NSCニュース No. 129(2021年1月)NSC定例勉強会 報告「日本版グリーンディール~気候危機とコロナ危機の中の中長期的な日本社会のありたい姿とは~」
2021年01月15日グローバルネット2021年1月号
NSC勉強会担当幹事、サンメッセ総合研究所(Sinc)所長・首席研究員
川村 雅彦(かわむら まさひこ)
2020年12月2日、松下和夫氏(京都大学名誉教授、IGESシニアフェロー)に「緑の復興から脱炭素社会へ移行の課題」と題して講演いただいた。以下、その概要を報告する。
気候変動問題とコロナウイルス:緑の復興
●気候変動問題とコロナウイルス
- 人類の生存に関わり、国際社会が協調して取り組むべき重要問題
- 経済のグローバリゼーションと都市集中に深く関連
- 20年間で三度のコロナウイルスの出現。気候変動や生態系変化による影響の可能性
- 気候変動対策は将来に向けた投資、コロナ対策はコスト
⇒ いずれにも高い危機意識と実効性のある措置が必要
●より良い回復:グリーンリカバリー
- コロナ禍により被害を受けた経済と社会を、環境に配慮した脱炭素で災害に強いレジリエントな社会・経済に、生態系と生物多様性を保全する、グリーンリカバリー
- 従来型経済復興策:化石燃料集約型産業や建設事業の拡大策
⇒ 短期的な経済回復には寄与、長期的な脱炭素への転換は望めず
- 新たな経済復興策:同時に、脱炭素社会への移行と持続可能な開発目標(SDGs)の実現に寄与するもの
⇒ 低炭素雇用、再生可能エネルギー、テレワークなどの新たなライフスタイル・ワークスタイルへ
新たな国家発展戦略としてのゼロエミッション
●主要国の国家発展戦略
- 欧州:グリーンディール、タクソノミー、グリーンリカバリー
- 英国:2050年ゼロ目標、2030年エンジン車販売禁止、気候市民会議
- 仏国:2050年炭素中立、2022年石炭火力全廃、2040年エンジン車販売禁止、気候市民会議
- 米国(バイデン大統領公約):パリ協定復帰、2050年ネットゼロ、2030年発電排出ゼロ、環境正義
- 中国(習主席国連表明):2030年ピークアウト、2060年ネットゼロ
- 韓国(文大統領国会演説):韓国版ニューディール、2050年ゼロ
- 日本(菅首相所信表明演説):2050年ネットゼロ、「グリーン社会の実現」に発想の転換が必要と訴え(温暖化対応は経済成長の制約ではない、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながる)
グリーンリカバリーからネットゼロへ:移行への課題
●移行の四つの前提
- 2030年までに少なくとも1990年比45%削減(現在26%削減)
- 地球温暖化対策計画とエネルギー基本計画で、再生可能エネルギーの増加と石炭と原子力の低減
- 石炭火力について、国内のフェーズアウトと海外の支援停止
- 環境政策と経済成長政策としてのカーボン・プライシング
●移行への課題(その1)
- 脱炭素社会ビジョンの明確化
⇒ 2050年ネットゼロの法制化
- 日本版グリーンリカバリー
⇒ ゼロカーボンで持続可能な経済へ移行
- 自立・分散型の地域社会づくり
⇒ 地域循環共生圏の普及
●移行への課題(その2)
- 計画と規制によるガバナンス
⇒ カーボン・バジェットの監視
⇒ 再エネ優先拡大(優先給電、系統強化、市場設計)
⇒ 脱化石燃料の加速
- 参加型・熟議型プロセス
⇒ すべての利害関係者連携による民主的プロセスを経た国家戦略の形成と実施
⇒ 参考:英仏の「気候市民会議」
- 労働・雇用の移行支援(公正な移行)
⇒ エネルギー多消費産業からクリーン産業への労働移行の支援
- 独立した科学的助言
⇒ 科学に対する国民の信頼向上
⇒ 参考:英国気候変動委員会