NSCニュース No. 123(2020年1月)定例勉強会報告「日本企業の長期ビジョン策定状況及び長期ビジョン策定のための手法例」
2020年01月15日グローバルネット2020年1月号
NSC代表幹事、サステナビリティ日本フォーラム代表理事
後藤敏彦
2019年11月13日に東京都内で開かれた本勉強会では、国内企業の長期温 暖化対策の取り組み状況と、「SDGコンパス」にも取り上げられている長期ビジョン策定の手法例について、(一社)日本経済団体連合会環境エネルギー本部上席主幹の谷川喜祥氏と株式会社ビジネスコンサルタントイノベーションプロデューサーコンサルタントの内藤康成氏のお二人にご紹介いただいた。
日本経団連
1991年に制定された「経団連地球環境憲章」から現在までの取り組みの概要のほか、主として二つのことをお話しいただいた。基本的に「自主的取組」というスタンスで一気通貫してお話しされた。
1)経団連は2018年10月、会員企業・団体に対し、2050年の長期ビジョンの策定に向けた検討(策定済みの場合は情報提供)を呼び掛けた。
2019年1月15日の公表以来、順次データ更新しておられ、7月末時点で77団体が公表、184団体が策定検討中とのことである。
経団連が呼び掛けた意義は大きく、温室効果ガス(GHG)についての長期ビジョンの策定を呼び掛けたのは多くの企業等へ多大な影響を与えたと考える。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の調査では10年超の計画を持っているのは上場企業で28%程度。今後の各社の取り組みに期待したい。
2)2019年6月閣議決定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」について、「経団連意見に概ね沿った内容」と評価しつつも三つ△点を付けられていた。
- カーボン・プライシング:これについては節を分けられて経団連の主張等を詳細に解説された。筆者には極めて否定的な評価と聞こえた。さまざまな「民主導のイノベーションを阻害することへの言及無し」という評価であった。筆者はカーボン・プライシングこそ民主導のイノベーションのキーと考えており違和感がある。経団連会長会社の日立製作所はトン5千円のインターナル・カーボンプライシングを始めており、どのような背景でこうした評価につながったのであろうか
- 原子力と石炭に関しては省略。
さらに、EUタクソノミーへの懸念と経団連の対応を話された。国際的なスタンダード設定には日本は常にといってよいほど受動的であり、懸念はまったく同感である。しかし、一般論として、日本はもっと主体的にスタンダート策定に関わらねば、常に同じ問題に遭遇するものと考えている。個々の大企業はもっと継続的に人財を投入すべきというのが長年ISOのエキスパートなどを務めた筆者の意見である。
フューチャー・フィット
グローバル・コンパクトが中心になって策定したSDGコンパスでも取り上げられており、そのインストラクターである内藤氏にお話しいただいた。
ナチュラルステップが定義した下記四つのシステム条件を基に、そうした活動に加担しないことを求めることを大前提にしている。
- 自然の中で地殻から掘り出した物質の濃度が増え続けない。
- 自然の中で人間が作り出した物質の濃度が増え続けない。
- 自然が物理的な方法で劣化しない。
- 人々が自らの基本的ニーズを満たそうとする行動を妨げる状況を作り出してはならない。
この内容は多岐にわたり、実務に落とし込むためには、訓練を受けたインストラクターの支援が必要と思料した。
とはいえ、本誌7月号で書いたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)にも対応し、企業の発展戦略とSDG対応戦略を一本化する必要があると筆者は考えている。これから企業が各部門横断的に横串を刺して中長期ビジョン・戦略を策定する場合には有力なツールの一つとなると思う。