環境条約シリーズ 342動物由来感染症と国内法
2020年09月15日グローバルネット2020年9月号
前・上智大学教授
磯崎 博司
動物由来感染症の国外からの進入防止について、感染症法は、輸入禁止(指定動物:コウモリ、サル、ハクビシンなど)、輸入検疫(研究・展示用サル)または衛生証明書・輸入届出(陸生ほ乳類、鳥類)という、危険度に応じた段階的措置を定めており、狂犬病予防法も輸入検疫措置(犬、猫、キツネ、アライグマなど)を定めている。また、検疫法は、非意図的な進入防止のため、感染症を媒介するネズミ族・昆虫類の港・空港区域における駆除・消毒措置を定めている。
次に、その国内での伝播・拡大の防止について、感染症法は、動物の保管・販売等の際の適切な措置、また、汚染区域におけるネズミ族・昆虫類の駆除・消毒措置を定めている。なお、感染症法は、2020年1月に新型コロナウイルス感染症を指定感染症として、3月に同ウイルスを四種病原体として定めた。
ところで、国内市場への密輸個体の紛れ込みは感染症の伝播リスクを高め、また、合法個体も含めて不適切な衛生状態での飼養・販売は病原体の異種間伝播や変異を促進し感染症の出現リスクを高める。それらの防止には実効的な輸入管理とともに、国内管理措置(動物について、個体識別、出生・健康証明、事業者登録・届出、適正飼養認証など)が有効である。その一部は前出の感染症関連法に含まれているものの、それらは感染症の出現後の対策にとどまっている。
他方で、感染症とは関わりなく、外来生物法または鳥獣保護管理法は特定の外来生物または鳥獣の輸入・国内移動を規制しており、動物愛護管理法はペットや家畜の適切な健康管理をその飼養者・取り扱い事業者に義務付けている。その他の自然保全関連法、農林水産業関連法、汚染防止関連法も、自然の保全、汚染や自然破壊の防止など、感染症の出現の抑制というワンヘルスの基本要素を含んでいる。そのため、関連条約の指針などに沿ってワンヘルスの下に、これらの法と感染症関連法を連携させること、前述の国内管理措置を整備すること、また、それらを生物多様性国家戦略の主流化の一分野として明記することが望まれる。