国際セミナー「森林バイオマスの持続可能性を問う〜輸入木質燃料とFIT制度への提言」森林ベースのバイオエネルギーは気候変動の解決策ではない~カナダなどから調達するリスク

2020年02月17日グローバルネット2020年2月号

Stand earth 森林プログラムディレクター
タイソン・ミラー

再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の導入により、木質ペレットなどを使ったバイオマス発電事業がここ数年の間で急激に増えましたが、その多くは海外で生産された輸入燃料に頼っています。木材を使った発電は、「炭素中立(カーボンニュートラル)」とされていますが、原料や燃料加工、輸送段階における温室効果ガスの排出を無視することはできず、生産段階での森林・生態系や地域社会への影響も考慮しなければなりません。果たして、輸入森林バイオマスを利用した発電は持続可能といえるのか。
 本特集では、2019年12月4日に東京都内で開催されたセミナーでの国内外の専門家による講演の概要を紹介し、目指すべきバイオマス発電について考えます。

 

Stand.earthは20年以上前から、主にアメリカとカナダにおいて、大規模な景観保全活動や市場に注力した紙・木材・バイオマスに関するキャンペーンなどを展開してきました。

欠陥のある森林炭素会計とバイオマス

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書の執筆者の一人である科学者、タフツ大学のビル・ムーマウ博士は「森林の成長により、毎年の二酸化炭素(CO2)排出量の10~20%を追加で取り除くことができる。しかし、われわれはそれをしないで補助金を支払って森林を伐採させ、石炭の代わりに燃やさせ、それをゼロカーボン(CO2の純排出量ゼロ)と見なしている」とショッキングなことを述べています。

ムーマウ博士らの研究によると、バイオマス発電所は石炭またはガス発電所よりも発電量MWh(メガワット時)当たりのCO排出量が多いことがわかります。バイオマス燃焼時のCO2排出量は0とみなされていますが、実際には石炭を燃やした場合よりも、50~80%多く排出されています。

気候変動対策として重要な森林保護

さらに同博士は、気候変動対策を考える際、最良なのは森林再生だと述べています。森林破壊をやめ、劣化した森林の回復や劣化した土壌の炭素の回復など今後50年間で森林能力を回復してCO2を除去して森林を再生することができれば、毎年年間60億トンのCO2を蓄えることができると試算しています。60億トンというのは、アメリカの2億戸の住宅が使う10年分のエネルギーに相当する量です。

また、森林と土壌は気候変動の重要な要因となります。土壌から放出されるCO2の問題について私が初めて知ったのは2008年、オレゴン州立大学のビバリー・ロー博士の研究でした。ロー博士は、炭素の変動についてさまざまな形で計測をし、森林を伐採し、収穫後に植林した場合、森林は土壌かく乱によってCO2を放出するということを明らかにしました。そしてそのCO2の放出により、土壌の種類によっては5年から50年にわたり、吸収より放出する炭素の方が多くなるとしています。オレゴンの場合はこの期間が20年だったそうです。

つまり、その土地に起きる変化によって、森林は炭素を貯留するツールにもなれば、逆に炭素を正味で排出する排出源にもなるということです。この土壌からの炭素の排出に関する研究は、実は最新の研究でも、データもまだ十分にはそろっていないのが現状です。

リスクの高いカナダの木質ペレット産業

2017年時点で、アメリカは世界最大の木質ペレットの生産国で、カナダは第二位でした()。日本も少しずつですが、主要な需要国になっています。

カナダの寒帯林には地球全体の年間排出量36年分に相当する3,000億トン以上の炭素が貯留されていますが、原生林景観が失われた世界上位3ヵ国の一つでもあり、カナダでの木質ペレットビジネスは高リスクであるといえます。

カナダから木質ペレットを最も多く輸入している国はイギリスです。日本はそれに次ぐ第二の輸入国で、2018年の輸入量は60万トンを超え、2027年までに年間400万トン以上になる可能性があります。

カナダの木質ペレット産業が集中しているのは、ブリティッシュコロンビア(BC)州です。カナダで収穫される木材のうちペレットになるのは8%ですが(2018年)、BC州で木質ペレットのための収穫が行われている地域は、貴重な内陸温帯雨林で、絶滅が危惧されるカリブー(トナカイ)の生息地や、先住民族保護候補地域と大きく重なっています。

また、ペレット産業というのは過剰な伐採活動を伴って存続している産業です。伐採した樹木を丸ごとペレット製造のために使う全木ペレットの割合がカナダでは約20%、アメリカにおいては80%に上ります。

BC州では、老齢林や原生林でこれまでも大規模に伐採が行われてきましたが、木質ペレット生産のために、さらに伐採が行われていることに対して、市民団体などが強く反対活動を繰り広げています。

また、森林伐採に際し、さまざまな問題が発生しています。例えば、ある地域では周辺住民の水源地での過剰な伐採により、土壌が流出し、水源が汚染されているとして、反対運動が起きています。

世界最大のペレット調達先、アメリカ

一方、世界最大の木質ペレットの供給地であるアメリカにおいて、アメリカ南東部に七つの木質ペレット製造施設を所有している、世界最大のペレット会社・エンビバ社が反対運動の最大の標的となっています。

同社は当初、反対運動側からの問い掛けに対し、自分たちが使っている原料についてあまり情報を明らかにしませんでした。しかし、その後少しずつ情報を公開するようになり、現在では同社が扱うペレットの原料の約80%が製材端材や残材ではなく、全木を使ったもので、その過半数が湿地林から伐採されていると明らかにしています。

同社は2018年には、300万トン近いペレットをイギリスに輸出しました。2025年までには生産量を倍増するとしており、その半分以上を日本に輸出する契約をしています。

これは、大きな問題をはらんでいます。森林は洪水防御に不可欠であり、人々の生活に大きな役割を果たしているからです。

需要急増が予想される木質ペレット その解決策とは

ペレットの需要は2027年にはますます伸びていくと予想されています(前掲図)。世界各地で、とくに樹木を伐採して石炭の代わりにバイオマス燃料として燃やすことに補助金が出されることに対し、反対運動が起きています。

森林由来のバイオマスエネルギー、つまり木質ペレットは地域社会に害を与える誤った気候変動対策です。さまざまな技術が開発されてきた日本では、風力や太陽光、潮力、地熱、水素など他の革新的な低炭素エネルギー技術の開発に公的資金を投資するべきです。

そして、価格によって排出を抑える政策を策定し、森林、パーム油、その他問題の多い資源からのバイオマスエネルギーへの助成金を止めるべきです。

それにより、世論の反対、財政リスクや座礁資産のリスクを避け、逆に森林を守り、さらに再生させることが重要なのです。

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