NSCニュース No. 122 NSC定例勉強会(2019年7月)報告不確実性の時代における長期生き残り戦略とは
~TCFDのシナリオ分析の実践~
2019年11月15日グローバルネット2019年11月号
NSC勉強会担当幹事、サンメッセ総合研究所(Sinc)所長・首席研究員
川村 雅彦(かわむら まさひこ)
【講演1:TCFDとシナリオプランニング・分析】
NSC共同代表幹事
後藤敏彦
気候関連財務情報開示の中核はガバナンスにあり、長期ビジョン策定にはシナリオプランニングと分析が必要。
◆TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の推奨する開示情報は四つ
- 測定指標と目標:気候関連のリスクと機会を評価・管理する指標と目標
- リスクマネジメント:気候関連のリスクを特定・評価・管理する方法
- 経営戦略:気候関連のリスクと機会が事業、戦略、財務計画に及ぼす実際的かつ潜在的インパクト
- ガバナンス:気候関連のリスクと機会に関する取締役会のガバナンス
◆長期ビジョン策定の必要性
- 新しいパラダイムの中で「どういう姿」にしたいかは、トップの決断次第
- 3~5年計画では変革は難しく、中長期の時間軸(最大2050年)が必要
◆シナリオプランニング・分析
- 複数シナリオを1軸で考える:気候変動戦略として、2℃と4℃シナリオで検討するのは合理的
- 複数シナリオを2軸以上で考える:企業の長期戦略、SDGs戦略と気候変動戦略を一本化するには、気候軸に加えて、業種・業態に即した別軸が必要(シェル社のケース)
- ありたい姿(=目的地)は架空の夢物語ではなく、その時点(例えば2050年)の想定される制約条件をクリアーしていること
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【講演2:キリングループにおける長期的な気候変動戦略とTCFD】
キリンHD(株)CSV戦略部シニアアドバイザー
藤原啓一郎氏
2018年がターニングポイント。従来可能性が低いと考えていた環境課題が顕在化し、シナリオ分析の有用性が判明。財務への反映が今後の課題。
◆環境長期ビジョン(2013年策定)
- 目指すべき方向性:資源循環100%社会の実現
- 四つの課題:水資源、生物資源、容器包装、及び地球温暖化
◆2019年に四つの影響評価を実施し、戦略のレジリエンス評価
- 農産物収穫量の気候インパクト
- 栽培地の水リスク
- 国内生産拠点・物流の水リスク
- 炭素価格の電力価格への影響
◆中長期リスクに対する適応戦略
- 水資源、生物資源、容器包装、地球温暖化について、それぞれ考えられるリスクとその対応案を策定
◆課題と今後の進め方
- 「グループCSV委員会」における、経営層による長期環境ビジョンの2019年度内の見直し
- 従来のリスクマネジメントを脱した、シナリオ設定による新しいリスクマネジメントの経営への定着
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【講演3:気候変動とTCFDの取り組みについて】
東急不動産HD(株)グループ企画部サステナビリティ推進室
松本恵氏
経営者が気候変動が経営リスクに直結することを認識。ガバナンスが重要だが、事業部門の意識向上(自分事化)も課題。
◆サステナビリティの取り組みの進化
- 1990年代の法令対応・社会貢献→2000年代のリスク管理・ガバナンス→2010年代のサステナビリティ
- 2008年のCSR委員会から2018年のサステナビリティ委員会へ
- 「サステナビリティ・ビジョン」の策定とともに、470の社会課題から7分野のマテリアリティを特定し、機会とリスクを明確化。SDGsともひも付け
◆事業での具体的な取り組み
- 渋谷駅周辺再開発(ヒートアイランドも考慮した植樹)
- 東急田園都市線沿線のシニア住宅事業
- 全国40ヵ所の再生可能エネルギー事業(RE100にも参加)
◆TCFDへの対応
- 2018年後半に環境省支援でシナリオ分析を実施し、取締役会でTCFD賛同を決定
- リスク重要度評価は、移行リスクと物理リスクについて、政策・経済・社会・技術のPEST分析
- 4℃シナリオ(気候変動大:自然災害激甚化と平均気温上昇)と2℃シナリオ(規制影響大:炭素税導入)について、都市部とリゾート部のプラス面とマイナス面を分析し、財務影響も検討