環境ジャーナリストの会のページエネルギー100%自立目指し「金山デッキ」
2021年08月15日グローバルネット2021年8月号
滝川 徹(海象社代表取締役)
「隗より始めよ」で自宅をエコハウスにして、その成果と課題を明らかにしてきた環境省元事務次官の小林光さん=東京大学教養学部客員教授=が、脱炭素に向けて長野県茅野市で“究極のエコハウス”「金山デッキ」に取り掛かり、7月20日に着工した。年末に竣工した後は東京の自宅との2地域居住として、豊かな自然の元でのエネルギー100%自立を目指す。
羽根木エコハウスでやり残した課題
小林さんは2000年に世田谷区羽根木の自宅を建て直す際に、環境に最大限配慮した「羽根木エコハウス」とした。断熱を徹底したほか、太陽熱床暖房・給湯や家電の買い替えなどで家庭での二酸化炭素(CO2)排出量を、建て替え前に比べて約80%も削減した。
それでも、「世界の大勢は2050年の脱炭素。あと20%を何とか減らしたい」と考えた。住宅密集地にある羽根木エコハウスでは、太陽光発電パネルは増設できない。またカーボンフリーの電力を購入することは他力本願だとして選ばず、「環境のプロとして、自力で脱炭素に挑戦したかった」という。
もう一つは、災害への備え。10年前の東京電力福島原発事故を教訓に、原発事故や大地震・噴火などの可能性が少なく、自然環境に恵まれた地を探し求め、行き着いたのが茅野市の金山集落内の農地転用された土地だった。国内の各原発から距離があり、地震を引き起こす大きな断層とも離れている。さらに、標高1,020mにあって眺望は抜群だ。
高い断熱性能、創省蓄エネ追求
612m2の敷地に118m2の平屋建てで(環境建築の大御所・中村勉氏が設計)、カーボンフットプリント(CFP)の少ない長野県産を中心に木材をふんだんに使う。断熱性能(Ua値)は0.34と、国が定めるこの地域の基準より4割も効率が良い。気密性を高め、窓枠も熱を放出しにくい木製のリユース製品を使うなど省エネや資源循環に徹底的にこだわった。
創エネでは広い屋根に2軒分となる8.3kWもの発電パネルを設置、日照条件が良いことから年間1万kWhの発電を見込む。蓄エネでは、23kWhのリチウム蓄電池を設置する。発電量の6割を自家消費し、残り4,000kWhはFIT(固定価格買取制度)で売電する。年間約18万円の電気代が不要になり、約7万円の売電収入を見込む。計25万円前後が1年間で節約でき、10年間では250万円となって、発電パネル設置費の元が取れる計算だ。
オール電化にして蓄電池駆動のエコキュートで給湯、夜は薪ストーブでくつろぐ。130Lの雨水タンクを設置、水やりのほか災害などの断水時にはトイレ洗浄に活用する。
将来的にはVPP(仮想発電所)への参加、アグリゲーターの指令による蓄電・放電、直流の活用なども考えている。
2地域居住のいいとこ取り
JR新宿駅から特急「あずさ」で2時間程度の茅野駅前に駐車場を確保。金山デッキまで車で20分ほどだ。2週間程度での2地域居住を考えている。広い庭には在来種を育てて草原化、チョウを呼び増やす。「湯船から蓼科の山々が見える設計で、夜は照明を消して星空を楽しむつもり」。う~ん、うらやましい。
小林さんとは、記者時代から30年以上の付き合いがあり、その縁で『エネルギー使いの主人公になる① エコなお家が横につながる』を6月に出版した(本誌7月号「環境の本」でも紹介)。原発の問題点は明らかで、発電コストが最安でなくなったことは経済産業省も認めたが、批判だけでは前に進めない。エネルギー問題に市民サイドがどれだけ関われるのか、その一つの具体例として注視したい。