環境条約シリーズ 336ゲノム編集生物とカルタヘナ法
2020年03月16日グローバルネット2020年3月号
前・上智大学教授 磯崎 博司
カルタヘナ議定書は、改変生物とは、現代のバイオテクノロジー技術(生体外で加工した核酸を組み込む技法の応用)によって得られる遺伝素材の新たな組み合せを有する生物であると定義している。ただし、伝統的な育種・選抜(突然変異誘発を含む)技術による場合や①自然界でも生じる組合せの場合は除外される。欧州連合(EU)の遺伝的改変生物指令や日本のカルタヘナ法もカルタヘナ議定書と同様の定義を置くとともに、EU指令は②突然変異誘発の場合を、カルタヘナ法は同一分類学上の種に属す生物の核酸の場合と①の場合を除外している。
特定のゲノム編集生物の法的位置付けがEUと日本において2018年に検討されたのを受けて、ゲノム編集生物については現行法(国際法/国内法)が想定しておらず規制されていないので、その取り扱い方が検討されたと言われることもある。しかし、ゲノム編集生物は改変生物に該当し、すでに、カルタヘナ議定書、EU指令やカルタヘナ法の規制対象である。EUと日本で検討されたことは、正確には、ゲノム編集のうちの特定手法(塩基配列切断後の自然修復を通じた突然変異の誘発)により得られた生物(以下、当該生物)が、EU指令の除外②に、また、カルタヘナ法の定義(細胞外で加工され移入された核酸を有する生物)の③反対解釈による除外に該当するか否かであった。
EU裁判所は、EU指令の前文17に従えば、除外②の範囲は「以前から多くの用途で使用され、長期間安全に使用された記録を有する遺伝的改変技術により作成された生物」に限定されるため、当該生物は除外②に該当しないと判じた(本誌2018年9月)。他方、カルタヘナ法にはそのような字句がないため、日本の検討会は、当該生物は除外③に該当すること、ただし、当該生物の使用者は生物多様性に関わる情報を提供すべきことを確認した。それに基づいて、2019年2月に当該生物の取り扱いに関する「環境省通知」が公示された。それは上記の情報提供を定めるなど、予防原則に沿っており、日本の制度としては画期的である。