地球温暖化と台風~その関連性と災害リスクへの対応~モザンビーク北部に初上陸した巨大サイクロン

2019年08月16日グローバルネット2019年8月号

一般社団法人モザンビークのいのちをつなぐ会 代表理事、モザンビーク事務局長
榎本 恵

世界ではここ数年、強い熱帯低気圧による被害が増加しています。一方、日本国内でも、強い台風が上陸することはほとんどなかった北海道にまで、台風が勢力を維持して移動するなど、自然災害のリスクが年々増大しています。
これらはいずれも地球温暖化との関連が指摘されていますが、果たしてどうなのか。最新の温暖化研究の動向、そして、海外の被災地の様子や日本国内での事例について紹介し、今後このような異常気象にいかに対応し、どんな対策を講じることができるか考えます。

 

死者600名以上。2019年3月、サイクロン・アイダイがモザンビーク中部ソファラ州の州都ベイラを襲う。その1ヵ月後には、私が居住し活動を展開するモザンビーク北部カーボデルガド州にサイクロン・ケネスが初上陸した。幸いにも死者数は43名にとどまった。

1970年代に衛星観測が始まって以来、初の巨大サイクロン

カーボデルガド州の州都ペンバを拠点に活動を始めたのが2012年。以来、ペンバに居住しているが、ここ数年、気候変動の影響と見られる雨季の時期の変化を感じている。

そこに突然やって来たのがサイクロン・ケネスである。ケネス上陸の1ヵ月前には中部の都市ベイラをサイクロン・アイダイが襲い町を破壊的な状況へと一変させた。モザンビーク、マラウイ、ジンバブエにおける死者は千人を超え、その被災状況は国際ニュースでも大々的に取り上げられる規模であった。

モザンビーク中部は度々暴風雨の被害に遭っている。4年ほど前は中部を襲ったサイクロンによりインフラが破壊され、中部および北部エリア全域が3ヵ月以上停電。私はその数ヵ月間は、発電機のあるペンバ唯一の高級ホテルに毎日通い仕事をせざるを得なかった経験もある。

しかし、北部にサイクロンが上陸することがあろうとは思いもよらなかった。

しかも当会事務局にはテレビもなく、サイクロン上陸2日前に、学校に勤務する女性から「サイクロンがペンバに来る!」と連絡があり、そこで私は初めてサイクロンが近づいていることを知ったのである。4月中旬から当会ペンバ事務局の改修中で、事務局には職人さんたちがいたが、誰一人としてサイクロン情報を知る者はいなかった。

私はすぐにインターネットで北部に近づいているサイクロン情報を入手。まだその規模はカテゴリー1とか2のレベルであり、大きなサイクロンには成長しないだろうと高をくくっていたのだが、私の予想に反して、サイクロン・ケネスはカテゴリー4まで巨大化し、私の住んでいる町ペンバを襲ってきたのである。

モザンビーク観測史上初のカーボデルガド州上陸となるサイクロン。かつ、ケネスは国内観測史上最大級のサイクロンとなった。

サイクロンが近づいてものんきなスラムの住人たち

ペンバは広大な美しい湾を抱える町である。川は流れていない。この川がないことが慢性的な水不足をもたらしている一方、今回のサイクロンに関しては、幸運にも川の洪水による大被害を受けた中部ベイラのような被災者数を出さずに済んだ理由となっている。

海が近いがゆえに、ペンバでは何よりも暴風でスラムの家々のトタン屋根が飛ばされる可能性が大である。私は近所の家を回り「屋根の上にブロックや土のうを載せて、雨が降る前に扉の前にも土のうを置いておくと良いよ」とアドバイスしたが、のんきな住人は「来るものは、来る。神に祈るのみ」と、何の備えもせずに、平常時の営みを続けている人が大半。中には年配のおばあちゃんが備蓄する食料を買って来ているのを見て、「大げさだよね」と嘲笑する若いママさん連中もいた。

ついに、サイクロン上陸。カテゴリー4の巨大な猛威を振るったケネスは、さっと過ぎるわけでなく停滞し、1週間以上にわたり現地にこれまでにない暴風と長雨をもたらした。

事務局のあるスラム・ナティティ地区は腰の高さまで全面浸水し、多くの家が倒木や暴風により倒壊。家に入ってきた水で、家財が流された人も多数であった。

浸水した事務局のあるナティティ地区の家屋

大雨がやんで外に出てみると、事務局の目の前の家も全壊してしまっていた。現地は竹と石と土を基礎とした伝統的な家屋建築であり、倒壊しやすい。お金がある人は、何年かかけて竹と石と土の基礎の上にセメントを塗って強度をもたせる。崩壊した大半の家は、セメントを塗っていないもろい構造のままの家屋であった。

そして、再建。現地は親類も含めた大家族制度なので、困ったときはお互いさま。日本に比べて頼れる場所が多い。

親類や友人の家に寝泊まりしながら、壊れた家を直す人たち。また大雨後に土手で入手できる土をかき集めて、家造りをしている人たちに販売する子供たちで、スラムは和気あいあいとサイクロン後の復興、いや、もっとポジティブなフェスティバルを謳歌していた。そこにはニュースの一面を飾る「悲壮な顔をした人」は一人もいない。

いつも、何とかなるさ、という強さがここにはあるのだ。

倒木により友人宅も半壊

これまで皆無の、防災教育 当会の新たな取り組み

モザンビーク北部はいまだ毎年雨季にコレラが発生している。サイクロン後もやはりコレラ患者が急増。5月になってからユニセフの支援でスラム地区にもコレラワクチンの経口摂取プロジェクトが実施された。だが、政府が外国から支援金を入手するためにコレラをばらまいている、といううわさが前々からあるため、疑心暗鬼になってワクチンを拒否する住民もちらほらいた。

当会ではサイクロン後すぐに各家庭で石灰を配布。また当会のスラムの学舎・寺子屋で、子供公衆衛生教育を開始し、せっけんを配布し、手足を洗う習慣を徹底したこともあり、当会に通う子供たちからコレラの発生は一人もいなかった。

また、今回のサイクロンに対する海外からの億単位の支援金のニュースを毎日目にしたが、被害が最も大きかった農村地区でさえ、配給された食料が1家庭米1㎏と1日もたない量であった。当会も農業活動で収穫した米をストックしている倉庫が全壊したが、食料と衣料配給も緊急支援として実施。ここでも、汚職文化のある土地では、直接的な支援でないと現地に届かないという実態がまざまざと浮かび上がった。

気候変動の影響によるサイクロンの発生・上陸は今後も増えていくと思われる。当会では、新たな取り組みとして、懐中電灯やろうそく、保存食等の非常用品の備え、天災発生時の過ごし方や避難場所の確認、天災後の公衆衛生の在り方等を学べる「防災教育」も今後実施していく予定である。

リスクを管理するという次なる頭の使い方が、将来を考える力にも結び付くのではと期待している。

タグ: