シンポジウム報告/リユース革命!容器包装で始まるサーキュラー・イノベーション~国内編~パネルディスカッション
日本でのリユース革命の実現に向けて

2021年07月15日グローバルネット2021年7月号

(モデレーター)
共同通信社 井田 徹治さん

(パネリスト)
Loop Japan合同会社 エリック・カワバタさん
NISSHA株式会社 吉村 祐一さん
東京都環境局 古澤 康夫さん
グリーンピース・ジャパン 大舘 弘昌さん

リユース革命! 容器包装で始まるサーキュラー・イノベーション(国内編)
 プラスチックごみの半分近くを占める容器包装。そのほとんどが使い捨てされています。今後、さらなるプラスチック汚染の深刻化が懸念されており、その根本的な解決策として廃棄物を出さない循環型経済への転換が求められます。
 今月号と来月号の2回にわたり、当財団と国際環境NGO グリーンピース・ジャパンが東京都環境局および京都府亀岡市の後援の下、今年5月27 日に開催したオンラインシンポジウム「リユース革命! 容器包装で始まるサーキュラー・イノベーション」の内容を紹介します。本特集ではまず、国内の自治体や企業の取り組みをご紹介し、日本での今後の可能性について考えます(2021年5月27日、オンラインにて)。

 

企画意図
 プラスチックごみ問題の対策として行われている容器包装のリサイクルは、大半が燃やされていたり、輸出先の途上国で環境・健康被害をもたらすなどの問題もあり、その効果は限定的です。紙やバイオマスなどへの代替は森林破壊などの別の環境問題を助長する恐れもあります。いずれも資源を浪費し続ける使い捨てモデルであることに変わらず、本質的な問題解決にはなりません。
 使い捨て製品の大量生産・消費・廃棄で成り立つ既存のビジネスモデルから、廃棄物を出さない循環型経済(サーキュラーエコノミー)への転換が問題解決には不可欠であり、大幅なリデュースに加えて、優先させるべき施策はリユースの仕組みを広く社会に普及させることです。本シンポジウムで事業者・顧客双方にさまざまな利点をもたらすリユースの新しいビジネスモデルを紹介することにより、環境に配慮した、スマートで豊かな暮らしを目指してリユースに取り組む仲間の輪を広げることを目指しています。

 

日本のリユースビジネス 拡大の課題と解決策

井田:日本ではリユースのビジネスを広げていく上で、どのような障害や課題があって、それらをどのように解決していくべきでしょうか。

吉村:「容器のシェア」という概念は、まだまだ広く知られていません。とくに個人ユーザーの行動変容はまだまだ難しい。そこを解決するのが一番難しいところだと思っています。ごみが出ない、環境貢献、容器自体の格好よさ、高い機能性という良い面を理解いただき、まずは使ってもらうことがビジネスを広げていくための第一歩かと思います。

沖縄で実証実験を実施したとき、豆腐屋さんやジェラート屋さんなど、全国津々浦々、いろいろな方から問い合わせを頂きました。しかし、さらに広げていくためには、そういった「意識を変えていこう」という方々に加えて、大きな企業にも発信していくべきだと思います。そういうところとタッグを組んでいくことが重要だと思います。

また、「容器のシェア」を広げるには、気持ちと論理の両方が重要です。気持ちの部分では、そもそも「楽しいな」とか「かっこいいな」と思ってもらえるようなサービスを作ること。論理的な部分では、環境負荷の削減効果などを数値で示すことが重要です。そのために、しっかりと数値で示していきたいと思っています。

カワバタ:一番効果があるのは、やはり一般の人たちの意見です。イギリスでの私たちの会社の例ですが、スナック菓子の空き袋のごみが多いので、メーカーにリサイクルを呼び掛けましたが、ずっと断られていました。学校の子供たちも「ポテトチップの袋をリサイクルしてほしい」と伝えたけれど動かない。そこで、子供たちはダンボールにポテトチップの袋を詰めてメーカーに送り返したところ、それが話題になり、ロンドン中で多くの人がポテトチップの袋を郵便ポストに突っ込みました。するとその翌週、メーカーからテラサイクル社に連絡があり、すぐにリサイクルが始まりました。一般の方々の意識が高まると状況は動くのです。

イギリスと日本では文化の違いがあるかもしれませんが、日本人も問題があると皆が理解するようになれば、アクションは早いと思います。それが一番大きなカギなのです。問題を皆にうまく知らせないといけない。そこに行政とメディアが関わることになるのです。

市民が動けば社会は大きく変わる

井田:使い捨て容器包装ごみが出ないサービスを56.4%の人が「使ってみたい」と回答したアンケート()ですが、私の印象では無関心層も意外と多いとも思いました。そこをどう変えていけば良いのでしょうか。

大舘:プラスチックに限らず紙なども含めた使い捨ての容器包装全般について、使いたいかという質問をしたアンケートを実施したところ、「積極的に使いたい」と答えた人は20%程度で、「使いたくない」という人が40%くらい、残りの約30%が「とくに気にしていない」という回答でした。

カワバタさんがおっしゃったように、やはり市民が動かなければ大きな変化は起きないのです。市民社会が強ければ変化が速い。数年前には無理だと思えたことも可能になるのです。日本ではそういった「市民社会の動きによって変化が起きたこと」は実は結構あるのですが、それが市民社会の自信につながっていないのかもしれません。

また、「問題を理解する」ことが、とても大事です。海外で起きていることや日本の消費がどういう影響を与えているのか、この時代になっても見えづらい。そういうことがしっかり伝われば日本の社会も動くんじゃないか、と私は期待しています。そしてそこにNGOの役割があり、求められることはたくさんあると思っています。

地方自治体ができること、国に求めること

井田:環境政策は国を待っていてもなかなか動かない。そんな中、地方自治体として、東京都として何ができるのでしょうか?

古澤:地方自治体もそれぞれ地域によって実情が違います。例えば今日は京都に関係のある方が登壇されていますが、京都はイノベーションを生み出す街だなと思います。それに比べると東京都は大きすぎるところがあり、住民の皆さんと直接接するような市町村行政と違って、行政機関としての動き方というのは難しいところです。

しかし、逆に東京には多国籍企業も含め多くの大企業の本社が立地しているので、例えば京都で培われてきたような新しい動きをメインストリーム化していく、というようなことをしていかなければいけないと思います。その時にいろいろなアクターをつないでコーディネートしていく、というような場面に東京都が動く必要があるのではないかと思っています。

井田:やはり国の政策というのも重要だと思うのですが、今後国が政策としてやるべきことは何でしょうか?

カワバタ:容器の製造に関しては、「even playing field(同等の条件)」を作るために、問題なく安全に使えるのであれば、リサイクル材を使えるようにしてほしい。そうすればバリューチェーンは成り立つと思います。金銭的なメリットやインセンティブを与えるなど、いろいろな方法があります。

吉村:海外では、使い捨てプラスチックを禁止している国もあります。日本もある程度そのように進めてほしいです。

また、日本では食品用のリユース容器を使うための衛生面の基準が法律で細かく決まっていません。明確に規定することだけが重要ではありませんが、例えば国が基準や仕組みを作ってくれれば、容器のリユースやシェアの拡大に参加するプレイヤーがもっと増えるのではないかと思います。

古澤:国でしかできないことはたくさんあります。使い捨て製品の抑制や規制策、再生プラスチック利用に関する規制について、現在国会に提出されている法案(注:プラスチック資源循環促進法(2021年6月4日に成立))の審議をわれわれはしっかり見守っています。

さらにもう一つ大事なのは、リユースやリサイクル、とくに水平リサイクルのような高度なリサイクルは、どうしてもお金がかかるという点です。カワバタさんがおっしゃったインセンティブで、ポジティブなものとネガティブなものの両方を組み合わせるような経済的手法について、今後は本格的に議論していかなければいけないと思っています。

大舘:皆さんがおっしゃるように、使い捨て容器包装を包括的に規制するということは重要です。また、生産者の責任を明確にし、それを広げていくことで、結果的にリユースに動いていくような仕組みが必要です。

さらに、メッセージも大事だと思っています。これまでの政府のプラスチックに関する政策で、世の中に何が伝わっているでしょうか。「リサイクルすればいい」「代替素材でプラスチックの使用量を減らせばいい」というようなメッセージが産業界や市民に伝わってしまっているのではないでしょうか。そうではなくて、「できるだけ早く、抜本的に減らさなければいけない。今すぐ、そのための仕組みを作らなければいけない」という本質的なメッセージを政府から出してもらえるよう期待したいです。

10年後に期待すること

井田: これから10年で大転換しなければならないのですが、10年後にどうなっていてほしいか、夢を語っていただけますか。

大舘:10年後までに、「リユースが70%」というような高い割合が当たり前になっている社会に切り替えていく。それは、資源の問題だけでなく、コミュニティや地産地消など、いろいろな動きを促進することにもつながる、非常に良い社会だと思うのです。私たちNGOも、NGOスピリットを保ちながらも、これまで以上に「たくさん失敗しながら新しいことにどんどん挑戦していく」ことで、時代の先端を進んでいくような活動を、市民と一緒に作り上げていかなければいけないと思います。

カワバタ:同じく、リユースの割合が7割になったらうれしいです。そしてさらに、日本と中国、アメリカといった大きな経済力のある国が、自分たちの問題だけでなく、東南アジアなどの開発途上国の問題も解決していく、そんな姿が見たいですね。

吉村:今、私が進めているようなサービスは容器を返さなければいけないので「面倒くさい」という面があります。しかし、例えばMaaS(Mobility as a Service)や、自動運転などが普及した場合は、勝手に運んでくれるので、自身で返さなくてもよくなります。その他、使い捨て容器ではない容器では何ができるか、例えば容器からさまざまなデータを数値化して、もっといいものを提供していく。そういったことができるようになると思っています。

古澤:皆さんがおっしゃったことに尽きます。脱炭素化に向けてやらなければいけないことはたくさんあります。プラスチックごみの分野ではリユース・シェアリング・量り売りがビジネスのメインストリーム化するよう進めていかなければいけないと思っています。10年後に実現していることを願っています。

井田:皆さんのお話を伺って、リユースビジネスは、楽しいことや面白いことがいっぱいあるビジネスだなと思いました。カワバタさんがおっしゃったように、日本人はもしかしたら意識が高くて、何かが動けば状況はぱっと進むのかもしれない、そんなほのかな希望も持てるお話を伺うことができました。

私はよく「チョイスとボイスが重要だ」という話をします。選択も重要だけど、やはり企業に対し声を上げていくということも重要だと思います。

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