環境条約シリーズ 350生物多様性に関する二国間協力

2021年05月17日グローバルネット2021年5月号

前・上智大学教授
磯崎 博司

2021年1月8日に日本とブラジルは、アマゾン地域の生物多様性の持続可能な利用に関するトメアス協力覚書に署名した。生物多様性に関する二国間協力について、日本は、これまでも、ペルーとの経済連携協定(EPA)に署名した際の「生物多様性、遺伝資源の取得の機会および伝統的な知識に関する共同声明」(2011年5月31日)のように、EPAを締結した国々との同様の共同宣言などにおいて、その協力を表明してきていた。しかし、それらは付随的な宣言であり、独立の二国間合意ではなかった。

さて、トメアス協力覚書の下の協力は署名日から開始された。その目的は、アマゾン地域における林農制度の促進のための二国間協力を進めることである。それに向けて、共同研究のための科学・技術・イノベーション、また、アマゾン地域の生物多様性の持続可能な利用、その経済的利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する経験の交換を促進することも企図されている。ただし、協力は強制的ではなく、この覚書は法的拘束力を有さないとされている。

その対象分野として、まず、アマゾン地域における林農制度については、社会的・環境的価値の生産的連鎖、林農産品・環境サービスへの価値の付加、経済目的のための環境の回復、およびREDD+(途上国における森林減少・劣化に伴う温室効果ガス排出の削減)の促進が挙げられている。次に、アマゾン地域における科学・技術・イノベーションの促進については、遺伝資源・生物多様性の持続可能な利用に関する共同研究、企業に対する技術研修、および環境的に持続可能な技術の移転が挙げられている。さらに、両国が今後書面で決定するその他の分野も対象とされる。

その協力形態としては、関連する行動計画や訓練計画の開発・実施・支援、関連する経験・情報・最優良事例や最新技術の交換、人的交流、関連会合の開催、生産・管理制度や資源量把握に関する研究の推進などが挙げられており、今後、両国の合同作業委員会によって具体化が図られる予定である。

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