが、ラテンアメリカではすべてのボトルを共通して利用できるように容器を標準化し、かなりのコスト削減が実現している。
一方、食品・飲料系以外でもリユースの例は進んできています。
◆LimeLoop
ネットショッピング向けのリユース可能な梱包用パッケージ。リユースパッケージを使うことでどれだけ環境負荷を下げられるかデータを取り、トラッキングし、輸送事業者が、消費者にその貢献度合いを情報公開している。
また、リユースは必ずしもB to Cだけではなく、B to Bのモデルでも広がり始めています。
◆Swedish Return System
卸から小売りまで業界を超えたB to B向けのリユース&シェアシステム。品質管理・洗浄・パレット(物流で使う荷を乗せる台)の配備を業界で標準化し、輸送のオペレーションを効率的に進めている。
◆CHEP, a Brambles company
60ヵ国以上でグローバル展開している物流会社で、コンテナ、パレット、プレートなどを、業界を超えてリユース&シェアし、製品の積み込みや輸送をサステナブルなものにしている。
このような事例の中で一つでも実践してみたい事例や、メリットを感じるシステムがあれば幸いです。「アップストリーム・イノベーション・ガイド」を参考にして、皆さんの企業や部門でさまざまな川上側のイノベーションを起こしていただけたらと思います。
プラスチックごみ問題の対策として行われている容器包装のリサイクルは、大半が燃やされていたり、輸出先の途上国で環境・健康被害をもたらすなどの問題もあり、その効果は限定的です。紙やバイオマスなどへの代替は森林破壊などの別の環境問題を助長する恐れもあります。いずれも資源を浪費し続ける使い捨てモデルであることに変わらず、本質的な問題解決にはなりません。
使い捨て製品の大量生産・消費・廃棄で成り立つ既存のビジネスモデルから、廃棄物を出さない循環型経済(サーキュラーエコノミー)への転換が問題解決には不可欠であり、大幅なリデュースに加えて、優先させるべき施策はリユースの仕組みを広く社会に普及させることです。本シンポジウムで事業者・顧客双方にさまざまな利点をもたらすリユースの新しいビジネスモデルを紹介することにより、環境に配慮した、スマートで豊かな暮らしを目指してリユースに取り組む仲間の輪を広げることを目指しています。
容器包装分野でのリユースの普及には容器製造、利用・返却、輸送、洗浄という容器を何度も循環させる一連の仕組みを作る必要があります。このような仕組みづくりは、一組織単独では困難です。「使い捨てない社会へ」変革をもたらすため、多くの仲間を募集しています。
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