特集/環境負荷の少ない飲料容器とは?世界で広がるリユース容器
2020年03月16日グローバルネット2020年3月号
一般財団法人 地球・人間環境フォーラム
天野 路子(あまの みちこ)
東京オリンピック・パラリンピック(東京2020大会)の開催まで半年を切りました。1月に国際オリンピック委員会(IOC)が発行した「Plastic Game Plan for Sport」には、「スポーツを通じてより良い世界を構築する」というビジョンに沿ってスポーツコミュニティが使い捨てプラスチック削減に関する適切な計画を立てることで、スポーツイベントから多くのプラスチックを削減でき、その過程でサプライチェーンや何百万人ものスポーツファンに行動を促すこともできるとしています。具体的な取り組みとして使い捨てプラスチック製カップのリユースカップへの切り替え、給水スポットの設置等が例示されています(図)。
東京2020大会の持続可能性に配慮した運営計画においても、運営時廃棄物の再使用・再生利用を進める一つの取り組みとして「リユース食器の利用に可能な限り取り組む」と明記されており、当財団等では大会組織委員会やスポンサー企業等に同大会や関連イベントでのリユースカップ導入を働き掛けてきましたが、導入に向けた動きは進んでいません。しかし、脱使い捨てプラスチックの動きが加速する中で、世界ではリユースカップの利用が拡大しています。
リユースカップはプラスチック製
リユースカップは使い捨て容器に替えて、何度も洗って利用するカップ類の総称ですが、屋外等での使用時に落としても鋭角的に割れないこと、使い捨てカップ同様に安価で供給できること、洗浄施設まで輸送工程が入ることから軽いことが求められます。これらの条件を満たすプラスチック素材のポリプロピレン(PP)製が主流で、120℃まで耐熱性があり、丁寧に扱うと200~300回使用可能で、破損してもリサイクルが可能です。
バイオプラスチック素材のリユースカップの運用を検討するために、コーンスターチを一部原料にして試作したカップを使用・洗浄・乾燥工程を繰り返す実験が行われましたが、耐熱・耐久性がPP製カップよりも大きく劣る結果となりました。現時点では、バイオ由来の原料を使うことで製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を一部削減するよりも、PP製の耐久性の高いカップを回収して繰り返し使用する方がライフサイクル全体で環境負荷の低減につながると考えられています。
ドイツのリユースカップ
リユースカップはドイツが発祥の地です。1990年代よりサッカー場等、さまざまな場所で利用されてきましたが、最近はポリ乳酸(PLA)等の生分解性使い捨てカップに切り替える動きがあるようです。
ドイツでリユースカップのレンタルサービスを行っているCUPCONCEPT社のWEBサイトによると、プロサッカーリーグ・ブンデスリーガでは1部と2部合わせて年間1,200万個の使い捨てカップが使用されており、試合の後はプラスチックカップのごみがサッカー場に散乱しているそうです。「環境にやさしい代替品」としてPLAの生分解性使い捨てカップが増え続ける中、リユースカップを5回繰り返し使用する方が環境負荷は少ないと同社は訴えています。さらに、使用済みのPLAカップは分別回収されずに燃やされる可能性が高く、また、原料は食料生産の面でカーボンフットプリントが大きくなる懸念もあり、一度しか使わないカップのために資源を無駄にするのではなく、リユースカップの使用が提案されています。
一方、2016年にドイツのミュンヘンで設立されたRECUP社は「RECUP」という共通リユースカップを運用しています。参加するコーヒーショップでコーヒー代に加え1ユーロ(約120円)のデポジット(預り金)を払うとPP製の専用リユースカップでテイクアウトでき、使用済みのカップは参加店舗であればどこでも返却可能で、1ユーロが返金されます。参加店舗検索アプリもあり、ドイツ全体で4,700超の店舗が参加しているそうです。
ドイツで1年間に捨てられるテイクアウト用コーヒーのカップは28億個に上るとされ、マイカップやマイボトルがなくてもリユース可能な容器でコーヒーをテイクアウトできるRECUPの取り組みは、日本でも参考になりそうです。
IoTを活用したリユースカップ
インドネシアのバリ島では、2018年よりIoTを活用したリユースカップの仕組み「revolv.」が始まり、シンガポールや米国にも広がっています。
ドイツのRECUP同様、テイクアウト時にデポジットを払ったリユースカップを使用後に返却する仕組みですが、カップの貸し出し、返却の管理にIoTを活用しています。シリコンのふたと付きの強化ガラス製やステンレス製のカップが利用され、日本のSuica等の交通系ICカードにも内蔵されているRFIDタグ※が内蔵されています。
利用者はMUUSEというシステムにログインし、カップ底のQRコード(写真)をスキャンしてカップの貸し出し、返却を行います。カップの利用可能期間は5日間で、その間にカップを返却しなければシンガポールでは8シンガポールドル(約640円)、米国では10ドル(約1,100円)が追加で請求されます。持ち去りを防ぐ仕組みも導入しており、IoTを活用した新しい仕組みです。
※RFIDタグとは、電子情報(製造年月日等の情報)を入力しているRF タグを貼り付け、読み込み装置の「リーダライタ」で電子情報を読み込むシステム
おいしい飲み物をリユース容器で
一方、米国カリフォルニア州で生まれたブルーボトルコーヒーは2020年までに全米で「廃棄ゼロ」を目指し、まずは同州の2店舗で使い捨てカップを廃止する実験を行うことを発表しました。すでにプラスチックストローは紙製ストローに、使い捨てのプラスチックカップは100%堆肥化できるサトウキビから作られたカップに切り替えていましたが、結局は、全米の店舗で消費される年間約1,200万個のうち多くが堆肥化されることなく埋め立て処分されることを問題と考えたようです。同社のWEBサイトには、マイボトルやリユースカップの利用により「おいしいコーヒーを提供する際に使い捨てカップをなくすことは可能だということをお客様と世界に示したい」というメッセージが書かれています。
プラスチックの削減という名目で、非プラスチック素材やバイオプラスチック素材の使い捨て容器に切り替えるドイツの動きもありますが、資源を一瞬で消費する使い捨ての行為に変わりはありません。大事に繰り返し使用するリユース容器の利用が国内でも広がることを期待します。