環境の本・生きのびるための流域思考
・ぎんちゃんの生きとし生けるものとの対話
2021年08月15日グローバルネット2021年8月号
生きのびるための流域思考
著●岸 由二
都内町田市から横浜市鶴見区にかけて流れる一級河川、鶴見川の「鶴見川流域水害総合治水対策」は40年前からの流域治水の取り組みで、都市水害を抑えるモデルとして全国に知られる。慶応大学名誉教授、進化生態学の研究者である筆者は、市民の立場からNPO法人鶴見川流域ネットワーキングの代表として、この国家プロジクトに参加してきた。
今年7月に発生した熱海の土石流災害と出版の時期が重なったが、本書は筆者らの活動が実り、国土交通省が昨年7月、「流域治水」という革命的な方針転換を図ったことを記念して緊急出版したものだ。「流域治水」の考え方が、もっと早く、広く知り渡っていれば、熱海の惨事も防げたかもしれないと、読後に強く感じた(ちくまプリマー新書、946円税込)。
ぎんちゃんの生きとし生けるものとの対話
著●黒沢 賢成
本書は、定年退職後に農業を始めた主人公ぎんちゃんと彼の畑のそばに生きる生き物たちとの対話を通し、自然環境と共生することの大切さと人生観を考えさせてくれる寓話である。
例えば、極力農薬を使わず露地栽培をしても収穫前に虫に食べられてもうからないとこぼすぎんちゃんに、「虫も寄りつかない野菜が旨いと思っているの?」と返すカラス。こんな対話を通してぎんちゃんは大切なことに気付き、生き物の安住のすみかと未来の人たちに残す森づくりに人生をかけて取り組み、取り戻しつつある自然のおかげで幸せな人生の最期を迎える。
自身も定年退職後に農業を始め、人生を振り返りながら本書を執筆した著者にとっての幸福な人生とは、ぎんちゃんの生き方そのものではないだろうか(幻冬舎、1,300円+税)。