特集/セミナー報告 使い捨てプラスチックの削減とバイオマスの持続可能な利用使い捨てプラスチックの削減とバイオマスの持続可能な利用

2021年05月17日グローバルネット2021年5月号

国立環境研究所 資源循環領域 循環型社会システム研究室長
田崎 智宏(たさき ともひろ)さん

 最近、使い捨てプラスチックを生物由来の資源を用いた、紙、木材、バイオマスプラスチックなどのバイオマス素材に切り替える動きが広まってきました。それに伴い、使用後の循環的利用(リユース・リサイクル)や原料採取時の持続可能性への配慮も必要となっています。
 本特集では、東京都環境局が昨年12月18日に企業担当者などを対象に開催したオンライン・セミナー「使い捨てプラスチックの削減とバイオマスの持続可能な利用」での講演内容をまとめ、バイオマス素材を使った製品やシステムの開発など、企業ですでに進められている事例を紹介します。

 

広い視野とバランスが大切

「あちらを立てればこちらが立たず」という状況になることがあると思いますが、使い捨てプラスチックの削減についても、対策を立てると他の面に影響が出てしまうことがあります。これを防ぐためには広い視野を持ち、バランスを取ることが大事です。

持続可能な開発目標(SDGs)のゴール14(海の豊かさを守ろう)でプラスチックの利用の問題が着目され、プラスチックによる海洋汚染に世界が取り組むことになりました。それに対し、ゴール12(つくる責任、つかう責任)ではプラスチックの作り方・使い方に問題があることを考えなければなりません。しかし、プラスチックの代わりに紙など他の素材を使う上では気候変動や陸域の生態系も関連することから、ゴール13(気候変動に具体的な対策を)やゴール15(陸の豊かさも守ろう)にも目を配る必要があります。

プラスチックの四つの問題

プラスチックには海洋プラスチック汚染、マイクロプラスチック問題のほかに、使用後に燃やすと温室効果ガスが排出される問題、石油を使って作られている問題、プラスチックの大量使用という社会構造的な問題、の四つの問題があります。これらを解決し、持続可能な社会、脱炭素、脱使い捨ての社会を目指すために対策を講じていく必要があります。とくに、海や河川などでのプラごみの散乱は、環境問題であると同時に、経済活動(観光や漁業)にも悪影響を与える問題であり、河川、湖沼など内陸でも問題を起こしています。

日本はプラスチック資源循環戦略を策定し、世界トップレベルの目標を設定して取り組んでいます。リデュース、リユース、リサイクルの3Rに加えて代替素材の使用が打ち出されました。

東京都廃棄物審議会は2019年10月に「プラスチックの持続可能な利用に向けた施策のあり方」について最終答申を出しています。「ゼロ・ウェイスティング」を掲げ、新規資源投入量の最小化や、輪の閉じた循環であるリユースや水平リサイクルの徹底、環境中の排出実質ゼロの実現、という大きな方向性を示しつつ、当面の対策も提示しています。

問題の解決策と対応関係

では、四つの問題にどう取り組んでいくのか。プラスチックのリサイクルに取り組めば、きちんと収集するので海洋プラスチック汚染の問題を軽減でき、焼却処理場で燃やさないので温室効果ガス排出も減らすことができます。また、もう一度原料として使うので石油資源への依存度が減り、三つの問題に対応することができます。

しかし、日本から海洋へのプラスチック流出量は年間2~6万tといわれており、プラスチック廃棄物の0.5%に当たります。99.5%以上リサイクルするなどの目標を立てないと、まだ海に出てしまうことになります。ものを使った後のリサイクルの取り組みだけでなく、使う前から考え、使いすぎない、使用量を減らすリデュースの取り組みと、環境に良い素材を使うという代替が必要です。

リデュースについては、マイバッグやマイボトルを繰り返し利用することなど消費者側でもできることがあります。生産者側も例えば、製品の袋を四角い形から筒形に変えるだけで容器包装の重量を10%削減することができます。リデュースは四つの問題すべてに貢献できますが、リデュース以外の取り組みは、一部の問題への取り組みになります。例えば生分解性プラスチックへの代替は、海洋プラスチック汚染問題に取り組むことになり、カーボンニュートラルであるバイオマス起源のプラスチックの使用は地球温暖化・石油依存を回避することができます。これと比べて紙は、地球温暖化、石油依存、海洋プラスチック汚染の三つの問題に取り組むことができるという点で優位性があります。

バイオ起源プラスチック

バイオプラスチックには、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックがあります。両方の機能を持ったバイオプラスチックもありますが、バイオプラスチック=生分解性プラスチックではありません。また、生分解性プラスチックはすべて海で分解されるわけではなく、工場で50~60℃の堆肥化プロセスで初めて分解できるものもあります。

私はバイオマスプラスチックをバイオ起源プラスチックと言っていますが、植物由来のプラスチックと呼ぶ例もあります。紙やバイオ起源プラスチック=環境に良いとはいえません。上流側の作るところ、下流側の捨てるところで社会環境問題などが起きていないかを注意する必要があります。

バイオ起源プラスチックと紙を、石油起源プラスチックと比べてみると、まず廃棄段階で焼却しても温室効果ガスが正味出てこないので良いです。作る時の石油起源プラの排出量を1とした場合、バイオ起源プラの排出量は0.6~0.8、紙は0.5を下回るので排出量は少なくなりますがゼロではありません。また、紙だと少し劣る機能を補うために紙とプラの複合素材にすることがありますが、リサイクルしにくくなるので、その部分のマイナス点があります。

森林資源を利用する場合の注意点

とくに注意が必要なのは資源採取の段階で、上手に使わないと生態系と再生可能資源の枯渇をもたらします。生態系の取り組みは全世界で行われていますが、愛知目標の20の目標のうち、すべての要素で達成できた目標はゼロ、改善がみられたところを含むものは六つだけです。森林については、森林の損失、持続可能な林業など、いずれも黄色、赤信号がともっており、注意する必要があります。

過去10年間において、毎年東京都の面積の2.1倍(470万ha)に相当する森林が過剰伐採、違法伐採、農地転用、火災などが原因で失われています。また、森林地帯の炭素固定、森林に蓄積された炭素を使い切ってしまうと、最終的に温室効果ガスとして排出されてしまいます。バイオマス起源の素材は、持続的に使って初めて環境に良いということになります。

具体的に森林認証マークのある紙製品を使い、何が環境に良いのか考えることが大切です。企業としても、違法伐採に加担しない、非意図的でも加担してしまうことがないようにする、生物多様性の取り組みを経営方針に位置付ける、担当部署を作る、定期的に資源調達しているところのモニタリングをする、関連するステークホルダーと連携・協働する、などが必要です。モグラたたきにならないよう、四つの方向性をしっかり理解して取り組むことが必要です。

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