特集/IPCCシンポジウム2019「くらしの中の気候変動」発表4:日本の気候変動対策
2019年12月16日グローバルネット2019年12月号
環境省地球環境局総務課
脱炭素化イノベーション研究調査室長
吉川 圭子(よしかわ けいこ)さん
日本政府はIPCCに対し拠出金を出しており、また、田辺さんが共同議長を務めるTFI(インベントリータスクフォース)の技術支援ユニットが日本に設置されており、その事務局に対する支援もしています。さらに、報告書の執筆者を積極的に推薦し、活動しやすいように旅費を支援する等してサポートし、日本の培ってきた科学的知見が効果的に取り上げられるよう努めています。
気候変動対策については、緩和と適応を車の両輪と考えて取り組んでいます。緩和は省エネ活動や二酸化炭素(CO2)の吸収源となる森林を増やす等温室効果ガスの排出を抑制する策で、これについては地球温暖化対策推進法(1998年)で推奨されています。一方、適応については気候変動適応法が2018年に策定され、これに基づいて被害を回避・軽減するための対策が進められています。
わが国では、GDP(国内総生産)が伸びているにもかかわらず、温室効果ガスの排出量は2013年から減少しており(デカップリング)、脱炭素対策が着実に進んでいると考えています(図1)。
2019年6月、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定され、政府全体あげて今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会を目指すという目標を掲げました。
わが国の政策の基本的な考え方は、非連続なイノベーションを通じた「環境と成長の好循環の実現」です。将来に希望の持てる明るい社会を描きながら、成長を遂げながら環境も守り、好循環で実現していこうという考えです。エネルギー、産業、運輸、地域・くらし、吸収源の各分野でそれぞれ取り組みを掲げ、さらにそれを支える横断的な施策、イノベーションの推進、グリーンファイナンスの推進、そしてビジネス主導の国際展開、国際協力で相手国と協働してイノベーション起こすことで、わが国の環境と成長の好循環、そして相手国も含めた双方に利益となるような取り組みを進めていきたいというコンセプトです。
一方、温室効果ガス観測技術衛星GOSATシリーズについては、現在3号機の開発を進めており、今まで点で取っていたデータを面的に取って、大規模な発生源を誰もが観測データから見て取れるデータの提供が可能なプラットフォームを作るというチャレンジングな目標を掲げて取り組んでいます。
適応については、各省連携して取り組んでいます。とくに環境省として力を入れているのが各地域での取り組みです。地方公共団体や地域気候変動適応センター等の活動を支援するとともに、広域協議会をを通じて地域ごとの課題を検討しています。
そして各主体の適応の取り組みを支える情報基盤である気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)も関係省庁と連携して2016年8月に構築し、国立環境研究所に事務局を置いて、さまざまな情報を提供しています。
ポータルサイトでは、適応に取り組むに当たって役立つ「全国・都道府県情報(適応策を検討する上で役立つデータを都道府県別に掲載)」(図2)のほか、「国および地方公共団体の適応計画紹介ページ」「地方公共団体における気候変動適応計画策定ガイドライン(地方公共団体における適応計画の策定に当たり参考となるよう、具体的な手順などを整理したもの)」「地方公共団体会員専用ページ(情報交換用)」「気候変動影響に関する文献一覧」「気候リスク管理と適応ビジネスに取り組む事業者の取り組み事例紹介」や「変化する気候に適応するための知恵と工夫」等も紹介しています。
さらに、参考情報のリンク集、気候変動関連ニュース、普及啓発のための動画などを掲載していますので、ぜひ一度ご覧になっていただければと思います。
さらに、民間企業の経営や実務に関わる方を対象に、気候変動と事業活動との関わりについての理解を深め、気候変動適応の取り組みを進める際の参考としていただけるよう「民間企業の気候変動適応ガイド―気候リスクに備え、勝ち残るために―」を作成し、A-PLATで公開しています。