持続可能な社会づくりの模索 ~スウェーデンで考えること第1回 アパレル産業の資源循環 ~本腰の入ってきた政策と業界の取り組み

2021年07月15日グローバルネット2021年7月号

ルンド大学 国際環境産業経済研究所 准教授
東條 なお子(とうじょう なおこ)

本号より、持続可能な社会づくりの模索をテーマに、隔月で執筆する機会をいただいた。筆者は1998年よりスウェーデン南部のルンド市に在住し、大学で環境配慮型製品促進のための法政策の分野での研究・教育活動に携わっている。連載では、環境のみならず社会面も含めた持続可能な社会づくりについて、研究者としてだけでなく一市民、一児の母として見聞きし感じることを書いてみたい。他の社会同様スウェーデン、欧州でもうまくいっていることとそうでないことがあり、その両面を上記の視点から拾い上げていけたらと思っている。第一回は、筆者がこの10年ほど関わってきたアパレル産業の資源循環について、欧州全体やスウェーデンでの動きをまとめてみる。

アパレル産業の環境負荷と増える消費

アパレル製品というと、環境に良くないもの、というイメージは少ないかもしれないが、素材生産や糸・布の染色・仕上げ等、製品の生産段階での環境負荷は、有害物質や水、エネルギー使用等多岐にわたる。欧州環境庁によると、EU(欧州連合)全体で消費される衣服、履物、家庭用繊維製品の環境負荷は、資源使用の項目では食品、住居、運輸分野についで4位、土地使用では2位、温室効果ガスでは5位となっている。生産に携わる労働者の労働環境等社会的な問題も多く、使用時、洗濯の際に生じる水やエネルギー、洗剤使用に関する環境負荷も大きい。

European Environmental Agency.(2019). Textiles in Europe’s circular economy.

一方で、アパレル製品の販売量は、いわゆるファストファッションの台頭と相まって増え続けている。アパレル繊維の全世界での消費量は20年足らず(1992~2010年)の間に80%増え、スウェーデンでも新しい繊維製品の出荷量は2000年から2019年の20年で国民一人あたり30%増えている。

新製品の出荷が増える、ということは、当然その生産も増えているわけであり、それに応じて生産時における環境・社会的負荷も増えることになる。有害な農薬や染色剤の使用回避、生産時の資源・エネルギー効率の向上等、生産段階における環境負荷軽減のための取り組みもさることながら、環境負荷軽減に一番有効なのは、生産そのものを減らすことである。そして、作られた製品を最大限有効活用することである。

EU、北欧、スウェーデンにおける政策の動き

アパレル製品の生産時の環境・社会的負荷は、NGO等が30年以上前から取り上げてきたが、この10年前後、欧州全般で政策のホットスポットとなっている。EUでは、2008年の廃棄物指令において、廃棄物が再生資源となる際の基準を設けるべき素材例に繊維が挙げられている。この指令は、2010年代初頭から議論が活発になった循環経済(サーキュラー・エコノミー)の行動計画(2015年)に沿って2018年に大幅に改定されたが、その中でも繊維に関しては、使用済み製品の分別回収システムを2025年までに構築すること、再使用を奨励することがEU加盟国に義務付けられた。また、リサイクル、再使用準備に関する数値目標の設定を2024年末までに検討すべき製品群にも入れられている。廃棄段階での環境負荷削減ではなく、資源の有効使用を主目的としているのが特徴だ。

生産時の環境負荷については、アパレル製品の大多数はEU 域外で作られている現在、領域主権の観点から、EUやその加盟国は生産過程については法による規制ができないため、エコラベル、グリーン購入等強制力のない法政策が導入されている。また、2006年に出された化学物質の登録・評価・認可・制限に関する規則(REACH)の中でも、繊維製品の生産等に使われる有害化学物質は取り上げられており、資源循環を促すには、循環すべき素材にそもそも有害物質を入れないようにすることが望ましいことから、二つの政策領域の統合的運用が検討されている。

アパレル製品は北欧5ヵ国政府の協力機構である北欧閣僚理事会においても2010年代初頭より注目されてきた。最初は、上述のEUの廃棄物指令で加盟国に義務付けられた廃棄抑制プログラムの内容の一つとして、拡大生産者責任等の具体的な政策案が検討され、そのフォローアップとともに、再使用を進めるためのビジネスモデル、国外輸出される再使用繊維製品に関する問題等々、繊維製品の循環を巡る法政策や産業界の道筋について、さまざまな研究事業を発注してきた。

スウェーデンでは、繊維製品に関する政策の提起が既に1990年代半ばにあったもののしばらく置き去りにされていたが、上記の廃棄抑制プログラムの検討とともに2010年代初頭に再開された。その後、環境省の要請により繊維および廃繊維のより持続可能な運用に関する検討が始まり、2016年、環境保護庁が繊維製品の生産、使用、廃棄時それぞれについて二つずつ政策提言をまとめた。提言の具体化の一つとして拡大生産者責任導入の法案が2020年末出され、現在審議されている。一方、これまで古着販売を行ってきた慈善団体が、自治体と共同で古着の回収を進めている。

同国では、「主要な環境問題が解決された状態の社会を次世代に託すこと」を1999年より環境政策全体の方針としており、その具体的な内容の一つとして、「効率がよく可能な限り有害物質を含まない物質循環」が挙げられている。繊維製品は、2010年前後より環境保護庁、化学物質庁の双方がそれぞれ重点対応製品として取り上げてきたが、上記2016年の政策提言の一つ「製品のライフサイクル諸段階に関わる当事者間の対話の促進」を実施するにあたり、両庁が合同で年に2、3回、当事者会議を開催しており、ここでも政策の統合化が図られている。

業界の取り組み

こういった政策の動きに対し、一部のアパレル企業はある意味法政策を先取りするような形で活動を行っている。例えば、ジーンズメーカーのNudie Jeansは、販売店を修理店と呼び(写真参照)、自社製品であれば無料で修繕してくれる他、中古のジーンズも引き取り、再販売している。また、使用時の環境負荷軽減をうたい、洗濯をなるべくしなくて済む手入れの仕方を紹介したり、洗濯をしないことがかっこいい、といったメッセージを発信したりしている。

看板「REPAIR SHOP( 修理店)」が下がるNudie Jeans の店先。「Free repairs ! (修理無料)」と書かれたポスターも貼られている。

スウェーデンのアパレルメーカー大手H&Mも、大量生産・消費・廃棄型のビジネスモデルは続けているものの、自社製品の回収、リサイクル業者との提携等の取り組みを進めている。業界団体でも、環境担当者が拡大生産者責任の具体的な運用について提言を出した筆者を参画企業の勉強会に招いて討議する等、全般的に前向きに取り組んでいるように思う。

ただ、1万7千近くもあるスウェーデンのアパレルメーカーのうち、95%は従業員が10人以下の小企業である。上記の例に挙げたような会社もある一方で、こういった小企業も含めどのような取り組みが行われているのか、全体像はまだつかめていない。

法の具体的内容は。企業、消費者は変われるのか

法政策、企業ともに動きの多いアパレル産業の資源循環だが、現実の試みはまだ始まったばかりである。拡大生産者責任法の具体的な内容やその実施方法はどうなるのか。新製品の供給過剰で、販売前に焼却処理される商品も出てきている昨今、企業は本当に生産を抑えたビジネスモデルを進められるのか、そして、ファストファッションに慣れた消費者は、直せるものは直し、良いものを長く使う消費パターンに戻れるのか。また改めて別稿で考察したい。

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