USA発サステナブル社会への道―NYから見たアメリカ最新事情第24回 米州や自治体のプラスチック規制
2020年03月16日グローバルネット2020年3月号
FBCサステナブルソリューションズ代表
田中 めぐみ
軽く強く安価なプラスチックは容器包装に最適な素材として広く利用されているが、生分解に時間がかかるうえ、リユースやリサイクル市場が確立していない。そのため、近年廃プラスチック(廃プラ)による環境汚染、とくに海洋プラスチック問題に注目が集まっている。
ジョージア大学教授らの調査によると、2015年時点での海洋への廃プラ流出源は中国が圧倒的に多く、次いでインドネシア、フィリピン、ベトナム、タイとアジア諸国が上位を占めていた。中国は80年代以降、世界各国から廃プラや古紙等の資源ごみを輸入し再利用していたが、資源化が難しい低品質のものや異物の混入が多く、これらが不法投棄され、廃プラの海洋流出につながっていたとされる。こうした状況の中、中国は18年初から資源ごみの輸入を禁止し、東南アジア各国も規制を強化した。資源ごみの輸出量が世界一の米国では、回収した資源ごみの行き場を失い、多くの自治体が資源ごみの回収停止や縮小、埋め立てを余儀なくされている。
米国では、資源ごみの処分に関する連邦規制がなく、州や自治体ごとに規制が異なっている。果敢な目標を掲げてリサイクルを促進する先進都市も少なくないが、地方では分別回収すらしていない自治体も多い。環境保護庁によると、17年時点で全廃棄物中のリサイクル率は全米で35.2%だが、紙類が半数近くを占めており、プラスチックは8.4%と低い(PETとHDPE(高密度ポリエチレン)に限定すると各々29.1%、31.2%)。18年以降のデータは公表されていないが、中国の規制の影響でさらに低くなっていると想定される。また、米国は国土が大きいうえ、70年代に起こったゴミの焼却処分による大気汚染の影響で焼却に対する国民の抵抗が強いことから、今でもゴミの処分は埋め立てが主流であり、廃プラの埋め立て率は75.8%、焼却(サーマルリサイクル)は15.8%である。
●州の規制
中国の輸入規制を機に、これまでリサイクルを促進してきた州がリデュースへとかじを切り始め、近年多くの州でプラスチック製容器を禁止する法案が可決されている。
カリフォルニア州では、16年末から大手小売店でのプラスチック製レジ袋の配布を禁止、たい肥化可能なプラスチックや紙製レジ袋の課金を義務付けており、19年からは着席式のレストランに対して、顧客が要請した場合を除きプラスチックストローの提供を禁止した。さらに同年、宿泊施設におけるプラスチック製小型アメニティボトルの使用を禁止する法案が可決され、50室以上の大型施設は23年から、それ以下の小型施設は翌24年から施行される。
ハワイ州では、11年から15年にかけて郡ごとに順次、たい肥化できないプラスチック製レジ袋の配布が禁止されたが、19年にさらに厳しいプラスチック容器規制法案が可決した。これにより、飲食産業は22年以降ボトルやストロー、カトラリーを含む使い捨てプラスチック製品と発砲スチロール製容器の購入・販売・使用・配布が禁止され、23年以降は全産業と個人に対してすべてのプラスチック製レジ袋、25年以降はすべてのプラスチック製使い捨て飲料容器の購入・販売・使用・配布が禁止される。これに先駆け、ホノルルでは22年からカトラリーやカップ等のプラスチック容器を禁止する条例が可決している。
19年には、ニューヨーク、コネチカット、デラウェア、メイン、オレゴン、バーモント州でプラスチック製レジ袋の禁止法案が可決された。バーモントやメイン、オレゴンではレジ袋以外のプラスチック容器や食品資材も含まれる等、州ごとに詳細が異なるものの、ほとんどの州で20年中に施行される。
デラウェアを除く上記7州とアイオワ、ミシガン、マサチューセッツ州では、ゴミ削減とリサイクル促進のため、70~80年代からプラスチックやガラス、メタル製の飲料容器のデポジット制度を導入しているが、近年制度を拡張する州が増えている。19年には、フロリダやニュージャージー等6州で新たに同制度を採用する法案が提出された。同制度は、飲料購入時に消費者が小売店にデポジットを支払い、空の容器を返すと返金される仕組みであり、回収率や質の向上が期待できるうえ、廃棄された容器を回収するホームレスや低所得層の資金源にもなっている。オレゴン州では、18年に対象容器を増やしデポジット額を倍にしたところ、回収率が64%から90%に増えている。
●自治体の規制
多くの自治体は、州の規制を待たずに先行して対策を行っている。プラスチック製レジ袋を禁止・規制している自治体の数は数百に上っており、07年に全米で最初にプラスチック製レジ袋を禁止したサンフランシスコ市は、同年飲食事業者に対して発泡スチロール製とその他たい肥化・生分解できない容器の使用を禁じている。17年にはこれら容器の販売も禁じ、19年には医療用途や障害者以外へのプラスチック製のストローやマドラーの配布を禁止した。20年からは、紙や天然繊維製の食品資材や容器に生分解可能の認証を取得するよう義務付けている。同市はプラスチック以外にも生ゴミの回収・たい肥化等さまざまな廃棄物削減策を進めており、リサイクル率は過去10年間60%程度を維持していた。しかし中国の規制後は減少に転じ、53%に落ちている。20年までにゴミの埋め立て・焼却ゼロという野心的な目標を設定していたが達成の見通しがつかず、18年に30年までに廃棄物15%削減、埋め立て・焼却50%削減と目標を再設定している。
シアトルは、中国の輸入規制に対して国内や他アジア市場へ転換する等迅速に対応したため、他都市に比べて影響が少なく、18年のリサイクル率は前年と同等の57%を維持した。同市も09年に飲食産業での発砲スチロール製容器の使用を禁止し、翌10年にはたい肥化可能あるいはリサイクル可能な容器の使用を義務付ける等廃プラ政策に力を入れており、18年には全米で初めてたい肥化できないプラスチック製ストローやカトラリーの使用を禁じた。
他にも、カリフォルニア州バークレー、マリブ、サンタモニカ、フロリダ州マイアミビーチ、ニュージャージー州モンマスビーチ等、海岸沿いの都市を中心に多くの自治体がプラスチック製ストローを禁じている。廃プラの中でそれほど大きな割合を占めていないストローを禁止する動きがあるのは、15年にテキサスの大学院生が投稿したウミガメの鼻に刺さったストローを除去する痛ましい動画がSNSで拡散され、世界的にストロー批判と廃プラ削減運動が起こったためである。ストローの禁止自体に大きな削減効果はないが、影響が小さいゆえに抵抗勢力が少なく法制化しやすいうえ、市民への啓蒙効果や他のプラスチック規制への足掛かりとなることが期待されている。
●反規制派の対策
一方、こうした自治体の個々の規制は企業や市民への不利益を招くとして、オクラホマやノースダコタ、テネシー等16州では、州内の自治体が容器包装の規制を課すことを禁じる法案が可決している。州の統一規制の方が望ましいのは自明だが、これらの州で容器包装の規制に向けた動きはなく、産業界によるロビイングの産物であることがうかがえる。
こうした状況に見かねた連邦議員らが今年、連邦法案「プラスチック汚染からの脱却法(Break Free From Plastic Pollution Act)」を提出した。法案では、リサイクルできない使い捨てプラの使用禁止、拡大生産者責任の適用、飲料容器デポジット制度の連邦適用、容器包装のリサイクル原料含有率の設定、リサイクル・たい肥化表示の標準化、リサイクル施設設置への投資、バージンプラ生産施設の規制等が盛り込まれている。しかし、法案支持者に共和党議員は含まれておらず、共和党多数派の現議会で可決される可能性は低いと見られる。
何事においても意見が二分する米国では、国家として環境政策を進めることが難しく、先進的な州や自治体が他をけん引する形となる。これを世界の縮図と見れば、学べることも少なくないだろう。