環境条約シリーズ 330 中央北極海無規制公海漁業防止協定

2019年09月17日グローバルネット2019年9月号

前・上智大学教授 磯崎 博司

地球温暖化の影響は北極海に及んでおり、海氷の融解により海面が現れる区域および期間が増えている。夏季の海氷面積は1980年代以降減少しており、現在では20世紀後半の約60~70%にすぎないとされる。北極海沿岸5ヵ国(アメリカ、カナダ、ロシア、ノルウェー、デンマーク)の排他的経済水域に囲まれている中央部の公海でも海氷の減少は生じている。

北極海の沿岸域にはタラやカレイの漁場があり、海氷の減少による漁場の拡大が期待されている。ただし、北極公海では、現在は商業的な漁獲は行われていない。同公海の魚種や資源量は不明であるが、海氷下にタラ類などの生息が推定されている。

しかし、北極公海に適用される国際制度が存在しないため、無規制漁獲による生態系への悪影響が懸念された。それを受けて、2015年7月に沿岸5ヵ国は、中央北極海無規制公海漁業防止宣言を採択した。2015年12月からは、5ヵ国に日本、中国、韓国、アイスランド、EUを加えた9ヵ国・1機関により、中央北極海無規制公海漁業防止協定の検討・交渉が始められ、それは、2018年10月3日にデンマーク領グリーンランドのイルリサットにおいて採択・署名された。

その対象である北極公海は、地中海(250万km2)より広く約280万km2に及び、地域漁業管理機関等が定める資源管理措置に基づく商業漁獲のみ許可される。そのような地域機関や管理措置は存在しないため、漁獲のためにはそれらの新設が必要となる。締約国には、地域機関の設立交渉の開始を検討すること、また、2年以内に科学調査と監視に関する共同計画を策定することが義務付けられている。このような商業漁獲開始前の予防的規制措置は、南極アザラシ保存条約や南極海洋生物資源保存条約にも定められていた。

この協定は、上記9ヵ国・1機関すべてが締結してから30日で発効し、16年間有効である。日本においては、2019年5月17日に国会承認され、7月23日に受諾書がカナダ政府に寄託され、7月26日に公布された(条約第7号)。

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