特集/IPCCシンポジウム2019「くらしの中の気候変動」基調講演1:IPCC第6次評価サイクルの最新情報

2019年12月16日グローバルネット2019年12月号

IPCC/TFI(インベントリータスクフォース) 共同議長
田辺 清人(たなべ きよと)

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2019 年、「2019 年方法論報告書」(5 月)、「土地関係特別報告書」(8 月)、「海洋・雪氷圏特別報告書」(9 月)を公表し、現在は2021 年から2022 年に予定されている「第6 次評価報告書」の公表に向け、大詰めを迎えています。
 本特集では、11 月21 日に東京都内で開催されたIPCC シンポジウム「くらしの中の気候変動」(主催:環境省、気象庁)での基調講演と、気候変動対策に積極的に取り組む企業からの登壇者も迎えたパネルディスカッションでの各パネリストによる発表の内容を紹介します。(2019年11月21日、東京都内にて)

 

世界中の科学者の自発的な協力・貢献に支えられているIPCC

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は1988年、世界気象機関と国連環境計画が共同で設立しました。これは当時、気候変動問題が国際政治上の課題として浮上し、政策決定者が科学者による独立した助言を必要とするようになったことが背景にあります。現在195ヵ国が加盟し、世界中の科学者の自発的な協力・貢献によって支えられています。

人間が引き起こす気候変動のリスクや、人間社会への影響への対応、気候変動の緩和対策等について、科学的・技術的・社会経済学的な情報を評価して政策決定者に伝えることが役割、IPCC自身が研究を行っているわけではなく、世界中で行われている関連研究を評価し、その重要な要素をまとめて、科学者からのアドバイスとして政策決定者あるいは一般社会に対し提供しています。しかし、各国政府が取るべき政策や目標を指示するものではありません。

IPCCは気候変動問題のあらゆる側面をカバーできるよう、第1作業部会(自然科学的根拠)、第2作業部会(影響、適応、脆弱性)、第3作業部会(緩和策)、そして温室効果ガスの排出量の計算をするための共通の計算方法に関するガイドラインを提供する「国家温室効果ガスインベントリー関するタスクフォース(TFI)」に分かれています。

IPCCが公表する報告書

IPCCは過去30年の間にさまざまな報告書を発表してきました。中でも気候変動に関する総合的な科学的、技術的側面の評価を行う「評価報告書」は数年に1回、これまでに5回作成され、それぞれ国際的な協定や合意に大きく影響を与えてきました。第1次評価報告書(1990年)は公表の2年後の国連気候変動枠組条約の合意に影響を与えました。また、第2次報告書(1995年)は京都議定書の合意に、第3次報告書(2001年)は京都議定書の運用ルールを決めたマラケシュ合意に、第4次報告書(2007年)はその後のバリ行動計画やコペンハーゲンでの合意、カンクン合意などの国際交渉につながっています。2013年に公表された第5次評価報告書はその後のパリ協定の合意に大きく影響を与えました。現在、2021~22年の完成を目指して第6次評価報告書の作成に取り組んでいます。

その他、IPCCは航空と地球大気、二酸化炭素の回収貯蔵(CCS)、再生可能エネルギー等、特定の問題に関して評価する「特別報告書」を発表しています。また、温室効果ガスの排出量の計算方法を示すガイドライン等「方法論報告書」も出されています。

第6次評価サイクルと期待される統合報告書

2015年からの第6次評価サイクルでは三つの特別報告書と三つの評価報告書、一つの方法論報告書の計八つの報告書が作成されることになっています。うち「1.5℃特別報告書」(2018年10月)、「2019年改良版温室効果ガスインベントリーガイドライン」(2019年5月)、「土地関係特別報告書」(同8月)、「海洋・雪氷圏特別報告書」(同9月)の四つはすでに発表されており、2022年4月の「統合報告書」の発表でサイクルが終了することになっています()。

今後はいよいよ評価報告書の作成が佳境に入ります。各作業部会の報告書については2021年に順次承認される予定ですが、アウトラインや目次構成、内容などはすでに決定されており、インターネットで誰でも入手できるようになっています。

また、統合報告書の内容に関する検討は徐々に進んでおり、予備的な検討では、考慮すべき重要な要素として「パリ協定におけるグローバルストックテイク」「温室効果ガスの排出、気候、リスクと開発経路の相互作用」「経済的・社会的費用と便益」「 持続可能な開発の文脈における適応と緩和の行動」「低温室効果ガス排出社会への移行のための資金と支援手段」の五つが合意されています。

2023年にパリ協定の下で、国際社会全体の温暖化対策の進捗状況を評価する「グローバルストックテイク」が初めて行われるため、その前年に完成予定の統合報告書は、重要な科学者からのインプットとして期待されています。

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