ホットレポート②ひとつのリノベーションホテルが地域を変える~THE SHARE HOTELS HATCHi 金沢の事例

2020年04月15日グローバルネット2020年4月号

一般社団法人リノベーション協議会 会長
u.company inc. 代表取締役
内山 博文(うちやま ひろふみ)

私は、ここ25年ほど不動産ベンチャー企業にいます。一つは、「(株)都市デザインシステム(以下、UDS)」という会社で、マンションや一戸建て開発を新しい仕組みで作り上げるコーポラティブ事業を手掛け、その後、当時の東京電力とUDSとで不動産ストック再生専門会社である(株)リビタ(ReBITA inc.)を立ち上げ、3年半ほど前に独立。今、公共財産を含めてリノベーション型で街づくりが行われようとしている中で、さまざまなクライアントの事業のコンサルティングや不動産事業のプロデュースをしています。

「スクラップ&ビルド」からリノベーションへ

リビタは2005年に設立しました。当時は企業の社宅が大量に売られていた時代でした。それまでは新築主体のビジネスを展開していたので「スクラップ&ビルド」で物事を考えることが多かったのですが、既存の建物を「何かに活用できないか」「ユーザーにとってより高い価値となる事業ができないか」と考えるようになり、代表的な事業として企業社宅や賃貸住宅などを買い上げてリノベーション分譲する事業などを行ってきました。

リーマンショック後は、一戸当たり1億円以上で販売する、100m2を超えるような外国人向けの賃貸が大量にファンドから放出される機会もあったので、再生してリノベーション型で「R100 TOKYO」というブランドを立ち上げ供給したり、リビタのノウハウを生かしたコンサルティングを展開してきました。

また、日本の住宅ストックとして圧倒的に多い一戸建て住宅(面積比で6割)の再生事業にも取り組み、現在年間数十の再生事業を継続しています。

日本のかつての一戸建て住宅というのは環境性能が低いので、リノベーションをして、断熱をしっかり行い、耐震性も上げ、環境性能を上げることを前提に提供しています。新築の建て売りよりずっとスペックの高い住宅を、リノベーション型で供給しています。

リビタで多くのポートフォリオの事業を展開できたこと、なぜリノベーション型での事業の再構築が必要だったかということを振り返ってみます。住宅は余っていて、空き家が1,000万戸に近づこうとしている中で、物が無かった時代、大量に物を作らなければいけなかった時代のビジネスのマーケティングではもう限界が見えており、消費者もそれをなんとなく感じ、何のために家を買うのかと考え始めている。その本質的な不動産価値について考え続け、リノベーションでしかできないことを実践してきたことが結果的に市場から評価されていると実感しています。

リノベーション型の再生・再構築と、新築型との一番の違いは、最初に目的を明確にすることです。社宅を買ってきれいにして売る、というフローは考えますが、「何のためにやるのか」を考えます。事業収益しか見ないで走ってしまうと、実は本質から離れていきます。残念ながら、ほとんどの会社はプロフィットを考えるところからスタートし、最後に売るため、貸すためにコンセプト(目的)を考える、というのが実態。これではなかなか本質的な価値を提供する事業は生まれません。リビタでは、社員に徹底的に目的やコンセプトから考えるよう訓練してきました。

THE SHEARE HOTELS HATCHi金沢で地域に生み出そうとしたもの

1号物件の「HATCHi金沢」の所在地は、石川県・金沢で観光地のメッカになっている「東茶屋街」という場所から200mほどしか離れていませんが、金沢駅からは徒歩で30分程かかるような場所で、新幹線開通まではほとんど人が歩いていない状況でした。その物件を新幹線開通前に取得し、リビタで再生を行いました。この建物はなんと築50年近く。ほぼ建設当時のものかというぐらい古く、地下はカビだらけで屋上に上がってみると、一部違法増築があるだけでなく、検査済証が無いなどさまざまな問題がありました。

社員でプロジェクトチームを作って最初に決めたコンセプトは「日本の未来が宿る場をつくる」。これをビジョンにこの事業を立ち上げようと決め、そのミッションとして、地域における活動の基点、原動力となるにはどう実現するかということを考えたのです。もともとこの場所の近くには、北陸三県のバスの発着地があったらしいのですが、その歴史を読み解き、「この場所が北陸のツーリズムの発地に」というのがプロジェクト名称「HATCHi」に込めた思いです。

北陸は、一部の食材は有名なのですが、それ以外のものの魅力がまだまだ顕在化されていないので、そういったものを、泊まりに来る人、地域の人が体感できるような場所を作ろうと思ったのです。そこで、「北陸のプレーヤーがさまざまなコンテンツを展開できる街に開かれたホテル」「ここでの交流を通じて北陸各地へとツーリズムが生まれる」ことを目指しました()。

図 THE SHARE HOTELS HATCHi 金沢の概念図

ホテルは、ドミトリー型と個室も含めてベッド数94。宿泊客の2割弱はインバウンドの方ですが、新しい旅のスタイルを求めている日本人を誘発したいというのがチームの考えたビジョンです。 

また、1階と地下にフリースペースがあるのですが、そこでワークショップや産直マーケットなども開かれます。例えば、伝統的な醤油蔵の社長さんに来てもらい、どんなことを考え、どんな思いの商品を提供しているのかという話をワンコインで飲みながら聴き、翌日その醤油蔵を訪れる。そういうプログラムを実践しています。

そういう自由な場を作ることで地域の方がたくさん集まってくださいました。この流れができると地域の方からあれをやりたい、これをやりたい、とどんどん言ってもらえるようになり、私たちは具体的にイベントを考えることはしなくてよくなる。そこが地方の方々にとっての拠点になっていくのです。

人が訪れてサービスを受けて帰っていく、というだけでなく、いろいろなことを体験していくことで、北陸の人や物について知ってもらえるような場づくりを積極的に展開しています。結果的にそれがホテルの稼働率にも何らかの形で貢献するでしょうし、そこで得た収益をこれらの場所の運営に活用していくような循環が生まれるような仕組みを考えていました。

既存の不動産が活用されることは、世の中にとっても、消費者にとっても良いこと

私がアドバイザーを務めていた(株)ツクルバという会社では、リノベーション済み物件ばかりを紹介している「cawcamo」というメディアを作っているのですが、マンションを買う人だけでなく、買おうと思っていなかった人まで「リノベが面白い」と「cawcamo」のプラットフォームを訪れています。このプラットフォームビジネスで、急速に成長して3年で年間500件くらいまでのリノベ済み物件を中心とした仲介業務(マッチング)が都市部でできるようになり、上場を果たしました。

既存の不動産が活用されることは世の中にとって当たり前のこととし、これまでのいわゆる「駅から徒歩何分、築何年」という案内は概要の頭には出てきません。

リノベーション型のビジネスというのは、社会的な課題解決を目指しているプレーヤーが多いので、その解決には金融との連携は必要不可欠ですので、皆さまと議論するきっかけになればと思っています。

(2020年3月12日、東京都内で開催された21世紀金融行動原則 第3回不動産WG「ローカルビジネスにとってESG投資とは何か~事業サイドから見たローカル不動産事業のリアル~」での基調講演より)

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