環境ジャーナリストの会のページグリーンリカバリーの最新動向とカーボンニュートラルへの課題
2020年12月15日グローバルネット2020年12月号
日本環境ジャーナリストの会理事、クリエイトブックス
岡山 泰士(おかやま やすし)
日本環境ジャーナリストの会では、例年の連続講座をオンラインで開催した。テーマは「グリーンリカバリー」。菅政権がようやく「2050年温室効果ガス排出量ゼロ」を表明した直後のスタートとなった。その概要をお伝えしたい。
世界で資金は余っているが判断材料とルールづくりが弱い
民間投資の立場から、吉高まりさん(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)にご登壇いただいた。グローバルリスクという観点から異常気象、気候変動対策の失敗が注目されるなか、コロナショックはまさに「グレートリセット」。より公平で持続可能、かつレジリエントな未来をつくるために、新しい経済・社会システムの基盤を緊急に再構築する機会になるという。
EUでは1.8兆ユーロ(224兆円)を予算化し、少なくとも30%を気候変動対策に充当する。コロナ禍でESG投資がさらに進み、EU中央銀行によるグリーンボンドやサステナビリティボンドも発行された。日本では、金融面での官民連携はこれからだ。カーボンプライシングを行い、温室効果ガス削減にかかる費用と投資効果との関係が明確になれば、金融が施策実現を後押しするための循環が起こるという吉高さんの言葉に、希望が感じられた。
洋上風力の2050年計画は37GW ポテンシャルはその10倍以上
欧米中で急拡大しながら、日本は出遅れている再生可能エネルギー。そのカギを握るのは「洋上風力」だというのは齋藤薫さん(日本風力発電協会理事)。国内で2,414基、合計3,924MWのうち、洋上風力発電はわずか7基しかない。新たな成長戦略の一つとして、再エネ海域利用法が施行され、今後10年、年間100万kW程度の洋上風力の導入が梶山経済産業大臣から提言された。すでに海外では入札価格が10円/kWh以下、ドイツでは補助金がない市場価格での取引もある洋上風力だが、国内でも発電コスト(LCOE)8~9円/kWhの目標が達成されれば、石油・石炭に代わる新電源として主力化することは十分に可能だという。
サーキュラーエコノミー実践のカギは縦と横の「連携」
『サーキュラーエコノミー』という著書もある中石和良さんは、大手企業の経営企画に関わった経験を生かし、持続可能なライフスタイル提案ビジネスを手掛ける第一人者だ。
ナイキ、イケア、アップル、シーメンス、H&Mなどの先進企業は、材料、デザイン、デジタル戦略などに積極的にサーキュラーエコノミーを取り入れ、実践している。国内企業でも材料や廃棄物のリサイクルにとどまらず、家電サービスを使用回数比例の課金にすることなどを通じてサーキュラーエコノミーに貢献する例もあるという。
今後は一社ごとのリサイクルにとどまらず、業界内の横連携を進めたり、製造業と静脈産業との縦連携など、自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions)に取り組むことが、生態系保全や防災・減災にもつながるだろう。
「より良い未来に向けた復興」のはじまり
「感染症と気候危機」というテーマで国際法・環境法がご専門の高村ゆかり東京大学教授に話を伺った。
新型コロナウイルスが脅威となったきっかけは、人間の経済活動や気候変動による生態系の破壊などの環境の変化だ。ウイルスの存在がかつてないほどに近くなった人間社会に入り込み、人間に感染した結果であり、人口集中とグローバルな人の移動が感染拡大の要因となった。
その一方で、経済活動の停滞により、二酸化炭素排出の削減や、大気汚染、河川の汚染などが改善した。これは現在の経済、社会が自然の浄化作用を上回って環境に与えている負荷であり、「自然からの警告」といえる。
非効率な石炭火力のフェードアウトも含め、ようやく動き出した日本のグリーン政策。真の「より良い未来に向けた復興」を実現するためには、レジリエンスの強化、感染症・災害・気候変動などのリスク低減、そして大きな社会システムの転換といったことが必要だ。何がより良い未来であり、「ありたい未来」なのか。明確なビジョンが求められている。