INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第62回 食品ロスと生活ごみをめぐる最近の動き
2020年10月15日グローバルネット2020年10月号
地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)
おむすびころりん1億個
家でテレワークするようになって、普段はほとんど聞く機会がなくなったラジオ放送をBGMに仕事をすることが多くなった。同様なライフスタイルに変わった人も多いと思う。コロナ禍による景気後退を反映してか公共広告をよく耳にする。最近では表題の広告放送を毎日聞いている。この広告キャンペーンを行っている公益社団法人ACジャパンによれば、「日本国内の食品ロスの量は年間およそ643万トン。これは私たち一人ひとりがまだ食べられるおにぎり1個を毎日捨てているようなもので、この問題を身近に感じてもらうべく、誰もが知っている童話『おむすびころりん』をモチーフに表現した」ということだ。
今年の夏、ちょうど中国でも同じような問題(食品ロス)について再び強調されることがあった。8月11日に習近平総書記・国家主席が「飲食浪費行為の断固制止に関する重要指示」を出したのだ。その際に「飲食の浪費現象は深刻で心を痛める」と述べたという。このような内容の重要指示が出るのは2013年1月以来2回目ということだが、今回の指示は食品ロスへの戒めだけでなく、食糧安全保障への危機意識と新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響も背景にあると書かれている。
総書記・国家主席の「重要指示」は中国共産党および政府に対する絶対的な命令に等しいから、ひとたび指示が出されれば、関連法整備を待つことなく迅速に措置される。
習近平総書記・国家主席の三つの重要指示
中国の食品ロスや生活ごみ問題分析へのアプローチはいろいろあるが、中国のトップに立つ習近平総書記・国家主席が出したとされる三つの関連重要指示を切り口にして、最近の動きを追ってみることとしたい。
1.節約履行と浪費反対の重要指示
習近平国家副主席(当時)は、2012年11月の中国共産党第18回全国代表大会終了後に総書記に選出されると、翌年1月贅沢禁止令と言われる節約履行と浪費反対の重要指示を出した(と伝えられている)(※1 下部参照)。また、同時期から全国各地のレストランで「食べ残しゼロ行動」キャンペーンが盛んになった。その後、この運動は市民の間にすっかり定着し、食べ残しがあればテイクアウトが当たり前になった。一方、共産党や政府機関関係者には、重要指示直前の2012年12月に党中央政治局会議が決定した綱紀粛正規定(「八項規定」と呼ばれる)により質素倹約、宴会の原則禁止等が求められていた。この規定は現在でも厳格に適用されている。
2.生活ごみの分別業務に関する重要指示
それから少し時間が飛ぶが、2019年6月3日、習近平総書記・国家主席が生活ごみの分別業務に関する重要指示を出した(と新華社は伝えた)(※2 下部参照)。「ごみの分別を進める上で、科学的管理を強化し長期的に有効なメカニズムを形成し、習慣の育成を促進することがその鍵となる。また、指導を強化し各地方の状況に応じた措置を講じ、持続的に推進し細部まで実効性のある取り組みを行い、根気強くやり続けることが必要である」と指摘した。
実はこの指示が公表される以前に、2016年頃から中央政府内では生活ごみの分別制度に関する検討が行われていた。また、地方でも非強制的な方法で試行錯誤が繰り返されていた。検討の結果、2019年4月26日に住宅都市農村建設部等9部門が合同で「生活ごみ分別作業の全面的な展開に関する通知」を出した(WEBサイトで実際に公表されたのは6月6日)。上海市では同年1月に上海市生活ごみ管理条例を可決し、7月から生活ごみの強制分別(市民に分別ごみ出しを義務付け)実施を決定していた。その後、北京、天津などの大都市(直轄市)でも生活ごみ管理条例を可決またはパブコメ中である(表)。
上述の住宅都市農村建設部等の通知では、2020年までに四つの直轄市を含む46の重点都市で、2025年までに全国の地級以上の都市(注:全国に約340)で生活ごみの分別処理システムを基本的に完成するという二つの目標を示した。
しかし、基本的に完成といっても生活ごみ分別処理施設のような都市環境インフラの整備は一朝一夕に進むものではない。このため、通知から約1年後の今年7月31日、国家発展改革委員会、住宅都市農村建設部および生態環境部は合同で「『都市生活ごみ分別処理施設弱点解消実施計画』配布に関する通知」を出し、全国の地方政府に対して生活ごみの分別ごみ出し、分別収集、分別運搬、分別処理施設の建設を加速し、処理能力の不足分を補い、都市の環境インフラを整備し、生態環境を改善し、対策能力の現代化を推進し、経済社会発展にふさわしい生活ごみ分別処理体系の形成を促進することを要求した。実施目標は、2023年までに条件を有する地区級以上都市において分別ごみ出し、分別収集、分別運搬、分別処理の生活ごみ分別処理システムを基本的に完成させるとした。2019年に発出した通知で掲げた二つの目標を足して2で割ったような目標になった。その他、全国の生活ごみ焼却処理能力を大幅に高める等としている。
3.飲食浪費行為の断固制止に関する重要指示
これは冒頭で述べたとおりだが、今年8月11日に新華社が、習近平総書記・国家主席の重要指示があったことを明らかにしている(※3 下部参照)。法律や監督を強化し、効果的な措置を採用し、長期的に有効なメカニズムを確立し、食品や飲食の無駄を断固として阻止する必要があると強調した。また、広報教育を一層強化し、節約習慣を醸成し、社会全体で浪費は恥、節約は誉れとする雰囲気を醸成すべきであると強調した。
この指示を受けて、全国に先駆けて生活ごみの強制分別を実施した上海市が早速、生活ごみの発生源での減量化と食べ残しゼロ行動を結び付けた実施計画を作成した。9月4日に公表(制定日は8月19日)されたこの計画は「生活ごみの発生源での減量促進と食べ残しゼロ行動推進に関する実施計画」と題され、①飲食業者の発生源減量を推奨する ②飲食物節約行動を推進する ③党・政府機関および学校など公共機関の模範作用を発揮させる ④食べ残しゼロ行動の濃厚な雰囲気を醸成する ⑤パイロット事業として「ゼロ浪費」街区を作る――などの内容から構成されている。今後、上海市に続いて実施計画や行動計画を作成する地方政府が出てくるだろう。
今後また関連の「重要指示」が出されれば、それに引き続く動きに注目すると興味深い。
※1~3の、いずれの「重要指示」も新華社発で明らかにされたもので、いつ、どのような場で指示が出されたのか明らかにされていない。