特集/今、求められる流域治水とは②~海外事例からダム開発と河川管理について考える~中国におけるスポンジ都市の取り組み

2020年12月15日グローバルネット2020年12月号

(公社)雨水貯留浸透技術協会 水循環アドバイザー
城東リプロン株式会社 技術顧問
忌部 正博(いんべ まさひろ)

 地球温暖化により、世界全体で豪雨とそれに伴う水害が頻発していますが、欧州では水政策を大きく転換し、洪水対策が進められています。一方アジアでは、主に発電を目的としたダムの建設が進み、自然生態系の破壊や周辺住民の立ち退き・生活環境の悪化など計り知れない影響が及んでいます。
 日本国内での豪雨による被害を例に、今後求められる流域治水と災害対策について考えた先月号に続き、今月号では海外の事例をご紹介し、今後のダム開発と河川管理について考えます。

 

習近平国家主席のスピーチとスポンジ都市の定義

2013年12月12日に行われた「都市化に関する中央工作会議」において、中国の習近平国家主席は以下の内容のスピーチを行った。

「都市の排水能力を向上させる際には、敷地内の自然な水循環を利用した雨水の保水と貯留を優先する必要がある。これにより、自然の貯留、浸透、浄化が可能なスポンジ都市を構築できるであろう。」

これを受けて、中国国務院からスポンジ都市の建設促進のためのガイドラインが出され、スポンジ都市の定義が以下のように説明されている。

「スポンジ都市は、都市計画と開発管理を強化することにより、建物、道路、緑地、水システム、その他の生態系が雨水の流出を自然に貯留、浸透、保水、処理するための完全な役割を果たすことを目指す都市開発のあり方である。」

中国の水事情

中国では、全国657都市のうち300都市が水不足に悩んでいるといわれている。都市の平均生活用水量は2000年に220L/人/日であったが、節水型都市の建設・推進により、2012年には172L/人/日に抑えられたとしている(中国側の資料による)。ちなみに東京都では220L/人/日(2014年度)となっている。

また、中国の水資源の構造は、生活用水13%(日本19%)、工業用水24%(日本14%)、農業用水61%(日本67%)の割合となっており、日本に比べて、生活用水の割合が低く、その分工業用水の割合が高くなっている。

このような水事情を踏まえて、スポンジ都市建設がその解決策となることが期待されている。

六字方針

スポンジ都市の基本的な取り組みとして、滲・滞・蓄・浄・用・排の六字で表した方針が打ち出されている。これは滲(雨水を地中に浸み込ませる)、滞(雨水を一時的に滞水させる)・蓄(雨水を備蓄する)・浄(雨水を土壌で浄化する)・用(雨水を利用する)・排(雨水を排水する)という基本方針を意味している。この方針は、日本の「健全な水循環に配慮したまちづくり」や米国の「低影響開発(Low Impact Development)」、「グリーンインフラ(Green Infrastructure)」や英国、ドイツの「持続可能な都市排水システム(Sustainable Urban Drainage System)」などと相通ずる取り組みとなっている。

スポンジ都市建設の試行都市

国家戦略に昇格したスポンジ都市政策は、試行都市を選定して重点的に進められた。に示すように、2015年の第1回に16都市、2016年の第2回に14都市の計30都市が試行都市に選ばれて、3年計画でスポンジ都市建設プロジェクトが実施された。すでに、3年の試行期間は終了している。

取り組み事例(浙江省嘉興市)

試行30都市の中の1つに挙げられている浙江省嘉興(JiaXing)市の取り組みを紹介する。嘉興市は、上海市と杭州市の中間地点に位置する。上海の浦東空港から車で、高速道路を利用して、約1時間半で市の中心部に到着する。中心部に広がる湖、南湖の船上で1921年に、毛沢東率いる中国共産党の第一回全国代表者会議が開かれたので、中国共産党の建党の地として有名である。

写真①は、透水性カーポートである。プラスチック製の専用型枠を用いて、多数の楕円状のコンクリート柱を一度に打設、型枠を抜いて、隙間を土で埋めて完成する。日本にはない造り方である。

写真① 透水性カーポート

写真②は、右側の室内テニスコートの屋根雨水を一旦ためながら、排水する施設である。

写真② 屋根雨水の貯留施設

写真③は、近くの小川の平常時の河川水をポンプアップして地盤内に浸み込ませる流入施設である。ここから流入した河川水を地下浸透させながら浄化して、元の小川へ戻す仕組みになっている。

写真③ 河川水を注水する施設

写真④は、道路の縁石の一部をカット(切り欠き)して、脇の緑地に導水している。

写真④ 道路縁石の切り欠き

写真⑤は、大きな道路に降る雨水を集水して、湿地的な側溝に貯留する施設である。中国は、道路脇のスペースが十分に取れるので、このような施設が可能である。

写真⑤ 道路脇の側溝タイプの貯留施設

取り組みの評価

2018年12月、中国住宅都市農村建設部(住建部)により「スポンジ都市建設評価標準」が公布され、スポンジ都市建設の評価内容と基準が明確にされた。評価項目には、①年間雨水流出量抑制率および雨水貯留量、②道路の冠水対策、③都市水環境の健全性、④プロジェクト実施の有効性、⑤自然生態構造のコントロールおよび都市水生態ネットワークの構築、⑥地下水環境の改善、⑦都市ヒートアイランドの改善が含まれている。本基準の実施により、スポンジ都市の建設方針、方法、評価事業を行う基準が作られた。

現地の報道によれば、財政部、住建部、水利部は30の試行都市に対するスポンジ都市建設状況を考察した結果、江西省萍郷市、広東省深セン市、山東省青島市などの都市が優れた実績を上げたと評価されている。深セン市の場合は、2018年末までにスポンジ都市関連の竣工済みプロジェクトが1,361件に達し、スポンジ都市総面積が180km2に増加した。また青島市は、2018年6月までにスポンジ都市総面積が110km2、建設中の面積が54km2に達した。萍郷市は雨水利用率が1%から8%まで上がり、2017年の大雨による冠水被害の防止に役立ったという。

おわりに

この何年か、「日本の雨水貯留浸透技術を紹介してほしい」と中国のスポンジ都市関連の会議に招待されることが多い。今の中国は、50年以上前の日本の高度成長期に匹敵する状況で、予算は潤沢にあり、スポンジ都市の新しい事例もどんどん増えている。広い土地で大規模な治水、利水、環境にまたがる多面的な取り組みが行われており、状況の異なる日本でも、今後、生かせることも多いと感じている。

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