INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第58回 2019年中国十大環境ニュース

2020年02月17日グローバルネット2020年2月号

地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

去る1月15日、中国生態環境部の直属機関である中国環境報社が毎年恒例の国内国際十大環境ニュースを発表した。中国環境報社は、新華社や人民日報社と同様に政府の管理下に置かれた報道機関である。いわば政府の広報機関であるから、十大ニュースはそのまま政府の意向が反映されているとみていいだろう。昨年1年間を振り返る意味も込めて、簡単な解説を加えながら十大環境ニュースの概要を紹介する。

1.中国共産党第19期第4回全体会議で生態文明制度体系の堅持完成を提出

10月28日から31日まで北京で第19期第4回全体会議が開催された。「中国共産党中央委員会による中国の特色ある社会主義体制を堅持し、完成し、国家統治システムおよび統治能力の近代化促進に関する若干の重大問題の決定」について検討し、採択した。

会議では、生態文明制度体系の堅持と完成、人と自然の調和の取れた共存の促進を提案した。また、最も厳格な生態環境保護制度を実施し、資源の高効率な利用制度を確立し、生態保護と修復制度を改善し、生態環境保護責任制度を明確にすべきとした。

【解説】中国では党の決定は政府の決定と同等以上に重要である。党の会議で生態文明制度、生態環境保護制度等に関する決定が行われたことを十大ニュースの一番に取り上げていることは、中国の目線を知る上で大いに参考になる。

2.習近平総書記が黄河を人民の幸福の河にすると強調

9月18日、習近平中国共産党中央委員会総書記は、黄河流域の生態保護と質の高い発展に関する座談会を(河南省の)鄭州で開催し、重要講話を発表した。

「緑の水と青い山は金山銀山である」という理念を堅持し、生態優先・グリーン発展を堅持し、黄河流域全体の質の高い発展を促進し、人々の生活を改善し、黄河文化を保護伝承し、黄河を人々の幸福の河にすると強調した。

【解説】習近平総書記の重要講話は党の決定と同等以上の重さを持つ。重要講話→党の決定→法制度化になる場合もある。今回のケースはどうなるだろうか。

3.長江デルタ統合発展国家戦略は全面実施段階へ入る

① 中国共産党中央委員会政治局会議は「長江デルタ地域統合発展計画要綱」を検討採択した。

② 国務院は「長江デルタ生態グリーン統合発展モデルゾーン総合計画」を承認した。

③ 11月1日、長江デルタ生態グリーン統合発展モデルゾーンが正式に発足し、長江デルタ統合発展国家戦略が新たな重要な一歩を踏み出した。

④ 11月5日、習近平総書記は第1回中国国際輸入博覧会の開会式で、長江デルタ地域統合発展を支持し国家戦略への格上げを表明した。

【解説】順番は私が付けて並べ替えたものだが、2.の黄河流域同様に長江デルタも重視し、今後の方向について最後に習近平総書記が重大な決定を下している。

4.今後、各期の党中央委員会任期中に定期的な生態環境監督査察を実施

中国共産党中央委員会弁公庁と国務院弁公庁が6月に制定通知した「中央生態環境保護監督査察業務規定」は、原則として各期の党中央委員会任期中に、各省・自治区・直轄市の党委員会および政府、国務院の関係部局並びに関係中央企業に対して、定期的な監督査察を行い、併せて必要に応じて定例監督査察での指摘事項の改善実施状況についてフォローアップする振り返り査察を実施することを明確にした。また、突出した生態環境問題に対して、状況に応じて特別監督査察を実施するとした。

7月から8月にかけて、第2ラウンド第1次として8組の中央生態環境保護監督査察グループが上海など六つの省・直轄市と中央企業の中国五鉱集団有限公司および中国化工集団有限公司を査察調査した。中央企業が初めて査察対象になった。

【解説】この内容については本誌2019年8月号連載第55回で詳しく紹介したので参照いただきたいが、これまでの中央監督査察(第1ラウンド)は、2015年8月に制定された環境保護監督査察計画(試行)に基づいて実施された試行版だったが、この度は正式に中国共産党中央委員会と国務院の規定として定められた。

5.汚染防止攻略戦の成果は顕著、環境は継続的に改善

2019年、大気、水、土壌の三大分野の生態環境保護を重点として引き続き力を注いだ。投入を増やし、監督を強化し、高品質の経済発展と高い水準の生態環境保護をともに推進し、重要な進展を得た。

全国のPM2.5基準未達成都市の平均濃度は継続して低下しており、県レベル以上の2,804の水源地では、10,367の環境問題の99.9%に対して対策が完了した。長江と渤海に流入する汚水排水口現場調査業務はすべて完了した。

【解説】大気、水、土壌の三大行動計画に基づいてすでに順調に対策が進められており、また、計画の中間年度でもあるので、相対的に軽い扱いになっている。

6.北京世界園芸博覧会でグリーン発展イニシアティブ

4月29日から10月7日まで北京の延慶で2019年北京世界園芸博覧会を開催した。「グリーン生活、美しい家」をテーマに世界に向けてグリーン発展の理念を説明し、グリーン発展イニシアティブを発信した。世界から110ヵ国・国際機関が出展し、100以上の国家デーと名誉デー、3,000以上の民族民間文化活動が催され、約1,000万人が参観した。展示規模と出展者数で世界園芸博覧会の歴史記録を更新した。北京世界園芸博覧会は中国のグリーン発展の成果を示し、中国が生態文明建設を進めるという確固たる決意を体現した。

【解説】習近平総書記が唱える生態文明というキーワードと密接な関係のある行事であった。

7.「ゼロ廃棄物都市」建設のパイロット事業始動

5月、深セン市で「ゼロ廃棄物都市」建設のパイロット事業を正式に開始した。国務院弁公庁が今年初めに「『ゼロ廃棄物都市』建設パイロット業務計画」を発表し、「ゼロ廃棄物都市」建設のパイロット事業実施を提案した。4月末には、60の候補都市の中から「11+5」の都市と地域が最初のパイロット地点として正式に選ばれた。各パイロット都市と地域は「一都市一策」の原則に従って具体的な実施計画を策定し、審査に合格した。今後、2021年以降の「ゼロ廃棄物都市」拡大に向けて、汎用・普及可能なモデルスキームを形成していく。

【解説】ゼロ廃棄物都市は、中国で特徴的にみられる理念先行の提案であるが、このようなパイロット事業の取り組みを通じて発展していく場合が多い。

 

以下誌面の関係上解説抜きで簡単に紹介しておく。

8.第2回生態環境モニタリング大演武会開催

全国の生態環境モニタリングレベルを向上させるため、4月から10月にかけて生態環境部など六つの省庁が共同で開催したモニタリング技術を競う催し。

9.ごみ分別実施の立法を推進

7月1日から「上海市生活ごみ管理条例」が正式に実施され、上海はごみ分別を強制する時代に入った。

2017年3月国務院弁公庁は、国家発展改革委員会と住宅都市・農村建設部に対して「生活ごみ分別制度実施計画」を送付し、まず46都市が先行して生活ごみの強制分別を実施し、2020年末までにごみ分別に関する関連法令や基準体系を基本的に確立し、2025年までに全国地区級レベル以上の都市においてごみの分別処理システムを基本的に構築することを要求した。

10.原子力安全白書を初めて発表

9月3日、国務院新聞弁公室は「中国の原子力安全」白書を公表した。これは中国が発表した最初の原子力安全に関する白書である。

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