ホットレポート②大学が動けば社会が変わる ~大学の脱炭素化を目指す「自然エネルギー大学リーグ」が発足
2021年07月15日グローバルネット2021年7月号
グローバルネット編集部
大学のキャンパスで消費するエネルギー相当の電力を100%自然エネルギーにより発電することを目指す大学のネットワーク「自然エネルギー大学リーグ」(以下、大学リーグ)が6月7日、発足した。
参加大学は、大学(あるいはキャンパス)の使用電力量を、2030~2040年をめどに、自然エネルギー電力を生産もしくは調達する目標を決定・公表し、具体的な計画を策定して実行していくことが求められる。大学だけでなく、大学の教職員や学生、知見を有し取り組みを支援する専門家も個人として参加でき、現在、大学は9校(※)、個人はすでに100人以上が参加している。
※ 千葉商科大学、国際基督教大学、和洋女子大学、聖心女子大学、東京外国語大学、長野県立大学、上智大学、広島大学、東京医科歯科大学の9校
設立を呼び掛けたのは、キャンパスの消費電力100%の発電を実現するなど大学の再エネ化に積極的に取り組んできた千葉商科大学の原科幸彦学長。教育の場である大学がなぜエネルギー問題に取り組むのか、大学が連合体として脱炭素に取り組むことにはどんな意味があり、今後どのような展開を目指しているのか、原科学長に伺った。
社会の変化を大学がけん引
編集部:千葉商科大学は2013年に大学所有の敷地にメガソーラー発電所(発電容量約2.88MW)を建設し、翌年から稼働、2019年1月には発電量がキャンパスの消費電力量を上回り、電力について「自然エネルギー100%大学」をすでに達成していますが、この取り組みを他大学にも広げる意味は何でしょうか。
原科学長:日本は自然エネルギー資源に恵まれており、脱炭素化に向けて再エネ100%を目指していくことは可能です。私は大学を「再エネの拠点」にしたいと考え、個別にこの構想を他の大学の学長に説明すると、多くの学長は好意的でした。しかし一方で、大学における脱炭素化のノウハウが十分に蓄積・普及されていないため、意欲ある大学であってもさまざまな壁にぶつかっている。また、すべての大学に脱炭素化に詳しい研究者がいるわけではない。そこで、連合体となって取り組めば、先行する大学のノウハウを共有することができ、自然エネルギーに通じた研究者も相互にバックアップできるのです。
編集部:大学として取り組むことにはどんな意義があるのでしょうか。
原科学長:少なくとも二つの意義があります。まず、大学自らが行動することで、大学以外の企業や自治体、公的組織、NGOなど、他の主体に影響を及ぼすことができます。社会を構成する各主体が、持続可能な脱炭素社会に向けて再エネ100%を目指し行動することで社会が変わりますが、それを大学がけん引するのです。
もう一つは、高等教育機関の使命として、再エネ100%社会に変えていく人材を育成することができます。大学の授業だけでは座学に終始することが多いですが、大学が組織として模範を示し実践することで、生きた学問となるのです。
実際、本学では学生団体SONE(Student Orga-nization for Natural Energy:自然エネルギー達成学生機構)が結成され、学生がさまざまな省エネ推進活動を積極的に進め、彼らの活動が学内の省エネ意識を高めてくれています。さらに、卒業生はエネルギー関連企業に多く就職しており、大学で学んだことをさらに社会で生かすことが期待されます。
エネルギーを「つくる責任 つかう責任」
編集部:大学がエネルギーを「自らの責任」でつくり、社会に供給することの価値も示していらっしゃいますね。
原科学長:国連の持続可能な開発目標(SDGs)において、再エネ社会の形成は目標7(安価でクリーンなエネルギー)、同13(気候変動対策)に強く関わりますが、私はこれに加えて同12(つくる責任 つかう責任)とも深く関わると考えます。
日本は太陽光のほか、風力や小水力、地熱など発電源となる自然エネルギー資源に恵まれており、大学が使う電力について自らの責任で再エネによる発電を実現し、生活の基盤、生産の基盤であるエネルギーを社会に供給することには大きな価値があります。
資金調達が最大の課題
編集部:国内の他の大学の取り組みの現状はどうですか?
原科学長:参加大学のうち、電気の調達先について長野県立大は今年4月から長野県内の水力発電に切り替え、上智大は昨年6月から東京・四谷のキャンパス全体で使用する電力すべてに再生可能エネルギーを導入しました。他の大学についても進度は異なりますが、参加9大学の学長の意欲は皆、とても高いです。
まだ参加条件を満たしていない大学でも、すでにさまざまな取り組みを進めている大学が全国にあります。まず電力に関して自然エネルギー100%の目標を設定し、無理のない形で進め、その先は熱や移動手段も含めた全エネルギーを自然エネルギーに転換することを目指したいです。そのためには大学間の連携と協力が大事だと考えています。
編集部:取り組みを進めていく上でどんな課題がありますか。
原科学長:最大の課題は資金調達です。自然エネルギー100%に向けて、大事なことはエネルギーの使用量を減らしながら調達先を切り替えること。使用量を減らすためには、照明のLED化や校舎の断熱化など、多額の設備投資が必要になりますが、大学はあくまでも教育機関であり、自然エネルギーの利用自体は本来の目的ではないため、容易ではありません。
しかし各大学で条件は異なるものの、方法はあります。例えば本学では、地域に持続可能な恩恵をもたらす地産地消のエネルギービジネスを事業とする株式会社を設立し、同社が資金調達して省エネ機器を保有し本学にリースすることで大学の経営上の負担を削減しました。また、環境・エネルギーに関する知見の提供・共有などを行うことで、本学の自然エネルギー100%化の実現を支援しています。
国内外のネットワークの拡大を目指す
編集部:今後、どのような展開を目指していらっしゃいますか。
原科学長:国内ではさらに多くの大学に参加を呼び掛け、全国に自然エネルギー100%の大学を増やしていきます。そして、現在、日本の大学からは本学しか参加していない国連の気候変動キャンペーンであるRace to Zeroへの参加も促し、国際的な動きに追い付くよう目指します。
また、大学関係者や学生の参加も歓迎します。個人の働きで組織を動かし、大学全体の取り組みとなることも期待しています。
さらに、この提案を海外の大学にも伝え、国際的なネットワークを構築していきたいと考えています。とくに気候・風土も似ているアジア諸国の大学に日本国内で得た知識や経験を伝え、アジア地域全体のモデルになることを目指します。日本の大学が行動することで、各国の意識も変わるはずなのです。
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日本政府は2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラルの実現」を宣言し、それに向けた施策を進めているが、大学リーグは2040年までの目標達成を掲げている。
脱炭素社会の実現に向けて、国に一歩先んじて日本の大学がどのような行動を示してくれるのか、楽しみだ。