特集/シンポジウム報告 動き出した自治体~先進自治体の「プラごみゼロ宣言」~未来のために知っておきたい海とプラスチックのはなし

2019年09月17日グローバルネット2019年9月号

大阪商業大学准教授、NPO法人「プロジェクト保津川」代表理事
原田 禎夫(はらだ さだお)さん

 いまや世界は脱プラスチックごみ社会の実現に向けて動き出しています。
 日本国内でも、ようやく一部の自治体が容器包装をはじめとするプラスチックごみの削減に着手し、さまざまな取り組みを進めています。
 本特集では、リユース食器のレンタル事業を確立し、リユース食器レンタルの普及活動を行っているNPO 法人 スペースふう が主催し、今年7月11日に東京都内で開催された「第13 回ふうネットサミット『プラごみゼロ宣言』 ~先進自治体から学ぶ!! ともに学ぼう!!」での基調講演および「プラごみゼロ」を目指して取り組みを進めている先進自治体からの報告を紹介します。

 

先週、南米のペルーで学会があり1週間行っていました。スーパーの生鮮食料品売り場に行くと、ホウレンソウがバナナの皮でラップしてあるのです。ペルーはジャガイモ、トマトの原産国ですが、ジャガイモは麻袋で、コカ・コーラのミネラルウォーターは100%リサイクルしたプラスチック容器で売られているのです。また、ホテルには歯ブラシやひげそりなどは一切ありません。置いてはいけないのです。

現実に気付き、新しいことにチャレンジを

私は生まれも育ちも京都府の亀岡市で、今も亀岡に住んでいます。亀岡市は大阪湾から70kmぐらい川をさかのぼった上流にあり、海がないのですが、そこで「こども海ごみ探偵団」という活動で、夏休みに川と海のごみを調べています。

また12月には、大阪湾の向かいの淡路島にごみの調査に行きます。地元の中学生も生徒会の行事で島の海岸に集まります。淡路島のすぐ横にある無人島の成ケ島にウミガメが産卵しに帰って来るのですが、その海岸がごみだらけなので、ウミガメが産卵を諦めて海に戻ってしまうことがありました。

20年ぐらい前から地元の皆さんが海岸の清掃活動をしています。12月の清掃活動に亀岡の子供たちも参加しています。大阪湾は閉鎖性水域で、大都市で出たたくさんのプラスチックごみが流れ着くのです。東京のお台場辺りなども同じですが、最近の海岸はカラフルで、ピンクや青、黄色のプラスチックごみが流れ着いています。ストローなどもいっぱいあります。

私たちは意図してか、意図していないかにかかわらず大量のプラスチックを海に流してしまっている。まずはこの現実に気付くこと、そして気が付いた人からいろいろな新しいことにチャレンジしたら良いと思います。

使い捨てプラスチックを使うことは未来の世代に対する犯罪

ニューヨークでは2019年1月1日から、使い捨ての発泡スチロールのトレーなどの容器の使用を完全に禁止する法律が施行されました。店で使うと7月1日以降は罰金1,000ドル(約10万円)が科されます。

また、ケニアではレジ袋を使うと400万円の罰金。ニュージーランドはお店でレジ袋を出すと最大で750万円ぐらいの罰金です。つまり、使い捨てプラスチックを使うということは、簡単に言うと犯罪なのです。誰に対する犯罪か。それは未来の世代に対する犯罪ということなのです。そういう感覚に世界は急速に動いている。日本のわれわれも、考え方を変えなければいけないと思います。

川を通じて海に流れ込むごみ 大事な川の清掃活動

では、海のプラスチックごみはどこから来るのでしょうか。瀬戸内海での推計データでは、70~80%ぐらいは陸から川を通じて流れ込んでいます。今どき、川にごみを捨てている人はそんなにはいないと思いますが、自動販売機横の回収ボックスに入らなくてペットボトルがあふれている状況などはよく見かける光景です。

京都と大阪を流れる淀川水系を調べたのですが、10年前はごみが非常に多かった大阪の淀川は、毎週どこかで大規模な清掃活動が行われています。毎週清掃されていると、新しいごみしか流れてきません。そのため、たまっていたごみが無くなり、淀川は驚くほどきれいになりました。清掃活動は大事なことなのです。

大阪湾に大量のプラごみ レジ袋有料化の世論を後押し

今あるごみを海に流さない、そのためには清掃活動はとても大事です。一方、「元から断つ」という努力もそれと同じぐらい重要なのです。

大阪湾で操業している漁師に協力してもらい、海底をさらってカレイやヒラメ、エビを捕る底引き網漁について聞いてみると、場所によってはペットボトルしか捕れない海域もあるということでした。

関西空港の北の海域で調査したのですが、底引き網のかぎ爪に引っ掛かったごみを数えたところ、ビニール片が337枚、そのうち163枚がレジ袋でした。これを大阪湾全体の面積に広げると、大阪湾の海底にレジ袋が300万枚沈んでいると推定されました。

この調査結果は、今年6月、G20大阪サミットの開催直前に大きく報道されました。全国からいろいろなメディアが押し寄せ、ニューヨーク・タイムズからも取材を受けました。大阪の人たちにとってはかなりショッキングなニュースで、レジ袋有料化は仕方がないという空気が大阪では一気に加速しました。

今は「ごみを出さない時代」

子供から「何でプラスチックなんか使っているのか」と叱られる時代が間もなく訪れるでしょう。今12歳の子供は10年たてば社会人です。その頃にその子供が恥ずかしい思いをしなくて済むよう、10年先を皆で考えていくということが大事だと思うのです。

世界はものすごいスピードで変わり始めています。中国は、昔は自転車やバイクが勢い良く走るイメージがありましたが、今や北京や上海へ行くとバイクは走っているのですが大変静かです。100%電気で動くバイクなのです。

もはや、従来のプラスチックの便利さに頼っている場合ではないですよ、という世界の流れに急速に変わっています。日本はこの20年間に、可能な限りリサイクルする「循環型社会」というものを進めてきました。しかし、ごみは出てくるのです。今はもはや「ごみを出さないという時代」なのです。

楽で効果の大きいリユース食器の利用

最後にリユース食器について紹介します。京都の祇園祭には一日に50万人もの観光客が来るのですが、飲食の容器にリユース食器が使われています。会場にごみ箱を、以前は1,000ヵ所設置していたのですが、50ヵ所に減らしました。ごみの総量が減って街中に捨てられるごみも減ったので、夜中に町内会の人たちが掃除をしなくて済んだ所が増えているのです。

亀岡市にも祇園祭を小さくしたような規模の亀岡祭がありますが、リユース食器を地元の人たちが導入しています。容器を100円で貸し出し、食べ終わって返すと100円を戻すデポジット(保証金)制で、デポジットの返金場所には募金箱を置いています。皆さん、一回財布から出たコインはどうでも良いのか、募金箱に入れてくれるのです。そのお金が、祭りに役立つのなら一石二鳥です。

リユース食器の利用はとても楽なのです。イベントをやると役員さんがごみを処理したり、食器を家に持って帰って洗ったりしなければならないのですが、リユース食器を使うことで、作業が楽になるのは大事な要素だなと思いました。

そして、ごみが目に見えて減ったということを、誰もが確認することができるのです。それを知ってしまうと、多少お金がかかっても、もう元には戻れないでしょう。皆ができることを持ち寄って行動したら、きっとできるのだと思います。

原田 禎夫(はらだ さだお)さん
1976 年、京都府亀岡市生まれ。大阪商業大学経済学部准教授。海ごみ問題について、地域からの課題解決に取り組む。京都・保津川をフィールドに川の文化の伝承に取り組む。「NPO 法人プロジェクト保津川」代表理事。

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