過去から未来へー命をつなぐタネと農第9回 野菜種子国産化で地域振興を目指す~西日本タネセンターの取り組み
2021年01月15日グローバルネット2021年1月号
西日本タネセンター(株)
内村 清剛(うちむら きよかた)
執筆協力
松平 尚也(まつだいら なおや)
西日本タネセンターは、国内では珍しい本格的な種子生産会社です。種子を生産する農場(圃場)は、福岡・佐賀県境の福岡市早良区という市街化調整区域にあります。施設は牛舎跡地を利用し整備し、多数の真新しいビニールハウス施設と、体育館のような大型の平屋建ての建物が目印です。
農場面積は約20haで、施設(ビニールハウス)栽培約10ha、露地栽培約10ha、委託栽培が約8haとなっています。ビニールハウスは花粉を運んで来る虫が入れない構造の網室になっており、ダイコン、ニンジン、ネギ、キュウリ、ナス、カボチャなど数十種類の野菜種子の生産(採種)を行っています。種子を生産するビニールハウス約200棟をはじめ、最大250tの種子を備蓄する定温低湿倉庫も整備しました。倉庫は室温15℃、湿度40%以下を保ち、高品質な種子の選別調整・加工を行っています。
種子の90%が海外産
日本では、育種(種子の品種改良)は盛んに行われている一方で、種子そのものの生産は、ほとんど国内で行われていません。種子生産量全体の約90%以上が海外に委ねられているという特異な状況です。
以前は国内でも種子が生産されていましたが、農業者の高齢化と後継者不足で、1975年頃より生産が急激に衰退しました。種子の採種のための栽培期間は早くて7~8ヵ月、長いものは2年程度かかり、人手とコストがかかります。さらに国内では多くの作物の採種時期が梅雨と重なるため、発芽率など品質が低下するという大きな課題があります。
海外での種子生産が大幅に増えたのは、人件費を含むコストが低かったこと、気候の安定した地域を選択できることが大きな要因でした。
しかし近年、為替変動によるコスト増や、異常気象、環境汚染、紛争リスクなどが年々増加し、種子の価格も上昇しています。海外採種の課題が表面化しメリットが少なくなってきています。
新型コロナ禍では、こうした課題がさらに深刻化しているといえます。種苗会社は現地の農家や企業に生産を委託する中で、技術を持つ社員を現地に派遣し品質を保ってきました。しかし新型コロナウイルスの感染拡大による入国制限などの影響でこうしたことができなくなり、海外採種の今後の安定生産が不透明化しているのです。
進むタネの国産化
一方、海外の大手種苗メーカーは育種や採種で新たなビジネスチャンスを求める動きを加速させています。韓国などでは種苗産業を国家プロジェクトと位置付け、種子の国産化を後押ししています。
食料安全保障、国内農業の振興という点でも国内で採種することは必要不可欠です。コストが多少かかってもやるという思いで準備を進め、弊社は中原採種場(株)の出資と国から支援を受け、2016年に設立されました。梅雨でも天候に左右されないビニールハウスの中で種子を生産し、高品質な種子を安定的に供給しています。
日本種苗協会は「種子を本格的に国産化する事業は初めてではないか」としていますが、設立して感じたのは、国産種子の需要が予想以上に高かったことです。さらに新型コロナ禍以降は、種子生産依頼の問い合わせが増加しています。
タネづくりを伝承したい。
日本はF1種(交配種)の育種技術だけでなく、採種技術も世界トップクラスです。海外採種では、屋外(露地)栽培が中心で、病虫害や他品種との交雑、といったリスクがあり、正品率の低さが課題となっていました。弊社でつくったタネは、価格は海外産より2~3割上がりますが、95%以上の高い発芽率を誇り、国内外の種苗販売会社やJA、農業法人などに供給され、賞賛の報告をたくさん頂いております。
設立当初は4ha、10人体制でのスタートでしたが、現在は約28ha、約30人体制に拡大し、約40tの種子を生産しています。
とくにこの数年は、地元農家に採種委託や生産指導を行い、農地の有効活用、生産者の育成と所得向上、採種技術の伝承にも貢献していくことを目指しています。
農業の中で採種はニッチな分野ですが、日本の誇るべき「ものづくり」で、高付加価値・高収入が期待できる有望な産業でもあります。センターの活動を地域振興と農業の生き残りを両立させる取り組みの拠点にしていきたいと考えています。
(本原稿は、『現代農業』2018年2月号記事「タネはほとんど外国産って本当ですか?」を加筆修正しました。)