特集/コロナ禍から見えてきた環境破壊の罪②~強靭で持続可能な「コロナ後の世界」を目指して~コロナ収束後を見据えた持続可能な自然観光地の在り方

2020年07月15日グローバルネット2020年7月号

公益財団法人日本交通公社
観光地域研究部 上席主任研究員・地域計画室長

中島 泰(なかじま ゆたか)

 新型コロナウイルスの感染拡大防止のための緊急事態宣言が解除され、日本の社会全体は「コロナ後」の姿を模索し始めています。これからは経済や社会、日常の生活が受けた大きなダメージを速やかに回復し、より良い社会を構築することが求められます。
 本特集は、そのための具体的な対応として、循環型社会、自然資源を擁した観光地、そして金融機関の環境・社会問題への対応などについて論じていただき、強靭で持続可能な社会をどのように築いていくべきか、今後の社会の在り方について考えます。

 

2020年6月19日、政府の新型コロナウイルス対策本部は、感染拡大を受けて自粛が要請されていた都道府県を越える移動の制限を解除しました。このことで、今後は全国を対象とした国内旅行が徐々に再開されていくことが予想されます。そうした中、このコロナ禍の後に、自然資源を擁した観光地の在り方はどう変わるのか、またどう変わるべきなのか、当財団実施調査の結果も踏まえて考えたいと思います。

日本人による国内観光の重要性

新型コロナウイルスの感染拡大の旅行への影響は非常に大きく、当財団の調査によれば、この4-6月期に国内日帰り旅行、国内宿泊旅行、海外旅行を予定している人は、いずれも全体の1%程度にとどまっています(図1)。現在はほぼ「ゼロ」にまで落ち込んだインバウンドですが、昨年までは政府が強力に推進するインバウンド政策の効果もあって、日本を訪れる外国人の数が、2012年の836万人から、翌2013年に1,000万人、2016年に2,000万人、2018年には3,000万人を超え、昨年2019年には3,188万人を記録するなど、順調に成長してきました。また、人数の増加に伴って、訪日外客全体が日本国内で消費する金額は年々増加し、インバウンド観光は日本経済にとっても欠かせない重要な存在となりつつありました。

一方、日本人の国内旅行の状況はどうだったでしょうか。近年は、宿泊、日帰りともに、延べ旅行者数は3億人前後を横ばいに推移しており、2019年の宿泊旅行者は延べ3億1,162万人、日帰り旅行者は延べ2億7,548万人となっていました。いずれも、今後は少子高齢化が進展し、人口減少の局面に直面することを考えると、成長という面での見通しは明るくはなかったといえます。

そのように、近年、対照的な状況にあったインバウンドと日本人の国内旅行ですが、ここでその消費規模を見てみましょう。図2は、国内における旅行消費額を、日本人国内宿泊旅行、日本人国内日帰り旅行、日本人海外旅行(国内消費分)、訪日外国人旅行の四つに分けて見たものです。前述の通り、インバウンドはその急成長に伴って旅行消費額を大きく伸ばしているのですが、「シェア」ということで見ると、2019年時点で全体の17.2%に過ぎません。コロナ収束後のインバウンド観光がどう回復するかはまだ読めないところもありますが、仮にインバウンドにおいてコロナ以前の成長が戻り、また日本人の国内観光が伸び悩んだとしても、依然として「日本人の国内旅行」は地域経済にとって大きな意味を持ち続けることが理解できるかと思います。

また、コロナ禍からの回復期において、感染拡大の抑制と社会経済活動を両立させるため、まずは近場の観光から再開することで地域の経済を少しずつ回し、感染状況の推移を見つつ、中・長距離の国内旅行、近隣諸国への海外旅行、そして最後に長距離の海外旅行の順に解禁していくことが、世界的な観光再開の流れとなっています。その流れにおいても、消費額シェアの高い日本人の国内旅行が早期に回復していくことは、コロナ禍からの日本経済復活にとって非常に重要な要因となります。

自然観光へのニーズの高まりと選ばれる観光地

現在、その国内旅行の選択先として、国立公園をはじめとした自然地域に注目が集まっています。山や川、あるいは海といった屋外であれば、密閉・密集・密接の「3密」を避けやすく、なおかつ外出自粛の閉塞状況からの開放感も味わいやすいということがその理由のようです。これは確かにその通りだと思いますが、一方、自然を楽しむ観光は新型コロナウイルスよりずっと以前から人気の観光スタイルとなってきました。当財団が全国の男女を対象に毎年実施している調査(JTBF旅行意識調査)では、過去10年以上にわたって「自然観光」と「温泉旅行」が行ってみたい旅行タイプの上位を占めています。

次に、国立公園エリアを含む11の観光地に対してイメージ調査を実施した結果を見てみます(図3)。行ってみたい観光地の1位は箱根で、以下やんばる、奄美大島と続いており、人気観光地ほどイメージが複数挙がっています。今後、自然観光地全体の人気が高まるかもしれませんが、その中でもさらに選ばれるのは、多様な魅力を兼ね備えている地域といえそうです。

コロナ収束後を見据えて

コロナ収束後となると、収束までにどの程度の期間を要するのか、現時点ではなかなか読みづらいところがあります。しかし、今後長く続くかもしれないwithコロナの時期において、自然資源を擁する地域が日本人の国内観光を活用することは、個別の事業者、地域経済、ひいては日本経済全体にとって重要なこととなります。ただし、ここで改めて強調したいことは、日本人の国内観光はインバウンド復活までの一過性の代替手段ではなく、これまでも、これからも長期的に地域経済を支える大きな存在であるということです。

全国で大変厳しい状況が続いていますが、この契機を国内観光客に今後も繰り返し訪れてもらうための機会(チャンス)としていくことが重要です。再び多くの観光客が全国の自然地域を訪れる日々が訪れ、そのことによって国民の自然環境への親しみ・理解がさらに深まる未来が必ず来ることを信じています。

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