フロント/話題と人石井 孝昭さん(一般財団法人 日本菌根菌財団 理事長)

2020年05月15日グローバルネット2020年5月号

安心・安全で持続可能な作物生産に役立つ菌根菌の普及に取り組む

石井 孝昭(いしい たかあき)さん
(一般財団法人日本菌根菌財団 理事長)

石井さんが菌根菌の調査・研究を始めたのは40年前。農薬会社の農薬開発部で働いていたが、皮肉にも化学合成された農薬の危険性を知ることになり、農薬を使わない作物生産の調査を始めた。

その時、頭をよぎったのが「菌根菌」。菌根菌はカビの一種の微生物で、植物の根と共生関係を結び、植物から光合成物質を分けてもらう見返りに、植物の水分や養分の吸収を促進させて生育を旺盛にする。愛媛大学時代の恩師から菌根菌の存在は聞いていたが、偶然にも恩師から大学教官として学生の教育・研究を指導するよう求められ、研究を始めたという。

2019年8月、石井さんを理事長とする一般財団法人日本菌根菌財団(静岡県掛川市)が設立された。また、その年の春から採用された普通高校の生物の教科書に「生態系内での物質循環において、菌根菌は大きな役割を果たしている」と紹介された。しかし、「化学合成農薬や化学肥料を万能とする農薬・肥料会社や農業界からの菌根菌に対する誹謗中傷はまだ残っています」と石井さんは言う。

菌根菌は、1996年10月、地力増進法による土壌改良資材として、わが国で初めて認可された微生物資材。欧米では菌根菌の活用が進んでいるのに、日本では「化学合成農薬および化学肥料の不使用や大幅削減につながる」として農薬・肥料業界や農協からも批判の声があり、なかなか広がりが見られない。

石井さんは財団の設立を機に、機関紙の発行、農業団体への菌根菌活用の生産指導、民間企業・団体との共同研究、応用利用の推進に弾みをつけたいとしている。具体的には千葉県長南町の里山で進行中のモルゲンランド「あしたの国」づくりプロジェクトに協力する。ドイツの思想家で教育者のルドルフ・シュタイナーの考えに基づき、故・子安美知子早稲田大学教授らの思いを継いだ人びとが進めているプロジェクトで、68万m2の広大な敷地に教育、福祉、農業、国際交流の活動拠点がつくられる。石井さんは「安心・安全で持続可能な有機・自然栽培の技術を指導したい」と期待する。また桐を栽培し、バイオ発電、新建材、家具材などの生産も行う予定だという。68歳。(H)

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