フロント/話題と人平田 仁子さん(気候ネットワーク 国際ディレクター)
2021年07月15日グローバルネット2021年7月号
草の根から日本を脱炭素社会に ~ゴールドマン環境賞を受賞~
ゴールドマン環境賞は、環境分野のノーベル賞ともいわれ、草の根レベルで環境問題の解決に取り組む活動家が、世界6大陸からそれぞれ選ばれる。今回の受賞は、石炭火力発電所の建設計画の3分の1を中止に導いた平田さんら気候ネットワークの活動が認められたことになる。日本人では3人目となった。
2011年の福島第一原発事故を受けて全国すべての原発が運転停止になり、2013年以降次々と石炭火力発電所の建設が計画された。日本政府やエネルギー業界が、石炭を「安定供給と経済性に優れた」エネルギー源として、推進へ大きくかじを切ったのだ。世界では、数年後のパリ協定合意に向け、少しでも早く炭素排出をゼロに近づけるために各国が結束する必要があるという議論が進んでいたにもかかわらず、日本は逆を進もうとしていた。
そこで平田さんたちは、新設予定の全国50ヵ所に対象を絞って発電所の位置や規模、運営会社などの詳細情報を地元の人たちに知らせる活動を開始。WEBサイトを通じた情報提供に加えて、現地に出掛けて行き、発電で大量の二酸化炭素を出し、採掘から廃棄までの過程で生態系の破壊や地域住民の健康被害を引き起こす石炭を燃料に使うことの問題点を丁寧に伝えていった。その結果、地域の理解者や活動が広がり、これまでに現在17基の計画が中止されている。
活動はこれで終わったわけではない。「33基は止められなかった。2030年の石炭火力ゼロ達成には、既存の発電所の廃止が不可欠。その実現には、石炭に頼らない雇用づくりなど地域の脱炭素への公正な移行のためのきめ細やかな公的支援と明確な政策シグナルが求められる」。賞金20万ドルについても「日本の気候変動対策を進めるために使います」。日本の脱炭素化に向けて平田さんたちの活動は続いていく。
「受賞に少し戸惑った」と平田さん。これまで自分のことを「環境活動家」と考えたことはなかったからだ。日本では活動家=反社会的な運動をする人というイメージもあるが、「社会の問題に向き合い、おかしいことに対して声を上げ、活動したことが評価されたと受け止めています」。今回の受賞で「気候変動の解決に不可欠なアクター」として日本でNGOが認められるきっかけになることも期待しているという。(希)