環境ジャーナリストの会のページ容量市場の高値約定で、電力業界に衝撃。制度設計の見直し求める声
2020年10月15日グローバルネット2020年10月号
フリーランス office SOTO
山下 幸恵
第1回容量市場、衝撃の入札結果
新たな電力制度の導入が、電気代の値上がりにつながるかもしれない。2020年9月14日、第1回容量市場のメインオークションの約定結果が公表された。この結果を基に、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が試算したところ、小売電気事業者の容量拠出金の負担は1兆4,650億円に膨らむ。この容量拠出金は小売電気事業者のシェアによって配分されるが、大きな負担であることに違いはない。事業存続を危ぶむ声すら聞こえてくる。
発電所への投資を促す容量市場
容量市場とは、電気の持つ価値の一つである「kW価値」を取り引きする場だ。「供給力」とも呼ばれる。わかりにくい概念だが、発電所が発電できるキャパシティーだと考えてほしい。
容量市場では、4年後の供給力をあらかじめ取り引きする。発電所の将来の売電先を前もって確保することで、発電所への投資を促す狙いがある。
とくに規模の大きい発電所の建設には10年スパンの時間が必要だ。4年前に収入の見通しをある程度立てることで長期計画を立てやすくし、発電所の建設をスムーズにする意図がある。新設だけでなく既存の発電所の維持コストも同様に加味される。
発電コストを小売が負担
別の側面から見ると、容量市場は発電コストを小売電気事業者に負担させるという費用の付け替えでもある。小売電気事業者は、発電所から電気を調達して販売する。そのため、自らの調達元である発電所のコストをみんなで広く薄く負担し、発電所を支えていこうという意図だった。
しかし、この発電所のコストが思いのほか高額だった。発電所のコストとは、冒頭の容量拠出金を指す。ちなみに、この1兆4,560億円というのは2024年度の単年度だけのコストだ。
容量拠出金は、一般送配電事業者と小売電気事業者が負担する。小売電気事業者は、電気の販売シェアに応じて負担額が決定され、シェアの大きい事業者ほど負担額も多くなる。2020年6月現在、新電力のシェアは全国の総需要のうち約17.8%のため、拠出金の多くは旧一般電気事業者(東京電力など)が負担することになる。
発電所を持たない新電力のショック大
しかし、ほとんどの旧一般電気事業者にとって、容量拠出金の負担はそこまで大きな問題ではないように思える。というのも、2020年4月の送配電分離で、多くの会社が発電部門と小売部門が一体の発電・小売親会社方式を取っているからだ。送配電部門は分社化が義務付けられたが、発電と小売部門はこの対象ではない。東京・中部を除く7電力会社が発電・小売親会社方式を採用した(沖縄電力は送配電分離の対象外)。つまり、多額の容量拠出金が発生しても、小売部門から発電部門へ動くだけだと考えられる。
一方、容量拠出金の負担増の影響を強く受けるのは、自社で発電所を持たない新電力だ。小売専業で事業を展開する新電力の多くは、自社の発電所ではなく相対契約で発電会社と契約を結んでいる。そうしたスタイルでシェアを伸ばした新電力は、容量拠出金による出費のみがかさみ、発電部門からの収入はほとんど期待できない。
もちろん、容量拠出金を手にした発電会社は、電力卸市場へ出す電源価格を下げるよう求められている。これがうまく機能すれば電力卸市場の単価が下がり、新電力を含むすべての小売電気事業者が恩恵を受けられるだろう。容量拠出金がほとんど上限価格で約定してしまった以上、電力卸市場の値下がりがきちんと反映されることを期待したい。
目的にかなう改革の推進を
初めての試みには予想外の出来事がつきものだとは誰しもが知っている。重要なことは、素早く軌道修正ができるかどうかだと思う。電力自由化に代表される電力システム改革の目的の一つは「電気料金を最大限抑制する」ことではなかっただろうか。
電力自由化でせっかく増えた多くのプレーヤたちが、健全に競争できる環境の整備が求められる。